11:蹴り、つけました。
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「見ろ。黒い狐があのザマだ」
言われるままに下を見下ろすと、立ちうちできないと状況を理解した黒狐のメンバーが次々と情けない姿で逃げ去っていく。
すっかり熱が上がっている石矢魔の不良達はそれを追いかけたりしている。
なによりも豊川が目を疑ったのが、こちらを一瞥して逃げる者がいたことだ。
「全部てめーひとりが勝手に盛り上がってただけだ」
突きつけられる現実を前に、豊川は混乱する。
「そんな…、稲荷さんがいた頃は…」
稲荷がいた頃は、仲間を真っ先に助けに来るものがほとんどだった。
いつから、こんな結束のないグループになってしまったのか。
それは薄々思っていたことだった。
今、それが目の前にはっきりと顕れている。
「てめーは稲荷の代わりになれなかった。それだけだ。てめーが…、バラバラにしちまったんだよ」
姫川は指が徐々に動かせるようになったのを確認しながら冷たく言い放った。
「そ…んな…、うわっ」
ガクン、と背後が下がった。
豊川の視界には神崎と、その背景には暗い空が映っている。
今、胸倉をつかんでいる手を放されてしまえば、真っ逆さまに落下するだろう。
暗がりでもわかる本気の目の神崎に、戦慄を覚える。
「やらたらやり返す。しかも、倍返し。結構なことだ。…けど、てめーはひとつ計算違いしてるぜ」
「は…?」
「…あいつが「男」名乗ってんなら気持ちはわかる…。あいつは、「女」の体に火傷を負っちまったから悔しいんじゃねえ。てめーらは気を遣ったようだが、それ自体があいつにとって屈辱だった。しかも、「男」にとって一番の屈辱が背後の傷だ。負け犬の傷だ。顔面の火傷だけじゃ足りねえんだよ!!」
「ひ…っ!」
また高度が下がる。
夏に関わらず冷えた風が豊川の首筋を撫でた。
「なのに、てめーはいつまでも女々しくズルズルとここまで来やがって…。…いっぺん、死ぬ気で目ェ覚めてみるか?」
「や…、やめろ…。し…、死ぬ…」
「オレも4階から落ちちまったけど、たった1ヶ月でこの通りピンピンとしてんだ。てめーを支えてるこの右手も治ったばかりだ」
それを聞いて豊川の顔が完全に蒼白になり、体が震えた。
神崎は口端に笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「たったの1階違い。運が良くて半年以内の入院だ」
「やめ…、やめて…くれ…」
豊川は恐怖のあまり涙を流した。
「「やめてくれ」? てめーはそう言って、やめたことあんのか!!?」
「ごめんなさい…! ごめんなさ…」
「遅ェ」
神崎がその手を放そうとしたとき、
「神崎…」
横から右手首を優しくつかまれた。
「やりすぎ」
「…!! 因幡…」
因幡に止められた神崎は豊川を引っ張り、屋上に放り捨てる。
豊川はその場に泣き崩れてうずくまり、「ごめんなさい…」と懺悔し何度も言った。
「因幡…、大丈夫か? 血まみれじゃねえか」
「あの巨人には勝ったんだろうな?」
神崎に続いて姫川の言葉に、因幡はよろめきながらも笑みを見せ、ピースする。
「当然」
「…階段から蹴り落としたとか?」と神崎。
「窓から蹴り落としたとか?」と姫川。
「直接だっての! オレってどんなに卑怯者!?」
そうは言ってもそれより酷い前科がある。
足が回復した姫川もよろめきながら立ち上がり、ズボンとシャツの汚れを払った。
「それで、そいつ、どうするわけ? 決着は?」
「…ああ」
3人の視線は未だ幼児のように泣き崩れている豊川に集まる。
因幡はゆっくりと豊川に近づき、その傍に落ちてあるものを拾った。
豊川の携帯だ。
因幡はそれを神崎と姫川に見せつけ、ニッと笑う。
「けりはつける」
そう言うと、携帯を手放し、宙を落下する携帯を屋上の向こうへ蹴り飛ばした。
綺麗な弧を描いたそれは、夜の闇へと消えていく。
「…帰ろうぜ。…オレ達、石矢魔の勝ちだ」
「はぁ…。甘ぇんじゃねーの?」
「意外とお優しい」
「これでいいんだよ…、ととっ」
因幡は足のバランスを崩しかけ、その場に転びそうになったとき、神崎と姫川に同時に両脇を支えられた。
「しっかりと歩けよバカ」
「おまえもフラフラじゃねーか」
「わ…」
「悪い」と言おうとしたとき、3人は同時にその場に倒れた。
「……人のこと言えねぇな…」
3人は同時に声を立てて笑い、協力して立ち上がり、ヘタクソな二人三脚のように歩きながら校舎をあとにした。
.To be continued