94:サヨナラではありません。
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満開の桜に囲まれた石矢魔高校では、卒業式が行われた。
聖組からは、神崎、姫川、城山、夏目、東条、陣野、相沢、そしてMK5も卒業生として旅立つ。
そして、卒業式のプログラムがすべて終わった。
あっという間の時間だった。
「……………」
順番に卒業生が体育館から出る時、神崎と姫川は2年生の列を見た。
そこにいるはずの人物が、いない。
邦枝も気になって背後を確認してしまう。
因幡の姿が、どこにも見当たらないのだ。
その頃、屋上では一匹のうさぎの姿があった。
額には、ルビーのような石が埋め込まれてある。
「ここにいたのか」
ピクリと片耳が動く。
「貴様か」
振り返ると、アクババに乗ったヒルダがこちらを見下ろしていた。
魔力の気配で見つけ出せたようだ。
「桃が世話になったからのう。神崎達の門出くらいは送らねば…」
「律儀な奴だ。…因幡には会わんのか? ―――シロト」
ざぁっ、と強い風が吹いた。
両耳が揺れ、赤い瞳が桜吹雪を映す。
「……会おうと思えばいつでも会える…。今日、魔界からこちらに来たのは、あくまで送り出しのみ…」
「そうか…」
「ワシはもう少しここにおる」
屋上の縁に座り、そこからの景色を見下ろした。
「シロト、なぜ貴様らは生き残ったと思う?」
不意に思った疑問だ。
ジジは倒され、本来ならそこに存在するはずがない。
「………『生きろ』」
「?」
「そんな声が聞こえて、気付いた時には魔界に転がっとった…」
「想いか…」
失ったはずの姿だった。
そこを魔界の住人に拾われ、しばらくフォルカスの元でクロト共々世話になっている。
こちらに来るまでは、礼としてフォルカスの手伝いをしていた。
「純粋な想いは強い…。桃となごりが一族の中で逸脱して強かった理由は、偶然ではない。おそらく、ジジ様には理解できないことじゃろう」
2人の母親が、共通して同じ想いを抱いていたからだ。
『早く生まれておいで』
『私のかわいいコ』
どちらも、卯月に貢献するために我が子を産んだわけではなかったのだから。
「ワシは、その想いに救われた…」
あの少女の時と同じように。
「桃なら、今までの戦いで大きく成長し、自身の中にある魔力を調整することができる。ワシがいなくても…。それでも必要とする時がくれば、ワシも手助けしよう…。無論、蝿の王にも借りはあるからのう」
「当然だ」
フ、と笑ったヒルダはアクババに乗って男鹿達のもとへと向かう。
残されたシロトは「さてさて…」と両の前足で顔を荒い、くしくしと耳の毛並を整えた。
「桃、おまえはどんな想いで送り出す?」
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