93:スキありです。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
屋上で2人、神崎と姫川は距離を置いて向き合った。
傍から見れば、これから決闘が始まらんばかりだ。
どちらも真剣だ。
どれくらいの時が経過したのか、春風が屋上に吹き抜けると同時に、姫川が口を開く。
「神崎」
「……………」
「おまえ言ったよな?」
「……何をだ」
「…寝惚けてんのか?」
眉間に皺を寄せる姫川。
神崎は固唾を呑み、額に汗を滲ませた。
まるで気圧されているように。
姫川に人差し指を指される。
「「好きだ」っつったよな!!?」
「だあああああ!! 口にすんな小っっ恥ずかしい!!!」
神崎は一気に顔を真っ赤にさせて頭を抱えた。
構わず、姫川は続ける。
「誤魔化すな!! 言ったよな、オレに!? それとも同情で言いやがったのか!?」
「ああ!? ざけんな!! 死の瀬戸際だったんだぞ、こっちは!! 本心で言ったに決まってんだろ!!」
「ふざけてんのはどちらさまだ。てめぇ、まさか言うだけで終わりにするつもりか!?」
「終わりじゃなかったろうが!!」
告白した後にキスまでしたのだから。
神崎は言い返すだけで火が噴き出そうになる。
「おまえ最後の、キスのつもりか!? どこに当たったかわかってんのか!?」
「わかんねえけど言うな!! さもなくばここから飛び降りんぞ!!」
「脅すな!!」
「「そしててめぇはそこで何してんだっっ!!!」」
「あ」
屋上のペントハウスの上で、ヨーグルッチを飲みながら窺っていた因幡は見つかってしまった。
諦めて梯子も使わず飛び降り、2人の間に入る。
「だってさぁ、険悪な雰囲気だったし、止めようかと思ったら痴話喧嘩だったから温かく見守ろうと…」
生温かい目で、バッチリ、スマホで撮影済みだ。
「いっそのこと止めてくれ」
神崎はぼそりと呟く。
「…野暮なこと聞くけど、おまえら両想いでいいのか?」
因幡は神崎と姫川を交互に指さす。
頷いた姫川の目が神崎を、どうなんだよ、と睨む。
「……………」
目を逸らす神崎だが、わずかに頷いた。
「付き合わねーの?」
「!!」
神崎は因幡を見るが、因幡の問いは冷やかしではない。
まるで自分事のように本気だ。
「こいつがもう一度「スキ」っつったらな」
「姫川…!」
「神崎、オレはもう腹を決めてる」
今度は覚悟を持って言わなければならない。
簡単に決められることではない。
姫川も理解している。
(オレだってわかってないわけじゃない。男同士以前の問題だ。御曹司の息子と極道の息子…。けど、オレはそれでも……)
「………す…」
神崎も葛藤しながら言葉を発しようとする。
だが、「す」から先が言えない。
「す……」
(神崎……)
因幡もハラハラとした思いで見守った。
「好…―――」
その時、昼休み終了のベルが鳴った。
せっかくの神崎の告白がかき消されてしまう。
「へ」
「な…」
「……っ」
空気を壊すタイミングが絶妙だ。
因幡、姫川、神崎は一気に脱力してしまう。
「神崎、ワンモア!」
姫川は人差し指を立てるが、
「言うかっ!!」
神崎は一蹴する。
「せっかくの雰囲気が」
「オラ、とっとと教室戻んぞ、アホ共」
青筋を浮かべたまま、神崎は屋上から出ようとペントハウスに足を向けてしまう。
「神崎…」
「……………」
因幡が呼びかけても、無言の神崎は歩を進ませてペントハウスのドアを開け、出て行ってしまう。
バタン、とドアに遮断されたあと、因幡は姫川に顔を向けた。
「……いいの?」
「…それがあいつの気持ちなら仕方ねえよ。いきなりだったオレも悪い。…もうちょっと早く気付きゃよかったな…。3年もあったのに…」
自嘲するように笑う姫川の目は、寂しげだ。
因幡はかける言葉が見つからず、代わりに姫川の裾をつまんだ。
「……応援してくれた礼に、好きなだけアメ買ってやるよ」
そう言って姫川は因幡の頭を撫で、ペントハウスに向かって歩いた。
(姫川…)
姫川の背を眺める因幡は、少し遅れて歩き出す。
姫川はドアノブをつかんでドアを開けた。
「え」
「!」
その先にいたのは、仁王立ちの神崎だ。
すでに行ってしまったと思っていた姫川は、目を丸くして棒立ちになってしまう。
隙を見た神崎は、ガシッと姫川のリーゼントをつかんだ。
「痛たたた!! てめ、何す」
手前に引っ張られ、今度こそ、唇が重なった。
後ろで見てしまった因幡も、突然の事に動きを止めてしまい、シャッターチャンスを逃してしまう。
「…神崎…?」
「じゅ…、じゅーぶんだろ、コレで。姫川、オレと付き合え!!」
湯気が立つのではないかと思うくらいの赤面で告白する神崎に、姫川は目眩を覚えて膝から崩れそうになる。
「本当におまえは…っ」
負けた気がして悔しささえ覚えてしまった。
「言っとくけどな、どつきあいじゃねーからなっ」
「ったりめぇだ、どこの鈍感ヤロウだよ。てめー、この先も覚悟してろ! 不意打ちの分、倍返しにしてやる!」
「上等だこのヤロウ!」
本当に、たった今結ばれたとは思えない発言ばかりだが、2人らしい。
肩の荷が下りたように微笑む因幡は、気を取り直してそのシーンを写真をおさめた。
(もう、大丈夫…)
.To be continued