95:物語は、終わりません。
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連絡を取り合い、二葉を連れた神崎は姫川と合流した。
向かう先は母校・石矢魔高校だ。
「夏目と城山、少し遅れるってよ」
「そっか。…あいつは?」
ラインで確認すると、すぐに返ってきた。
「「今向かってる」らしい」
「桃も来るのか!?」
久しぶりなので二葉の表情がぱっと明るくなる。
「ああ。遅刻しなかったらな」
「そーいや、修学旅行の時も大遅刻だったな」
「あったな。懐かしいぜ…。そんで、高速道路を爆走して、走行中のバスに乗り込んできたっけな」
「あいつも相当な非常識だったな」
「それから飛行機に乗った時の慌てぷりっつったら…。くくっ」
「「降りるー」って喚いてたもんな」
当時の事を思い出すだけで笑いが込み上げた。
「なーんの話してんだ?」
「「「!」」」
上から声が聞こえた。
見上げようとすると、その前に、行く手に人影が着地する。
「よう!」
「桃っ」
因幡とわかると同時に、二葉が腹に飛びついて来た。
後ろに倒れそうになるのを堪え、抱きとめる。
「お! 二葉ちゃんっ。また大きくなった?」
ツインテールは相変わらずだが、髪と身長が伸びていた。
因幡が軽々と両脇を抱えて持ち上げるのは、今では難しいだろう。
それでもまだ腰までの位置にある小さな頭を撫でる。
「おまえ噂では樹海彷徨ってたって聞いたぞ」
「どこで聞いたんだよ」
姫川の情報網は侮れない。
社会に出てから余計に敏感になっている。
「いい写真は撮れたのかよ」
「まーね。今回も自信作」
カメラを取り出し、画面を見せる。
景色や動物の写真ばかりが残っていた。
二葉にもカメラを渡して見せる。
「かわいいなっ。なんだこれ」
「モモンガ。山登ってる最中に見つけた」
動物の写真は二葉にも高評価だ。
「景色の次は、何を撮るつもりだ?」
写真集の事を思い出した神崎は尋ねた。
「次は…、人を撮ろうかなと思って」
「へえ?」
「人にしかない景色があるんだよ。前から撮ってみたかったんだ…。とりあえずは石矢魔を中心にまた活動するつもり」
「まあ、おまえならできるだろ…。嫌いじゃないしな、おまえの撮る写真」
姫川も、写真集の事を思い出した。
因幡が真剣に撮った写真には、その時の感情や、温かさが伝わってきて、空の写真ならば雲が動き出すような、木々の写真ならば風が吹いて木漏れ日が揺れるような、そんな感覚にさせられる。
危険地帯に行くたびに、誰も撮ったことがない景色も撮ってくるので、将来は有名な写真家になるだろう。
「そういや、神崎と姫川も、あつあつラブラブに…」
ゴッ
久々の、愛のこもったダブルゲンコツだ。
「二葉の前で言うなっつったよなぁ?」
「放り出してやってもいいんだぜ? お隣さん」
「うぐぐ…」とタンコブを押さえる因幡は、上目遣いで姫川を見上げる。
「正確には、お隣のお隣さんですが…;」
「口答えするな。管理人はオレだぞ」
石矢魔高校を卒業して家を出た因幡は、姫川のマンションに在住していた。
気を遣って、神崎と姫川が共同で使っている部屋からは、間を空けて住んでいる。
たまに痴話喧嘩が原因で神崎がやってくる時もあった。
「なんだ、なんの話してんだ?」
「言ったら殺される…」
「気にしない気にしない」と二葉から隠す。
「桃、ここを押したら撮れるんだよな?」
「うん」
「重い」
「ははっ」
大きなカメラは二葉にとっては重量感がある。
それでも気に入ったのか、首にぶら下げてポーズをとった。
「家には寄ったのか?」
「一応電話だけ。終わったら、ちょっとだけ顔出すつもり」
気に掛ける神崎に返し、4人は先を進みだす。
「早いもんで、男鹿達も卒業か」
「泣かないといいな」
姫川にからかわれるように言われ、恥ずかしげにムッとして「泣かねーよ」と言い返した。
「自分の卒業式でも号泣してたじゃねーか」
「花粉症ですー」
神崎に指摘されて思い出すだけで赤面し、見え見えのウソをついた。
「……本当に、早いな…」
2年前の事が、つい最近のようにも感じた。
「っと…」
遠くで石矢魔高校が見えて来た時、靴紐が緩んでいることに気付き、しゃがんできゅっと結び直した。
顔を上げると、声もかけていないのに、神崎と姫川が立ち止まって待ってくれている。
「因幡」
「行くぞ」
「うん」
口を緩ませた因幡は、神崎と姫川の間に入って腕をとり、少し急ぎ足に歩きだした。
男鹿達が卒業しても、また何かが始まるかもしれない。
春風がそんな気にさせるのだ。
カシャ、とシャッターが切られた。
二葉がそんな3人を撮ったからだ。
シャッター音に気付いた因幡達が振り返り、いたずらっぽく笑う二葉に向かって、笑顔でもう一度シャッターを切った。
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