92:本日は、青天です。
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空がぐんぐんと遠くなる。
落下中の因幡は静かに見上げていた。
手を伸ばしてくれた神崎の姿は見えなくなった。
「最後の最後でシマらねえ…。シロト、悪いけどオレにはできねえよ…」
“桃…、そんなことを言わないでほしい。ワシも、とうの昔に覚悟しておった。無駄な期待だと思っておったがな…。生きるためにジジ様の中におったが、いつかは終わりが来るんじゃ…。悪魔にもな”
「……………」
“このままジジ様を逃がせば、ワシももうしばらく永らえるじゃろう。しかし、遠いいつの日か、ワシと同じ者がジジ様の言いなりになり、卯月と同じ運命をたどる一族が生まれてしまうだろう。繰り返してはならん。どうか、ワシのせいで、そんな運命を2度も生まないでくれ”
懇願するような声だ。
とても弱々しい。
心からの願いなのだろう。
ギリ…、と因幡は奥歯を噛みしめる。
男鹿に託しておきながら、自身の不甲斐なさが込み上げて来た。
「もうオレに期待すんな。オレはここまで…」
「がっかりする事を言う」
「!!」
はっと背後を見ると、鮫島がそこにいて一緒に落下中だ。
腕を組みながら、「やれやれ」と呆れている。
「鮫島!?」
ジジに取りこまれた鮫島も、コハル達のように戻ってこれたのだ。
「この長い長い物語を終結させるのは、貴様の役目だ。籠を壊して、フユマ様達を出してやってほしい」
「おまえ…」
「貴様だって、「めでたし」で気持ち良く帰りたいだろう。その為に、どれだけ下の奴らを待たせていると思っている」
「!」
鮫島は肩越しに地上に振り返る。
因幡はその視線を追いかけた。
「おい!!」
寿が摩天楼から落下してくる因幡を見つけた。
その場にいる全員の視線が因幡に集中し、ぎょっとする。
「落ちてくるぞ!!」と明智。
「因幡!!」と城山。
「因幡ちゃん!!」と夏目。
「どうして…!!」と大森。
「「桃ちゃん!!」」と日向とコハル。
「叩きつけられたらマジパネェッスよ!!」と花澤。
「姉貴ぃ―――っ!!!」と春樹。
「受け止めろー!!!」と豊川。
全員が因幡の落下地点に向かって必死に走り出した。
本気で受け止めようとしているのだ。
自分達も無事で済むはずがないとわかっていてもだ。
全員から伝わってくる想いは、因幡の胸を熱くし、再び空を見上げさせた。
(…そうだ…、このままじゃ、終われない…!! みんなが待っててくれてるのに!!)
因幡は腹をくくった。
「あいつをブッ転がすまで終わってたまるか!!!」
フ、と笑った鮫島は右手を差し出す。
「渡らせてやろう。翔べ!!」
因幡は差し出された右手を握り返した。
その瞳に迷いはない。
石矢魔勢たちに受け止められる前に、因幡と鮫島が消える。
ほとんどがきょとんとした。
「消え…た!?」
そう言ったのは日向だ。
辺りを見回すが、因幡の姿はない。
「いや、ケリをつけにいったようだ」
摩天楼を見上げ、稲荷が言った。
もう何も心配はいらない、と口元は緩んでいる。
そして、見えた。
一羽の白うさぎが空を翔んだのを。
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