10:蹴り、つけてきます。
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夕方、石矢魔町の片隅にある木造廃校舎は、黒狐のアジトとなっていた。
そのグランドには、88人の黒狐のメンバーが集結していた。
その中心には伏見と豊川がいる。
廃校舎にあった椅子に座る豊川は、左頬にガーゼを貼りつけた顔を左手で覆い、宙を憎々しげに睨み、手元の鉄パイプの先端で足下の地面を削っていた。
それを見ている誰もが刺激させてはならないと緊張している。
その近くに転がっているのは、因幡の家からすごすごと帰ってきて豊川から制裁を受けた不良達だった。
「豊川…、大丈夫か…」
豊川の横に立つ伏見は、見下ろして言った。
豊川は血走った目で伏見をギロリと睨む。
「んなわけねーだろ伏見よォ…。あいつ…、誰っつってたっけ? 神崎一だぁ? あのヤロウ…、絶対許さねぇ…! 因幡ともども骨格が変形するくらいにボコボコに撲ってやるよ…。それが黒狐のやり方だ…。そうだろ伏見…!」
「……………」
伏見はなにも言わず、再び正門を見据えた。
「…!」
すると、正門から人影が見え、伏見は「豊川…」と声をかける。
その場にいる全員が正門に注目した。
人数はひとり。
ゆっくりとした足どりでこちらに近づく人物に、豊川は口端を吊りあげ、腰を上げた。
「……因幡…!」
髪を下ろした頭には包帯、頬にはガーゼと昨日の傷が残っている。
服装は黒のタンクトップにズボンといったラフな格好だ。
昔、因幡に病院送りにされた者は早くも武器を構えた。
それを見た豊川は「待て」と手で全員を制した。
一定の距離を置き、因幡が足を止める。
「…素敵な手紙をどうも」
因幡はポケットから皺だらけの紙を取り出し、見せつけた。
それは、家の郵便受けに入っていたものだ。
「内容はわかってんだろうな?」
「……ひとりでこい。さもないと、てめーの関係者をあぶり出して全員潰す。…だっけ? オレひとりリンチにすれば気が済むのか?」
「……済むわけねーだろが」
豊川は鉄パイプの先端を地面に叩きつけた。
その顔に、いつもの余裕の笑みは貼りついていない。
それを見た黒狐のメンバーは豊川の逆鱗に触れないようにと思わずたじろぐ。
「まずはオレ達に土下座だ。そのあと、てめーのお友達の情報、洗いざらい吐いてもらおーか。そうすれば…、まあ…、そのお綺麗な顔だけは勘弁してやるよ」
「……わかった。…頼む…! その代わり、オレの家族だけは手を出さないでくれ!」
顔を伏せて懇願する因幡の姿に満足したのか、豊川は再び笑みを浮かべた。
「いいよ。…てめーもいい加減懲りたろ。オレ達黒狐に手を出したのが…」
「なーんて言うかバァーカ」
次の瞬間、顔を上げた因幡は挑発的に舌をベッと出し、中指を立たせた。
「…は?」
面食らう豊川の額に、大きな青筋が浮き上がる。
因幡はその顔を面白がりながら、持っていた手紙をビリビリに引き裂き、宙に投げた。
「関係者全員…? くくっ、この高慢ちきどもが…」
「なにがおかしい!? てめー、わかってんのか!? これが最後のチャンスだっつってんだよ! 条件をのめば、オレらの気が済むんだ! それをてめーは…!! ヘンな意地で全部台無しにしようとしてんだぞ!!」
「…前のオレなら…、たぶんそうしてたかもな。…けど、不良は、ナメられたら終わりだ。オレはもっとこっちで不良やっていたいからさ、そんなふざけた条件はのめねーよ」
因幡は頭の包帯を解き、髪を掻きあげてオールバックをつくり、言葉を続ける。
「それに…、ヘンな意地張ってんのは、てめーの方だろ」
強く歯を噛みしめた豊川はポケットから携帯を取り出し、通話ボタンを押してから耳に当てた。
「稲荷さん…、因幡が来ました…。ええ…、…「全員潰していい」だってさ」
通話停止ボタンを押し、因幡と目を合わせる。
「因幡…、もうちょっと賢い奴かと思ってた。黒狐は総勢108人。昔よりだいぶ戦力が増えた…。そいつらを全員敵にまわしたんだぞ…!」
ついに黒狐全員が武器を手に取った。
だが、因幡は変わらず平然としている。
「108…ね」
「そうだ…! いくらてめぇでも、この数に…」
「全然足んねえよ。あと1000匹連れてこい」
「な…?」
なぜそんなに余裕でいられるのか。
すると、遠くの方で地鳴りが響いた。
それがだんだんこちらに向かっている。
豊川だけでなく、他の黒狐のメンバーも何事かと辺りを見回している。
「…不良はナメられたら終わりだって言ったよな? その考えた方、この町の奴らはわかってくれてるようだ」
「!!?」
正門の向こうに、土埃を立たせながら走ってくる大量の人影が見えた。
全員、凄い剣幕で威嚇のごとく叫び、手には得物を持っている。
その数、軽く100は超えていた。
「な…、なんだ!? 誰だ、あいつら!?」
明らかに動揺を見せる豊川に、因幡は答える。
「天下、石矢魔高校の不良共だ」
「うおおおお! 黒狐ってのはあいつらかああああ!?」
「ブッ殺してやる!!」
「石矢魔ナメんなオラアアアア!!」
その数に黒狐のメンバー達も顔面を蒼白にしている。
「うちの学校はバカばっかだからさ、黒い狐なんざただの犬っころの集まりにしか見えてねーよ。…そんなバカの集団が一番コエーと思わねえか?」
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