91:しっかりつかんでください。
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「無視してんじゃねえぞコラァ!!」
現実でなごりの顔を殴りつけ、痛みを与え、与えられるたび、ジジに支配されているなごりの意識の中に入り込むことが出来る。
何度も、因幡はなごり自身を見つけてこちら側に連れ戻すために、繰り返し入っては出て来ているが、未だになごりを捕まえることができずにいた。
再生能力を身に着けたジジはともかく、因幡は傷が増える一方だ。
しかし、1対1を望んだのは因幡であり、因幡が追いつめられようと、空間の隅で観戦している男鹿達が出しゃばるわけにはいかない。
それが石矢魔の不良だ。
ジャンプした因幡の片膝がなごりの額を打つ。意識が飛んだ。
「さっきから何なのよ!! ナンパなら他を当たりなさいよ!!」
女言葉を叫びながら逃げるなごりを追いかける因幡。
同じような家が立ち並ぶ住宅街をくねくねと追いかけっこしている。
「今度はオカマバージョンか!! おまえどんなトコで使ったんだ、そんなキャラ!! …そういえば、クリスマスの時にやってたな…」
ふと、聖石矢魔でのクリスマスバトルを思い出した。
当時はなごりに女装して出場してもらったのだった。
「待ちやがれー!!」
こんな追いかけっこが先程が続いているのだ。
うんざりするほど。
まるで不思議の国で白うさぎを追いかけるアリスのように。
意識を飛ばすたびにころころとなごりの性格が変わるのだが、突如として登場する因幡のことは覚えているようだ。
「なご!! てめーのこの世界はニセモンだ!! いい加減目ぇ覚ませ!!!」
「嫌よ!!!」
「!?」
(イヤ…?)
まるでこの世界がニセモノだとわかっているような口ぶりだった。
「なご!!」
脚の速さに自信がある因幡だが、この世界では思い通りに動いてくれないようだ。
なごりの方が速く、曲がり角を曲がったらその姿は消えていた。
「な…」
ドッ!
背中に衝撃を覚え、意識が戻ってきた感覚と同時に、ジジに背中を蹴られたのだとわかった。
吹っ飛んだ身体は男鹿達の方へと向かっていく。
「!!」
「うわ!!」
「因幡!!」
神崎と姫川が立ちあがりかけたが、因幡は「大丈夫!!」と声を上げて男鹿達がもたれている柱に着地すると同時に蹴り、なごりへと跳ね返った。
そのまま右足でなごりの顔を蹴飛ばそうとするが、伸ばされたジジの手につかまれる。
「!」
「先程から、我の力が上がっていることに気付かんか? 貴様が遅くなっているのではない…。我が速くなっていることに…」
床に手をついた因幡は逆立ちの状態で、空いている左足で右足をつかんでいるなごりの手を蹴り上げ、足の自由を取り戻す。
そのままバク転で立ち上がり、なごりの目を見据えた。
「なごりは、貴様と言う『現実』を恐れ、拒んでいるからだ。我の中にいるなごりにとって、貴様は平穏を脅かす敵にすぎん」
「……なご…、なんでてめーは、現実が怖いんだ…? 終わったら、やりたいことがいっぱいあるんじゃねえのかよ…!! ユキと、父親と一緒に…」
一瞬、ジジに体を乗っ取られているはずのなごりの表情が強張った。
まるでそれを恐れているかのように。
「オレから逃げてばっかいねぇで、答えろよ!!!」
高く飛んだ因幡は空中で縦に一回転し、振り下ろした右足をなごりの左肩に落とした。
ゴッ!!
因幡の意識がなごりの中に入る。
「何度もやってて大丈夫なのかしら…」
邦枝が不安を口にした。
意識を飛ばして戻ってくるたびに、因幡の疲労が目に見えたからだ。
「本当に連れ戻してくるまでやめはしねーよ。そういう奴だ、因幡は」
姫川は静かに言った。
「……………」
“男鹿氏”
「!」
ポケットに入ったなごりのスマホから、なごシリの声が聞こえた。
取り出してみると、画面には黒いうさぎマークが浮かんでいる。
“オレを、あの2人に向けてくれ”
「何する気だ?」
“安心しろ。手を出す気はない。…まぁ、手なんてオレにはねーけどなっ。一人ツッコミ乙!”
男鹿は呆れながらも、言う通りにスマホを因幡となごりに向けてかざした。
すると、スマホの画面が発信に切り替わる。
*****
ユキとフユマは、摩天楼の階段を駆け上がっているところだった。
壁には氷のイバラが張り巡らされているが、襲ってくる気配はなく、外と同じように止まっている。
「フユマ急いで!!」
先頭を走りながら、ユキは後ろを走るフユマを促す。
フユマは立ち止まっては、項垂れて荒い呼吸を繰り返した。
「こう見えて…、ハァ…、運動不足なんだよ…。ハァ、ハァ…。いつも移動は鮫島に任せてたからな…;」
「年じゃないの」
グサッ、と言葉が胸に突き刺さり、余計に足取りが重くなった。
「ユキ、オレ様を背負っていけ」
「やだよー」
その時、着信音が鳴り響いた。
フユマのケータイからだ。
「!!」
取り出して画面を見たフユマは目を見開いて驚いた。
発信者がなごりだからだ。
「なごり…!」
「え!?」
ユキが踵を返して戻ってくる。
切れる前に着信ボタンを押し、耳に当てた。
「なごりか!?」
“ど~も~。なごシリで~す”
状況にそぐわない声に、ユキとフユマはバランスを崩して階段から落ちかける。
「紛らわしい!」
“同じ声に作った制作者に物申してよ。…この電話の向こうにいるからさ”
「何!?」
「無事なの!?」
“今のところは…。因幡桃は復活したけれど、制作者は、ジジに、身体をいいようにされてるみたい。そんで、因幡桃とタイマンなう”
ユキとフユマは不思議そうに顔を見合わせた。
“現状を生中継するから、2人にはここまで追いついてきてほしい。きっと制作者も望んでいるはずだ”
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