88:あなたにはいますか?
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「…何やら、外が小うるさいな。だが、もうすぐ、静かになる。―――すべてが…氷に閉ざされるのだ…」
玉座に腰掛けてここまで辿り着いた男鹿達を、赤黒い瞳で見下ろし、ジジは不敵に笑った。
今まで因幡にあんな見下された目で見られたことがあっただろうか。
顔は同じでも、まるっきり別人であることは明らかだ。
「勝手言ってんじゃねえよ」
「因幡を返してもらうぜ」
男鹿と神崎は一歩踏み出した。
戦闘準備は万全だ。
ジジは鼻で笑い、玉座から立ち上がる。
「残念だが、身体はすでに我の物だ。返却は却下する」
「物って…っ」
怒りで身を震わせる邦枝は木刀を構え、東条はコブシを鳴らしながら口を開いた。
「ブッ飛ばしてでも返してもらうしかねえな。最初からそういう予定だけどよ」
「元々は我のおかげで生まれた存在だ。我がどう扱おうが関係なかろう? それに、素晴らしい身体になったのだ。感謝してもらいたい」
「何寝言ほざいて…」
スタンバトンを構えた姫川が言いかけた瞬間、ジジは右手に氷で形成した長剣を作り出した。
柄にはイバラが纏わりついている。
「こういうことだ」
ズバンッ!!
「「「「「!!?」」」」」
ジジは伸ばした左手を、自ら切り落とした。
因幡の一部が欠け、衝撃的な光景に思わず男鹿達は怯んだ。
自ら切り離した手が宙で弧を描き、玉座のすぐ下に落ちる。
「何を…!!」
男鹿が目を見開いて叫んだ途端、ジジは眉ひとつ動かさず、切断面を見せつけた。
「見よ」
切断した個所が凍りつき、やがて左手を形成し、砕けた時には新しい手が生え変わっていた。
神経も元通りなのか、コブシを握りしめる。
「再生…しただと…!?」
姫川達は我が目を疑った。
「ハハハッ!! 必要以上の魔力があれば、可能なのだ。痛みもない。たとえ心臓を貫かれようと、首を飛ばされようと、我は死なん!!」
ぶるぶると震えているのは、神崎だ。
恐怖ではなく、激しい憤りだ。
「因幡の体で、遊んでんじゃねえええええ!!!」
駈け出そうと一歩踏み出した瞬間だ。
すぐ目の前にジジが移動し、神崎のアゴを指先で撫でた。
「っ!!?」
「よほど未練があるようだな。断ち切れるよう、特別に好きにさせてやろうか? このカラダを」
いやらしく舌を出し、はっとした神崎は右足を突き出した。
ジジは軽く飛んで避け、無邪気な子どものように笑う。
「つれないものだ」
「許さねぇ…!!」
「神崎!! 挑発に乗ってんじゃねえよ!!」
肩をつかんで止めるのは姫川だ。
神崎は肩越しに振り返り、ギロリと睨みつけた。
「もうヤロウの好きにはさせねぇ…!!」
これ以上、因幡の存在を消させてたまるものか。
「叩きだしてやる」
男鹿はコブシを握りしめ、パンッ、と左手のひらで叩いた。
そして、ジジを見据え、魔力を解放させる。
「ほう?」
男鹿に光が纏い、髪も金色に変色した。
男鹿とジジが同時に床を蹴ってジャンプした。
空中で、ジジは右手の氷剣を振り下ろし、男鹿はコブシで弾き返していく。
横からの攻撃も反対のコブシで弾き、蹴りを腹に食らわせるが、ジジは笑みを絶やさず踏み止まり、男鹿の顔面目掛けて氷剣の切っ先を突き出した。
「!!」
咄嗟に顔を傾けるが、左頬を切っ先がかする。
「鈍い。傷でも痛むのか?」
「チッ!!」
男鹿は横に蹴りを入れようと勢いをつけるが、その前にジジが背後に立つ。
「ダ!?」
振り返って目を見開くベル坊。
ジジの狙いがベル坊に定められ、ベル坊の眉間に氷剣を突き刺そうとした。
「ん?」
ジジに背を向けたまま、男鹿は後ろにやった右手で氷剣の刃をつかんで握り潰す。
血まみれの手を強く握り、男鹿は裏拳をジジの右肩に打ちこもうとするが、ジジの空いた左手がそれをつかみ、空中で数回転して男鹿を床に叩きつけた。
「っ!!」
「はははは!!!」
真下にいる男鹿を見下ろし、高笑いしながらジジは切っ先を下に向けて落下してくる。
串刺しにする寸前、右からはコブシを構えた東条と、刀を構えた邦枝が、左からは右脚を上げた神崎と、スタンバトンを構えた姫川が現れた。
「!」
東邦神姫の同時攻撃がジジにぶつかった。
