92:本日は、青天です。
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ぼんやりと、誰かの呼ぶ声が聞こえる。
「―――っかりしろ! おい! 因幡!」
「聞こえるか!?」
神崎と姫川の声だ。
「大丈夫なのか!? コレ…」
「―――息はしてるみたいだけど…」
東条と邦枝の声も聞こえる。
(オレ…、何を……)
記憶を辿っていく。
そして、先程の激闘が蘇り、ジジを倒し、空を見上げながら落ちていく中、シロトの感謝を聞いたことを思い出した。
記憶はそこで途切れている。
「!!」
勢いよく半身を起こした。
因幡を中心に円になって覗き込んでいた神崎達が驚いて仰け反る。
「急に起き上がんな、びっくりすんだろ!」
「気が付いたか」
神崎と姫川の顔をきょとんとした顔で見た。
「オレ達…、勝ったのか?」
「覚えてないの?」
邦枝が聞き返す。
「勝ったに決まってんだろ」
「アーイ」
こちらに近寄ってきた男鹿が断言した。
禍々しい魔力は感じない。
空も、元の晴れやかさを取り戻していた。
「そ…うか、勝ったのか…」
未だに実感が湧かない。
ジジに乗っ取られかけた未来も守ったとは。
「!!」
右足を見た。
靴がない。
「オレの靴は…?」
「―――あの時…」
男鹿は因幡にジジを倒した後の事を話した。
ジジに全力の一撃を叩きこんだ瞬間、膨大な魔力に耐え切れず、右靴が弾け飛んだのだ。
今度は、修復不可能なくらいにバラバラに散ってしまった。
「シロト…」
シロトの声も、もう聴こえない。
ジジを倒したことで、シロトとの契約も解消されたようだ。
そうでなければ、右靴が弾けた時点で、かつてユキにやられた時のように眠りについていただろう。
「……残ったのは、これだけだ」
男鹿は握っていたものを因幡に手渡した。
1本の靴紐だ。
空から降ってきたそうだ。
「……………」
優しく握りしめた因幡は、空を見上げた。
(終わったよ…、シロト…。おまえのおかげだ……)
「……………」
それを眺めるのは、ほとんどの魔力を使い切って疲労しているなごりだ。
「なごちゃん、大丈夫?」
「うん…。ちょっと疲れた…」
正直に答え、ユキの肩に寄り掛かる。
手元にはヒビ割れた、依代の指輪があった。
形はあるものの、こちらもクロトの気配がなくなっている。
「……………」
フユマはそれを一瞥し、2人の肩を叩いた。
「立てるか?」
「すぐはムリかも」
「そうか」
もう少し待つか、とフユマが苦笑した時だ。
「フユマ様……」
「!!」
はっと振り返ると、崩れかけの出入口にツバキが立っていた。
「ツバキ……」
なごりとユキも凝視する。
ツバキは躊躇いがちにこちらに近づいてきた。
「私……」
誤解は解けているが、ツバキの中は罪悪感でいっぱいだ。
フユマ達がどれほどの苦労をかけてきたか、どれほどの絶望を味わってきたか、ジジに身体を乗っ取られながらも感じ取っていた。
「……ツバキ」
フユマはツバキの手を取り、優しく引いてなごりの元へと連れていく。
「オレ様とおまえの息子たちだ」
「……………」
しゃがんだツバキは、なごりの顔に手を伸ばした。
「ケガ…してるヨ」
因幡との戦いでケガを負った傷に触れられそうになったが、触れられる直前になごりは手首をつかんで止めた。
「!」
「こんなの、どうってことない…」
「……………」
なごりは目を合わせない。
簡単に十数年の親子の空白は埋められないものだとツバキは手を引っ込めようとしたが、なごりの手はツバキの手首をつかんだままだ。
「……か…」
気恥ずかしげに、なごりの視線がツバキに上げられる。
「母さん」
その一言に、ツバキの瞳からぽろぽろと涙が流れた。
「なごり…!」
両腕を広げたツバキは、なごりとユキをまとめてぎゅっと抱きしめる。
なごりも涙を流し、ユキももらい泣きをしてしまう。
フユマも泣きそうになったが、堪えて優しくツバキの背中に手を置いた。
「……………」
柱に背をもたせかけて親子たちの再会を眺める鮫島は、寂しげに目を伏せながらも、満足感を得ていた。
(これで私の役目は終わりだ。今度こそ)
右手を胸に当て、どこへ行こうかと行き先を決める。
「さようならだ、フユマ様」
自身を次元転送しようとした瞬間、不意に伸びて来た手に手首をつかまれて阻止された。
「!」
「どこ行く気だ!?」
鮫島の考えを読んだフユマは、血相を変えて尋ねた。
目を見開いて驚く鮫島だが、静かな口調で答える。
「……私はあの中に入るべきではありません…。これからは、家族とともに過ごしてください」
「勝手言ってんじゃねえよ。それを決めるのはオレ様だ。てめーは、オレ様の執事で、それと同時に家族だろ」
「……それは…―――」
「これから先も、ずっと一緒にいてくれ。たとえオレ様が卯月でなくなってしまっても…。―――いいか? ツバキ」
「むしろ大歓迎。ネタ。萌えヨ」
((あれ!? コハルと同じ匂いする!!))
腕の中のなごりとユキは悟った。
「行く当てもねえクセに、生意気に頼んでもない気を遣ってんじゃねえよ。どこにもいくな、鮫島」
「……―――はい」
手を引かれる鮫島は、涙を浮かべながら返事を返した。
「……あいつらの心配はいらなそうだな…」
眺めていた因幡は微笑んだ。
おおおおおおっ!!!
「ん?」
どこからか歓声が聴こえる。
神崎と姫川は顔を見合わせると、因幡の腕を取り、互いの肩に回して立ち上がらせる。
「因幡」
「呼んでるぞ」
姫川と神崎はニッと笑い、壊れた壁の手前まで連れていく。
そこは町を一望でき、真下も見えた。
歓声は下から沸いている。
石矢魔のみんながそこにいた。
「因幡―――っ!!」
「桃ちゃ―――ん!!」
黒狐も、家族も、石矢魔高校の生徒達も。
因幡の無事を見て、さらに歓声を沸かせた。
「どうだよ、眺めは」
後ろから男鹿が尋ねる。
「…最高だ」
求めていた景色は眩しく、充実感に溢れ、やがて涙で滲んだ。
「待たせてごめん。―――帰ろう、石矢魔に!」
.To be continued