95:物語は、終わりません。
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石矢魔病院・産婦人科の病室には桜が入院していた。
「うーあっ」
「楓(かえで)ちゃ~ん。おじいちゃんでちゅよ~」
桜に似て茶髪の楓と言う赤ん坊を抱き上げ、赤ちゃん言葉であやしているのは仕事へ向かう途中に病院に立ち寄った日向だ。
今では副社長まで昇進し、さっぱりとした短髪で、口ひげを生やしている。
「うー」
楓は日向の頬をつかみ、伸びる皮膚が面白いのかはしゃぐ。
痛いはずなのだが、日向は物ともせずに「やんちゃでちゅね~」と我が孫を可愛がった。
女の子なので人一倍甘やかされて育つことだろう。
「父さん、桃ちゃんの時とおんなじ」
病室のベッドで半身を起こす桜は、やれやれといった様子でその光景を眺めていた。
長かった髪は肩まで切られ、今は大学を休学して入院中だ。
あと少しで退院できると医師から聞かされている。
「あら、桃ちゃん」
病室のドアを開けたまま立ち止まっている因幡に気付く。
ドアを開けて突っ立ったまま入ってこようとしないので、「どうしたの?」と首を傾げた。
「入るかどうか迷った」
傍から見れば恥ずかしい、孫にデレデレの日向に戸惑ってしまったようだ。
「おねーちゃんでちゅよ~」
「正確には叔母だけどね」
「うーうっ」
両腕を広げる前に、楓が因幡に両手を伸ばした。
「ほーら楓ー」と楓を抱き、ゆりかごのように揺すってあやす。
「気分はどう?」
「うん。順調」
「仕事の方はどうだ?」
日向に聞かれ、苦笑いをこぼした。
「これから終えてくるところ。終わったら、そのまま母校に寄るつもり」
「そういえば、今日が卒業式だったな」
「遅れるわけにはいかないからな。…あ、そうそう、姉貴、旦那に言っておいてくれる? 義妹をあんましコキ使うなって。最近ロクな頼み事しかしねーし」
口を尖らせて言うと、桜はクスクスと笑った。
「それだけ信用してるってことじゃない」
「まあ、何かあったら父さんに言いなさい。いつでも封印を解く用意はできている」
日向が黒い笑顔で取り出そうとしたのは、包帯に巻かれて『封印』の札がベタベタに貼ってある釘バットだ。
「いや、解いちゃダメだから『封印』なんだろ? 片付けろよ。せめて土に埋めた方がいいって」
楓を独占したい欲求と、桜を嫁にやってしまった悔しさで、いつでも桜の夫に炸裂させる気満々だ。
因幡は日向をなだめ、バスケットに入ったリンゴをサイドテーブルに置き、楓を桜に返した。
「また時間があったら寄らせてもらう」
「いつでもおいで。とは言っても、もうすぐ退院なんだけど」
「私はもう少し楓ちゃんを可愛がってから仕事に行く」
「父さん、楓可愛がりすぎて仕事をサボらないように;」
しかも神崎の家に遊びに行けば、たまに見たことがある光景なので、余計に居た堪れない。
「うーうっ」
「楓、またな」
「うあう」
言葉がわかるのか、楓はもみじの手を振った。
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