09:独りぼっちじゃありません。
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話が終わり、その場を沈黙が支配する。
「え…と…、まあ…、そういうことがあって…、石矢魔に引っ越してきたってわけなんだけど…」
「因幡…、おまえ…」
城山はシーツをつかみ、体を小刻みに震わせていた。
「女だったのかっっ!!?」
「まず驚くとこそこかーい」
衝撃の真実に城山は驚きが隠せない様子だ。
対して、他の3人は平然としている。
「オレは姫川から聞かされてな」
「調べりゃ一発だ」
「オレは最初から気付いてたけどね」
「「「「はぁ!!?」」」」
全員が驚いた瞬間だ。
「え…、いつ…!?」
動揺を見せる因幡。
夏目は「ははっ」と笑って答える。
「だから、初めからだって。あの泣きそうな顔、女の子独特…」
「おまえ凄いな!! なんでオレ達には言わなかったんだ!?」
傷の痛みなど忘れたかのように怒鳴る神崎に、夏目は笑みを浮かべたまま、「んー」と考える仕草をし、人差し指を立てて一言。
「面白そうだったから」
((((こいつ…))))
長い付き合いになるが、神崎ですら夏目の思考は読めなかった。
夏目は「まあまあ、神崎君と姫ちゃんもオレ達に内緒にしてたし、おあいこおあいこ」となだめるように言う。
「…つうか、おまえら、過去のことは突っ込んでこねーのかよ…」
「てめーの過去なんざどうでもいい」
「!」
神崎は本当に興味がないように、しっしと手を払った。
姫川はサングラスを上げて言う。
「そうだな。…とりあえずわかってんのが、黒狐は完全にオレ達を敵に回したってことだけだ」
「おうよ。因幡、リベンジだ。そんな過去ごと奴らを1発叩きのめしてやろーぜ」
「オレなら1発じゃなくて100発はくれてやるがな」
「ならオレは1000発だ!」
「…あ、やっぱ5000発」
「間違えた、10000だ」
「20000!」
「50000!!」
「そこで張りあってどーするの」と夏目のツッコミ。
「とにかくフルボッコだ! 因幡! このオレが知恵を貸してやる」と姫川。
「嫌でも協力しろ!! 2度とちょっかいだしてこねーように、神崎さんの恐ろしさを体の芯まで叩きこんでやる!!」と神崎。
(協力しろって…、オレの問題だったのに…)
「…っ」
気付いたら、因幡の目から涙が溢れ出た。
それを見た神崎達はぎょっとし、慌てる。
「き、傷に障ったか?」
心配して声をかける神崎に、因幡は首を横に振り、止まらない涙を何度も何度も手の甲で拭った。
「…っ、あ…っ、ありが…とう…っ」
そこから先は大泣きだ。
きっと傷が痛むからだと神崎はコットンで何度も因幡の涙を拭ってやるが小さなコットンだけでは足りない。
姫川は包帯を持ってどこの傷に巻いたらいいのかと迷い、城山は意味もなく慌てている。
夏目はそれが嬉し泣きだということはわかっているため、なにもせずに微笑ましく眺めていた。
その光景を見ていた母親は、ひとり静かにリビングを出て玄関からと外へと出た。
そこには黒狐の数人のメンバーがたむろしていた。
ちょうどインターフォンを鳴らす前だった。
「どちらさま?」
母親は笑顔で尋ねる。
「因幡桃矢君のお友達でーす」
「お姉さんっスか?」
「ここに逃げ込んでるのはわかってるので、出してもらえませんか? 石矢魔の奴らと一緒に」
不良たちは得物を構え、今にも因幡家に攻め入らんとしている。
凄む彼らに、母親は怯えた顔も見せず、首を傾ける。
「もしかして、桃矢ちゃんと神崎君、姫川君をいじめたの、あなた達?」
「そうでーす」
「ボク達がいじめちゃいましたー」
そう答え、下品な笑い声が上がる。
「ご近所の迷惑になるので、お引き取り願いませんか?」
そう言って、母親は胸ポケットから万年筆を取り出した。
いつまでも平然とした態度をとる母親に、不良達の苛立ちが募る。
「はぁ?」
「姉ちゃんだからってナメてると拉致っぞ。ああ?」
母親は万年筆の蓋を取り、不良達に向ける。
「お引き取りください」
そう言った母親の、開けた瞳は真っ赤に染まっていた。
母親の戻りが遅いことに心配した春樹は、様子を見に玄関へと向かった。
すると、ちょうど玄関の扉を閉めて家の中に入ってきた母親とでくわした。
「…客?」
「ううん、病院への行き方を尋ねられただけだった」
怪訝な顔をする春樹だったが、母親は笑顔のままその横を通過し、リビングへと戻って行く。
その頃、因幡家へと続く坂道のスタート地点では、不良達が壁に激突して苦しげに呻いていた。
「な…、なんだあの女…!?」
「一体なにが…」
不良達は信じられない光景を目にしていた。
季節は夏だというのに、坂道が凍りついていたのだ。
母親に万年筆を向けられた途端、突然因幡家から滑り下り、そのまま壁に激突したというわけだ。
「バケモノ…!」
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