12:新しい巣です。
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「く…っ」
1階の自動販売機からパックのストレートティーから取り出した因幡は、未だに残る筋肉痛に顔をしかめた。
着慣れない患者服と、頭と体のところどころに巻かれた包帯も鬱陶しそうに爪で引っ掻いたりしている。
現在、因幡は5日間の入院を強いられていた。
黒狐に辛勝したあと、家に帰るとすぐに病院に連行されてしまった。
神崎と姫川は治療を受けただけで済んだが、因幡の場合、打撲と裂傷が酷く、内臓にもダメージが見られた。
「よくこれで歩けたものだね」と医者が呆れ返るほどだ。
因幡は「入院なんて嫌だー」と担架の上で暴れていたが、石矢魔総合病院最強のごつい看護師が関節技でそれを黙らせた。
それを見ていた神崎と姫川も顔を青くしていたそうな。
その時のことを思い出し、因幡はパックを握りしめた。
(たった2日でストレスが爆発しそうだ…。2人が逃げ出したくなるのもわかる気がする…)
なんとなく入口の方を一瞥したとき、
「安静に!! …お願いします」
「!!?;」
例の看護師がカルテを手に、因幡の背後を通過するなりこっそりと警告され、驚いた因幡はばっと振り返り、背中を自動販売機にぶつけた。
「も…、もちろんでーす…」
看護師は不敵に笑い、廊下を渡っていく。
「心臓に悪ィ…。ナースのクセに患者の寿命を縮めてどうすんだ」
とりあえず落ち着こうと、自動販売機に背をもたせかけ、パックにストローを刺して中のものを飲みだす。
「……………」
(…伏見を倒す時…、ほとんど意識がどこかにブッ飛びかけた…。あの時と同じだ…。イマイチ達成感がねぇのが気持ち悪い…)
伏見を倒した時のことと火傷を負った時のことを重ね、もやもやした気持ちに駆られた。
「…はぁ。あー…、早く退院してぇ…」
飲みきったパックを自動販売機の隣にあるゴミ箱に捨て、廊下を渡り、付きあたりにあるエレベーターのボタンを押した。
因幡の病室は、803号室。
個室部屋だ。
エレベーターの扉が開いて乗り、8階のボタンを押したとき、廊下の向こうから「そこのエレベーター、待ってくださーい」と廊下から声が聞こえた。
「…!」
気付いた因幡は「開」のボタンを押しっぱなしにして相手を待つ。
入ってきたのは、車椅子に乗った、同じ年頃の男だった。
因幡と違って私服を着ている。
「…何階?」
「あ、5階でおねがいします」
「……………」
因幡は黙ったまま5階のボタンを押した。
扉が閉まり、エレベーターは上昇する。
到着を待っている間、因幡は横目で車椅子の男を見た。
毛先は金髪、残りは黒髪で、端正な顔立ちに、見えているのかと聞きたくなるほどの細目の持ち主だ。
エレベーターが5階に到着し、扉が開く。
因幡は「開」のボタンを押したまま、相手が出るのを待つ。
だが、相手はまったく動かない。
「……伏見から話は聞いているよ」
「!」
男は因幡の方に顔を向け、「一緒に下りてくれるかい?」と優しい笑みを浮かべながら言った。
因幡の中でそれが決定的な確信となった。
「……おまえが…、稲荷秋久か」
車椅子の男―――稲荷はただ静かに頷いた。
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