07:傷より痛いものって?
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「クソ…」
「因幡、なにやってんだ」
舌を打ったとき、奥の席に座っている神崎が声をかけた。
因幡は平静を装い、席に戻る。
「どうした? スゲー音したぞ」
神崎に問われ、因幡は言い訳を考え、口にする。
「…い…、イニシャルG(ゴキ)がオレ目掛けて走ってきやがった」
「G!!?」と夏目。
「おいおい、不衛生だな」と姫川。
「オレもトイレ行こうと思ったのによォ」と神崎。
全員が信じてくれた。
ファミレスには悪いことをしたが。
「待っててください、神崎さん。オレ、今からそのG潰してきます。神崎さんの小便を妨害する輩はオレが…!」
「いい!! もうオレが排除しといたから!! …なにその「オレの役目持っていきやがって」みたいな顔!! しょーもないことで睨むな!!」
立ち上がって現場に行こうとする城山を止める因幡。
(いや、そういうことじゃなくて…。…こいつらに話した方がいいのか?)
過去のことを。
稲荷のことを。
「あのさ……」
そこで思いとどまり、自分が言ったことを思い出す。
仲間や友達じゃない。
稲荷にはっきり言った言葉だ。
(「もうオレと関わらない方がいい」。「しばらくどこかに身を潜めてろ」…。ダメだ。どう言っても理由話さなきゃならないし、うまい嘘思いつかないし、また姫川に調べ上げられても困るし…)
ため息をつき、どうするか悩んでいると、
「!」
いきなり口の中に冷たいものが入れられた。
「つめたっ。つか、甘っ!」
「生クリームとバニラだ。分けてやる。ありがたく食え」
因幡の口にそれを突っ込んだのは神崎だった。
広がるバニラとホイップの味に因幡は顔を青くする。
「おま…っ、オレ、ミルクがダメだって言ってんのに…!」
「死にゃしねーんだ。糖分摂取しねーとイライラするぜ?」
「姫川まで…」
吐き出さず、コーラと一緒に飲み込む。
「なに真剣な顔してんだ。ゴキブリが足の裏にでもくっついたのか? 他の悩みがあるならこの神崎さんに話してみろ」
「……………あ…」
「あ」
因幡が思いきって言おうと口を開いたとき、夏目が窓の外に気付いた。
全員がそちらに振り返ると、ゴツい看護師さんが窓にべったりと張りつき、こちらをガン見していた。
他の客もぎょっとしている。
「「「……っ!!!」」」
全員の血の気が引いていく。
「こんなところで! そんな不健康なものばかり食べてぇぇぇえ!!」
まるで地の底から聞こえてきそうな声だ。
店内は悲鳴に包まれる。
結局、神崎と姫川は引き摺られるように連れて行かれた。
ファミレスで散財した因幡はかわいそうな2人を見送り、城山と夏目と別れたあと、ひとり河原の堤防を歩く。
(しばらく、病院で保護してもらったほうがよさそうだな。もうすぐ夏休みだし、オレは…、引きこもりにでもなっとくか…)
指先で口元に触れ、バニラの味を思い出す。
甘く、優しい味だった。
「今更…、出てくんじゃねーよ…っ」
チリ…、と火傷が痛んだ気がした。
足下に転がった石を、爪先で川に向けて蹴り飛ばす。
直線に飛んだ小さなそれは、川に入ると大きな水飛沫を上げた。
.To be continued