09:独りぼっちじゃありません。
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「桃のお友達? あらあら、男の人が4人も…」
しばらくして、姉の桜も大学から帰ってきた。
因幡以外の不良が物珍しいのか、桜は神崎達をじろじろと見る。
「おまえの姉!!?」
似てない姉に驚いて指をさす姫川に、ようやく泣きやんだ因幡は目を腫らした顔で小さく頷いた。
「わぁっ、この頭、なんていうんですか!? どうやって作るんですか!?」
姉は姫川の髪型が珍しく、思わず声を上げた。
姫川は誇らしげにリーゼントの云々を説明し始める。
その様子を見つめながら、因幡はひとりホッと胸をなで下ろした。
(黒狐が家に攻めてくるかと思ったけど、姉貴も無事でよかった…)
父親は出張であと2日は帰ってこない。
もしこの光景を見てしまえば、あの娘バカの父親がなにをするかわかったものじゃない。
元・石矢魔の不良なので相手がケガを負っていようが問答無用で金属バッドを振り回すかもしれない。
想像しただけで、因幡の顔が青くなる。
「…よし、とりあえず全員集まれ」
姫川は携帯を手に召集をかけ、その場にいるメンバーが言う通りに姫川を中心に集まる。
「…明日、決着をつける。どうせなら…、相手が戦意喪失するほど、派手にケリつけてやろーぜ」
姫川は悪だくみの笑みを浮かべ、考えを口にした。
時間は深夜2時。
神崎達は1階のリビングに敷かれた布団で寝ていた。
ソファーで寝ていた因幡は全員が眠ったことを確認し、ゆっくりと身を起こし、全員が目を覚まさないように忍び足でリビングを出て、暗い廊下を渡り、玄関へと向かった。
「…!」
手探りで自分の靴を捜すが、神崎達の靴と一緒に並べておいたそれが見つからない。
「どこへ行くの?」
「!!」
驚いて振り返ると、寝巻姿の母親が立っていた。
その手には、因幡の靴があった。
「…ケリをつけに行くために…。…まだ、姫川の作戦だけじゃ足りないんだ…」
暗がりでもわかる、その真っ直ぐな瞳を見た母親は、ふ、と笑い、因幡の靴を差し出した。
「…靴紐、新しいのに替えておいたから…」
「ありがとう」
受け取った因幡は、早速それを履いて紐を結ぶ。
「……他の靴じゃダメなの? 何度も、新しいの買ってあげるって言ってるのに…」
背後の母親の声に、因幡は紐を結びながら言う。
「…これがいいんだ。オレにとって、お守りみたいなものだから…。オレが欲しいってワガママ言って買ってもらったものだし…」
「そうね…。靴の裏がウサギのマークでカワイイからって、サイズ大きいにも構わず、買ってあげたんだっけ…」
小学生の頃の話だ。
因幡は今でもそれを履き続けている。
最初はぶかぶかで歩きにくかったそれも、今ではしっくりと合っていた。
因幡は立ち上がり、とんとん、と爪先で床を叩き、扉の取っ手をつかんだ。
「すぐ戻ってくる。…行ってきます」
「うん。いってらっしゃい」
母親は笑みを向け、手を振り、因幡を見送った。
扉が閉まったあと、胸ポケットの万年筆から小さなホタルのような光が飛びだし、母親の周りを漂う。
“…いいのか?”
母親は耳元で囁かれたその声を聞く。
「母親は黙って子どもの成長を見守りたいものよ」
“フン、そう言って、わっぱ相手にワシの力を使ったではないか。母親とはよくわからん生き物じゃ”
「あれはさすがに、私も腹が立っちゃってね。これ以上はなにもしないわ」
“…放っておけば、また昔のように制御ができなくなってしまうぞ。アレはおまえより素質があり、厄介だ”
「………あのコは、友達に裏切られても、消えない傷を負っても、退学しても、絶対に泣くことはなかった…。なのに…、あんなに小さな子どもみたいに泣いて…。いい友達も見つけたようだし…、好きにさせてあげたいの」
“……………”
「それより、私が今することは…、“神崎君達の仲良くおねんね写真”をゲットすることよ!!☆」
母親は後ろポケットからデジカメを取り出して構え、変質者のごとく息を荒くする。
“コハル…。おまえは母親としてどうこうより、人としてどうなのだ”
「シロト。なにがあっても、あのコなら大丈夫。私の娘だもの…」
“……おまえとの別れも、近そうだ。おまえとしては、不本意なことだろうが…”
そう言って、シロトと呼ばれた小さな光は、また万年筆へと戻っていった。
満月の夜、過去の決着に向けて、因幡は町を駆けた。
.To be continued