94:サヨナラではありません。
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卒業式も終わり、神崎達は校門の前に集まっていた。
ラクガキを残す生徒や、校門の前で記念撮影をしている生徒もいる。
「ううっ。神崎さんっ。卒業してしまうんスね」
「アハハハ。オレ達もだよー、城ちゃん。卒業」
「泣くな…、城山。オレがいなくなっても、石矢魔はたのんだぜ」
「だから城ちゃんも卒業だってば。一緒に3年間過ごしたよねー」
「つーか、おまえらよく卒業できたな」
神崎、城山、夏目がツッコミとボケをかましているよそで、男鹿が口にした。
喧嘩ばかりで卒業できないものだと思っていたのだろう。
「YOU!! 先輩にむかって失礼じゃないかい?」
男鹿を指さして神崎が言う。
「ワッハッハッ。出席さえしてりゃ、卒業できっからな!! この学校は!!」
卒業証書を片手に呑気に笑う東条だが、バイト三昧で出席数は崖っぷちだった。
ぶっちゃけ、卒業できたのは奇跡に近い。
「いや、おまえかなりあぶなかったから」
指摘するのは姫川だ。
背後ではMK5が集まり、リーダーの碇を万歳と胴上げしていた。
「…結局、来なかったね、因幡ちゃん…」
「けっ。どうせ遅刻だろ。イベントの日はガキみてーに遅刻しやがる」
それでも気にしているのか、辺りを見回す神崎。
「なんか、寂しいな…」
呟くのは城山だ。
「……………!」
ざわめきが聞こえた。
姫川はそちらに振り返り、その姿を見つけた。
「因幡…」
神崎達もはっとそちらに振り返る。
色鮮やかな花束を抱えた、女子の制服を着た因幡がこちらに近づいてきた。
前髪も下ろしている。
近くにいる石矢魔の生徒は、男女共にその姿に釘づけだ。
見惚れている生徒も少なくない。
「因幡か…!?」と城山。
「パネェ美人」と花澤。
「誰だ」と男鹿。
「どうして今までその格好してくれなかったんスかっ」と古市。
「おまえ、そのカッコ…」
神崎は震える指先を因幡に向ける。
「ん。やっぱり、大事な卒業式だからな。正装しねーと」
言葉遣いは因幡のままだ。
照れ臭そうに笑い、抱えた花束を神崎達に渡す。
「これ、どんな花がいいか悩んでて、せっかく早めに出たのに包んでもらうのに時間かかっちまった…」
だから遅れてしまったのだ。
「気ぃ遣いやがって」
そう言いながら小さく笑う神崎。
「卒業…おめでとう」
因幡は笑顔で言った。
「おう。元気でやれよ」
神崎はその頭を撫でる。
ピクリと反応した因幡は、気付かれないようにぎゅっとコブシを握りしめた。
(耐えろ…。泣くのは後でいい。泣かずに送り出すって決めてるんだ。…「行くな」って言いたい。「ここにずっといてほしい」って言いたい。そんなワガママは、心の中で十分…。ああ、クソ、なんでもう1年早く生まれてこなかったんだろ…)
「因幡ちゃん、平気なフリして大人ぶって、オレ達から卒業しようとしなくていいんだよ。それじゃオレ達も寂しいし」
「え?」
夏目に声をかけられて顔を上げると、肩に学ランをかけられ、前髪を後ろに撫で付けられてオールバックにされた。
「うん。やっぱり因幡ちゃんはこう気合が入ってないと」
「夏目…」
「そっちも似合ってるぞ」
「城山…」
「それも立派な正装だ。てめーはてめーのままでいいんだよ」
「神…崎……」
「…ったく、なんてツラしてんだ。永遠の別れじゃねーんだぞ」
「姫…っ川……」
ひくっと喉を鳴らし、心を満たしたものがあふれ出るように、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
鼻水まで出てしまう。
「う゛ぅ゛~…っ」
唸るように泣きながら、大好きな4人をまとめて抱きしめた。
その拍子に花束の花びらがわずかに舞う。
「でも、ざびじいよ、バァーカ…っっ。わぁぁぁ」
本音もこぼれてしまい、まるで駄々っ子のように泣き出した。
「あーあ、ぐしょぐしょじゃねーか」と姫川。
「大丈夫だよ。サヨナラじゃないんだ。同じ町だし、またいつでも会えるし、会いに行く」と夏目。
「風邪だけは引くな」と城山。
「因幡、石矢魔は任せたぜ。3年になるんだったら、オレの特等席譲ってやる」と神崎。
「あ…、当たり前だ…っ。オレは因幡桃だぞ…。いつか、石矢魔のてっぺんはオレが取る! 邪魔する奴は、全員ブッ転がす!!」
顔を上げて宣言する因幡。
泣き顔でも強気だ。
城山にハンカチで顔を拭いてもらうと、因幡は「もう大丈夫」と神崎達と自分に言い聞かせる。
「神崎、姫川、夏目、城山…、この1年、お世話になりましたっ!」
先程よりもすっきりした顔をしていた。
「「「「またな」」」」
「しっかりやれよ」
最後に神崎と握手を交わす。
それから校門を出た神崎達は、因幡達に振り返った。
「じゃあな!」
「あぁ」
男鹿が答え、ベル坊はバイバイと手を振る。
因幡も男鹿と肩を並べ、神崎達の背中が見えなくなるまで見送った。
1年前に石矢魔に転校し、神崎達と出会ったことからすべてが始まった。
最初はがむしゃらに頂上をつかもうと目論んでいたが、大切なのはそのことではないと気づかされたのだ。
過去の暗い思い出が上書きされるような、充実した、1年の中で起きたとは思えない1年間。
おかげで、嫌いだったはずの女の自分を受け入れることができたし、見たかった景色も見ることができた。
けれど、これでおしまいではない。
また、これから始まる。
「…またな」
次に起きる出来事を楽しみに、因幡は肩にかけられた学ランを胸がはせるままに握り、男鹿達とともに踵を返した。
そして、それから2年の月日が経過した。
.To be continued