90:コブシで語りましょう。
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因幡と男鹿が肩を並べ、ジジと向かい合った。
互いの視線が交差すると同時に、2人は床を蹴る。
ジジは応じた。
接近される前に、壁や床に魔力を飛ばし、そこから生まれたイバラが2人に伸びる。
当たる直前で男鹿と因幡は互いに離れ、イバラを器用に紙一重にかわしながらジジへと急接近した。
掛け声などいらない、見事な連携プレーだ。
しかしジジは、男鹿のコブシと、因幡の蹴りを氷剣で防ぎ、力だけで薙ぎ払う。
別方向に飛ぶ男鹿と因幡だったが、視線だけはしっかりとジジを捉えた。
ニヤリと笑みを浮かべるジジの狙いは、すでに決まっている。
「もう一度取り込んでやる!!!」
因幡の身体だ。
それでも因幡は焦らず、不敵な笑みを返した。
「だろうな」
「!?」
瞬時に因幡の目の前に現れると、不意に横から体当たりを食らって床をボールのように弾んだ。
「てめーの狙いはわかってんだよ!!」
東条だ。
「東条!!」
因幡が声をかけると、東条は後ろに飛びのいた。
「“ラビットフリック”!!」
柱の一部を蹴り砕くと、飛び散った柱の破片に氷が纏い、散弾銃となってジジに襲い掛かる。
「ふん」
一笑したジジは両手の氷剣を高速で振るい、破片を粉々に砕いた。
背後に現れた男鹿の存在に気付きながら。
「!!」
ジジの背中から、ハリネズミの背中のように飛び出た氷のイバラが男鹿目掛けて伸びる。
断ち切ったのは、邦枝の木刀だ。
「!」
「先に殺してほしいようだな」
邪魔をされ、腹を立てて舌打ちし、ジジは邦枝に接近して右腕を振り上げた。
「!?」
すると、ジジの手首に何かが巻きつき、振り下ろそうとした腕を止めた。
スタンバトンの鞭だ。
振り返ると、柄と鞭を握りしめて綱引きのように踏ん張っている神崎と姫川がいた。
「オレ達を」と姫川。
「忘れてんじゃねえよ」と神崎。
すかさず、動きを止めたジジの左右から飛び込んできた男鹿と因幡。
男鹿の右コブシはジジの左頬を殴りつけ、因幡の左脚はジジの腹を蹴りつけた。
しかし、ジジは身じろぎ一つしない。
めり込んだコブシと足を受けても、苦痛で顔を歪めもしない。
平然と笑っている様子に思わず寒気を覚える。
(そうだ、こいつ、痛みがない…!!)
厄介なことを思い出した因幡が内心で舌打ちした途端、
「…!!」
不意に因幡の脳裏に、身に憶えのない映像が流れ込んできた。
ツバキに裏切られたと勘違いして皮肉に笑いながら涙を流すフユマと、女性からいきなり男性の身体になってしまって絶望するユキ。
『オレが終わらせる…―――』
傍らで眺めるなごりの決意を聞き取った。
まるで切り取られたかのような映像は続く。
閉じ込めらていた『うさぎ小屋』を出ても、出会っては、最初から出会いなどなかった別れを繰り返した、なごりの10年。
『たとえ…―――』
なごりの想いが聴こえる中、
ドガッ!!
不意を突かれて男鹿と因幡がイバラの鞭に打たれ、壁へ飛ばされた。
壁には蔓延るイバラのトゲが待ち構えている。
「つっ!!」
「うっ!!」
しかし、東条は男鹿を、神崎と姫川も飛んできた因幡を捨て身で受け止めた。
衝撃でもろとも吹き飛ばされそうになるのを堪え、どうにか串刺しを免れる。
「タフだな…」
男鹿は口の中の血を吐き捨て、ジジを睨んだ。
片方で、因幡は茫然と宙を見つめていた。
まるで白昼夢でも見ていたかのような余韻が残っている。
「今…」
「どうした?」
男鹿に尋ねられ、「見えなかったのか?」と聞き返す。
どうやら、なごりの想いを垣間見たのは、因幡とシロトだけのようだ。
「なご……」
ジジに身体を奪われているなごりを見据えた。
流れて来た映像と感情から伝わった、なごりの決心と、闇。
「……………」
なのに、ジジに抗って戻ってくる様子はない。
周りを偽り、自らを犠牲にしてでも、ジジを殺す気でいた覚悟まであったというのに。
現実に目を背けたい理由は、なごりにもあるのだ。
それをジジに突かれ、巧みに絡み取られている。
「何度殴ってもあの状態っつーなら、思い切って大技を出してやろうか」
「ダブ」
魔力を上げる男鹿とベル坊を、右腕を横に伸ばして止めたのは因幡だ。
「!」
「待った…」
「あ?」
男鹿とベル坊、東邦神姫も怪訝な眼差しを向ける。
因幡の目は、真っ直ぐになごりを見据えたままだ。
目つきを鋭くしながらも、何かを決心したような顔つきをしている。
「…わがままを言わせてくれ。…頼む…―――」
不敵に笑うジジは、何やら相談している因幡達を見つめたまま仕掛けてくるのを待った。
どんな手を使ってこようとも、痛みも感じなければ、傷もすぐに修復してしまう。
一度トラブルはあったものの、恐れることは何もない。
因幡達は動き出した。
男鹿とベル坊と東邦神姫は、因幡から離れて扉の傍にある柱へと移動する。
「…?」
ジジは片眉を上げた。
男鹿達はこちらに近づくどころか、遠く離れている。
一方、因幡は「待たせたな」とジジと間合いをとって向き合った。
「……どういうつもりだ」
この状況でまさか、とジジはあえて尋ねる。
「なご、オレとタイマンしろ」
ニッ、といたずらっぽく笑う因幡は指をさして言った。
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