吹っ飛んだジジは着地してからも床を滑り、玉座の前で止まる。
「蠅の王は納得できるが…、貴様らもそこまで動けるか。すでに満身創痍だというのに…」
東邦神姫は男鹿を庇うような位置に立ち、各々武器を構えた。
しかし、傷に響くのか息は上がっている。
立っているのも辛いはずだ。
攻撃を受けたジジの体は、すぐに回復した。
懲りずに立ち向かって来ようとする面々を、思わず一笑する。
「やはり王臣共も見くびるべきではないな。これは我の反省か…」
呟いたあと、「そうだ」と指を鳴らした。
「さすがに同時は時間もかかる上に面倒だ。数秒でも早く終わらせるために、我は閃いたぞ。この中から順番に、弱っている者から殺していく」
「なんですって…!?」
まるでいい案だというように無邪気に発言したジジに、邦枝の手に力がこもる。
床に倒れている男鹿も耳を疑うように目を見開いた。
「せっかく復活したのだ。戦いは長引かせたいが、弱者と時間を潰すほど暇でも酔狂でもない。人間も大半は楽しみは最後までとっておきたいものだ。そうだろう?」
人差し指を立て、小首を傾げる。
ジジの瞳が各自を捉える。
目が合うだけで心臓を不意につかまれるように汗が滲んだ。
順番に見たジジはくつくつと笑う。
「決めた。最初は…」
「最初は、おまえだろ?」
突進した東条がコブシを振り上げた。
ジジは一歩踏み出し、その脇を通り抜ける。
「いや…」
瞬間、姫川の背後に移動した。
「貴様だ」
「!!」
姫川が振り返ろうとした瞬間、
ドッ!!
姫川の横っ腹に衝撃が走った。
ジジの蹴りがめりこんだのだ。
「が…!!」
何が起きたか、理解したのは玉座の階段に激突してからだ。
「姫川!!!」
男鹿が叫ぶ。
「姫川!!」
続いて邦枝が叫んだ。
神崎は突然の事に言葉を失い、倒れる姫川を凝視した。
「ごはっ、がはっ」
床に血を吐きだす姫川。
蹴られた腹部からは血が滲み、服を赤く染め上げた。
ジジは鼻で笑い、姫川に近づいて見下ろした。
「軽く蹴っただけでこのザマか。ライラックの目は誤魔化せても、我の『目』は誤魔化せんぞ。致命傷を負っていただろう」
「!!」
はっとしたのは神崎だ。
玉座に来る前、合流した直後に軽く蹴っただけなのに膝をついた姫川を思い出す。
感じ取っていた違和感はそれだったようだ。
「やっぱり…、てめぇ!! 何で黙ってた!!?」
責めるように神崎は怒鳴る。
代わりに答えたのはジジだ。
「ライラックとの戦闘でだ。シャンデリアの明かりを消す直前、間に合わず、攻撃をモロに喰らった。光が完全に閉ざされる瞬間、我は見逃さなかったぞ。本来なら、すぐに治療しなくてはならないケガを負っていたというのに、王臣紋の魔力で無理やりせき止めていたようだな。…ここに来たのは自殺行為としか思えん」
はっ、と血を流し、脂汗を浮かべながら姫川はジジを見上げて笑う。
「…確かに、こんな重体で赴くのはバカのやることだ。足手まといに違いねぇ。…けどな、大馬鹿になってでも、オレはここに来なきゃならなかったんだ!!!」
姫川の瞳に映るのは、ジジではなく、因幡だ。
「フッ…。意地か? くだらない」
嘲笑したジジは、右足を上げ、蹴った腹部を踏みつけて足裏でにじった。
「がッ、あぁあああ!!!」
激痛に耐えきれず姫川の口から叫び声が上がった。
傷口を無理やりこじ開けられ、腹部から流れる血液。
空間の気温が低いせいか、湯気が上がっている。
「だから貴様は死ぬのだ」
「っ…因幡…」
死にかけだというのに、口から出た名に、ジジは眉間に皺を寄せた。
「くどい」
姫川の腹部の傷口を氷が覆う。
「させるかよ!!!」
「やめろ!!!」
「姫川!!!」
男鹿と東条と邦枝がジジの背後に接近する。
「邪魔だ」
ジジが人差し指を上げると同時に、床から氷のイバラが飛び出し、壁となって行く手を塞いだ。
ジジの視線が姫川に戻る。
残虐な笑みだ。
再び氷剣を右手に形成し、突き出した。
「まずは一匹!!」
意識を失いかけ、ぐったりしている姫川に避ける気力はない。
男鹿、邦枝、東条が自力で壁を破るが、間に合わない。
ドス!!!
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