95:物語は、終わりません。
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2年後、その日は今年も春風とともに訪れた。
桜の花びらが舞う石矢魔町を飛び回る影がひとつ。
自分達の下を通過した影を見た小学生がはっと見上げ、目で追った。
「飛んでる!」
重力を忘れてしまったかのような身軽さだ。
はしゃぐ子ども達の声を耳にしながら、因幡は、キャンディーを口に咥えたまま、少し急いだ様子で住宅街を駆け抜ける。
その姿は、高校時代とは大きく変わっていた。
前髪は下ろされ、伸びた髪は一つに束ねられて肩にかけられ、赤いメッシュは落とされて本来の白い髪に戻した。
服装は、サラシは外され、動きやすいように下にはジーンズをははいている。
もちろん、神崎達からもらったスニーカーは少し汚れていたが大事に履かれていた。
胸には仕事で使用するためのカメラがぶら下がり、肩にはボストンバッグを提げている。
塀や屋根に飛び移りながら、因幡はスマホでコハルと連絡を取り合っていた。
「うん。そっちには顔出すよ、もちろん。っていうか、母さん今仕事中じゃなかったっけ?」
指摘通り、コハルは、髪をバレッタで後ろにまとめ、仕事部屋でマンガを描いていた。
新シリーズ“ヨーグルッチとリーゼント リターンズ”だ。
前作は、最近ではアニメ第2期が決定している。
スマホを耳に当て、ペンを走らせた。
「大丈夫。こっちは名アシスタントもいるからねっ」
アシスタントの中には、髪を団子ヘアにしたツバキがいた。
真剣な表情でシーンの背景を描いている。
思わず他のアシスタントが目を奪われるほどの速さだ。
「彼女もいつか売れっ子漫画家になるかもね」
「コハルさーん、ここもっとエロくっ」
「編集者並みに厳しいこと言うけど。あと加減知らずに編集側からストップがかかるくらいスゴいの描くし」
「何ソレ逆に読みたいわ」
だが、ツバキのおかげで、因幡が出向いて仕事から逃げようとするコハルを捕まえなくて済んでいる。
以前のように〆切ギリギリになることは少なく、しっかりと成り立っているコンビだ。
それから一言二言かわして通話を切り、因幡が最初に向かうのは病院だ。
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