89:本当の。
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「姫川……」
「喋んな…!! 傷が…」
血は今も流れ出ている。
勢いは落ち着いているが、それくらい出血したことになる。
それでも言いたいことがあるのか、神崎は首を横に振った。
「へ…っ。なんてツラしてんだ…、てめーが…。らしくもねぇ…」
場違いに笑う神崎に、姫川は胸の内に込み上げてくるものを堪えながら言い返す。
「こっちのセリフだ…。なんでオレを庇った…!?」
「……わかる…だろ…?」
姫川の心臓が大きく跳ねる。
期待の反面、嫌な予感を覚えた。
「やめろ…。こんな……っ」
(こんなところで言うつもりか?)
最期の言葉のように。
「やめろよ…!! てめぇ、オレ以上のヒキョーモンじゃねーか…!!」
「聞けよ…」
「神崎…」
「聞…け……」
ぼんやりと意識がどこかへ遠のき始めた。
時間がない。
ぎぎぎ…、と氷剣の切っ先を床に引きずりながら、ジジがこちらに近づいてくるのを感じた。
「姫川……」
神崎は姫川の胸倉をつかんで渾身の力で引っ張り、自身の顔へと近づけた。
「―――…好………きだ」
重ねようとした唇は少しずれ、姫川の唇の端に当てられた。
同時に、神崎の手が離れ、糸が切れたように床に落ちる。
「………神崎…?」
神崎は、応えない。
眠ったように目を瞑っている。
姫川は呆れるように力なく笑った。
「……ヘタクソ…。ここだ、バカ」
それから神崎の後頭部に手を回してわずかに持ち上げ、正しい位置に唇を重ねた。
「死ね…―――」
ジジは氷剣を振り上げ、2人まとめて貫こうとする。
「―――!?」
腕が動かなくなった。
異変に目を見開き、振り上げられたままの右腕を凝視する。
「な…んだ?」
やがて氷剣はボロボロと崩れ、たじろいだジジは、今度は右足に違和感を感じた。
「わ…、我の魔力が…!!」
右足を伝い、波紋のように空間に拡がった。
“ようやく言えたな、神崎…”
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