90:コブシで語りましょう。
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「おまえら、傷は大丈夫なのか?」
男鹿の手を借りて立ち上がった因幡は、心配そうに神崎達を見た。
服は破れ、血痕が付着していたが、因幡の魔力で傷はほとんど塞がっている。
「大丈夫も何も、おまえが治してくれたんだろ?」
姫川は露出している腹部を擦った。
致命傷を負っていたはずなのに、痛みどころか、跡形もなくなってる。
「オレが?」
「覚えてないの?」
邦枝は呆気にとられた。
因幡は腕を組んで「うーん…」と首を傾げた。
ジジのいいように自身の身体を使用されてこれ以上誰も傷つけたくない、と思っただけだが、それに応えるように、無意識に魔力が発動したのだ。
「因幡…」
声をかけたのは神崎だ。
血が足りないのか、足取りがふらついている。
「神崎! おまえもなんともな…」
ゴチン!
「痛ってぇ!!」
目が合うと同時に、頭にゲンコツを食らった。
ぷっくりと膨らんだ大きなコブを両手で押さえ、因幡は涙目で神崎を見上げる。
「ぁにすんだよぉ…」
再会を果たすなり、酷い仕打ちだ。
前の再会の時も、姫川と神崎のうめぼしを食らったというのに。
「2度も3度も心配かけさせやがって!」
「オレだって、心配かけさせたくてあんな目に遭ったわけじゃねえし!」
ムッとなって言い返すが、胸の中心に穴が空いた神崎の服を見て強気に出れなくなってしまう。
何度も心配させた事実に、さらに言い返そうとした因幡は口をすぼめ、目を伏せて素直に口にする。
「………ごめん……」
「……いや…、ここまで怒るつもりは…」
神崎はその反応に困惑して自身の頭をがしがしと掻いた。
「そりゃねえだろ、神崎! 頭ぐらい撫でてやったらどうだ? 因幡も不安だったんだ」
そう言ったのは東条だ。
神崎は「はぁ!?;」と照れ臭そうに声を上げた。
横で邦枝と姫川が小さく笑っている。
「因幡、無事でよかったな!」
大きな手のひらが因幡の頭を撫でた。
「東条…。撫でるならもう少し優しく」
本人としては優しく撫でているつもりだが、身長が縮みそうだ。
「さて、ケンカするか、因幡」
「いきなりかよっ!! てめーこそそりゃねえよ!!;」
待ちきれないといった様子で疼く東条。
神崎のゲンコツより酷い目に遭いそうだ。
「…おい」
低い声色の男鹿に、はっとする。
消えたはずの冷たい魔力が、一気に空間を満たしたからだ。
男鹿が横目に見たのは、倒れているなごりだ。
なごりはゆっくりと立ち上がり、肩越しに因幡達を睨みつけた。
その瞳は、不気味に赤黒く光っている。
「ジジ…!!」
「再び我の身体になってもらうぞ…」
すると、空間の隅に転がっていた因幡の右靴が、因幡の足下までやってきた。
“桃”
「シロト!」
履け、と促されるままに右足に履いた。
「シロト、貴様…!!」
“もう終わらせましょう、ジジ様。我々は…、これまでなのです”
ぎり、とジジは歯を噛みしめた。
「黙れ…!!!」
空気が震える。
未だにジジの魔力は底知れずそこにあるが、因幡達は臆せず堂々と迎え撃とうと立ちはだかった。
ジジは侮辱された気がし、血走らせた瞳で因幡を睨む。
「何度治癒を施そうと、最後に死ぬのは貴様らだ!!!」
両手に氷剣を作り出し、切っ先を因幡達に向けた。
因幡が引き剥がされたせいか、氷剣は先程よりも短い。
「休むか? 因幡」
「冗談。全然暴れ足りねーよ。オレの身体で好き放題してくれたんだ…。ブッ転がさねえとオレの気が済まねえんだよ!!」
怒号を上げると、頭髪は赤メッシュを残して真っ白になり、臨戦態勢に入った。
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