88:あなたにはいますか?
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辺りはすでにとっぷりと暮れている。
男鹿達が玉座に殴り込んだ頃、依然、氷のイバラが侵食範囲を拡大していた。
早乙女の指示で『殺六縁起』が各所で結界を張ってるが、中で膨張する魔力のせいで、今にも破られそうだ。
駆けつけた石矢魔組は出来るだけ摩天楼から離れた場所に避難していたが、結界が破られてしまえば一巻の終わりである。
しかし、ここから逃げるわけにはいかなかった。
危険と知っていながらも、自分達はここにいるべきだと。
「……中はどうなってんだ…。あいつらは…」
「奴らは…、無事…なのか…」
豊川と伏見は呟きながら、城を見上げた。
氷のイバラが引いていくのなら希望が湧いてくるが、状況は悪化する一方だ。
「姉貴…」
「春樹、もう少し離れろ。迂闊に近づけばおまえまで…」
「親父」
日向は春樹の肩をつかみ、落ち着かせようとする。
今にも中に飛び込みそうな雰囲気だ。
それでも今はただ祈るしかない。
この場所を集中的に守っているのは、早乙女だ。
手をかざし、結界を張っているが、腕に痛みを覚えるほどの強力な魔力に押されかけている。
邪魔するような行動はわずかでも許されない。
「焦って魔力を乱すな。なんとか持ちこたえろ」
早乙女は無線を使い、殺六縁起に呼びかけた。
それぞれ、住宅やマンションの屋根の上で、城を中心に六角形のような結界を張る殺六縁起たちは応える。
「こちら林檎。思った以上に敵の魔力が上がってるよ。あいつらやられたんじゃないだろうねっ!?」と林檎。
「だったらとっくに結界が壊されてるっつーの」と赤星。
「縁起でもないこと口にするな」と鷹宮。
「心配よりもこっちに集中せい! ただでさえギリギリなんじゃ!」と蝦庵。
「ったく、けっこう大変なモン背負わせてくれるナリ」と奈須。
結界に細かいヒビが刻まれる。
夜が明ける前にもつかどうかさえ怪しい。
もし一か所でも破られた場合、他の結界が風船のように破裂して魔力が溢れ出し、石矢魔や町の人間ごとジジの魔力に呑み込まれてしまうだろう。
最悪な結末を、誰もが思い浮かべ、冷や汗を浮かばせた。
「本当にマズイな、これ以上は…」
内心で男鹿達を催促させながら、赤星は舌を打った。
「「「「「!!」」」」」
変化は突然訪れた。
ゆっくりだが、結界に刻まれたヒビが巻き戻しのように消えていく。
誰かが何かしたのか、早乙女か、そう思った時だ。
「何やってんだ、てめーらは。終了のお知らせでもきたか?」
無線から聞こえたのは、ここに参加していないはずの人物だ。
「藤!!?」
声の主を言い当てたのは鷹宮だ。
「なんでここに!?」
林檎が尋ねると、面倒臭そうに答える。
「早乙女に呼ばれたからだ。なんでもオレが大人しくしている間に人間界と魔界の危機とか…。オレとサタンが知らねえところでそんな祭りやってるとはな」
結界に使用される魔力が跳ね上がった。
早乙女と交代するように、石矢魔の前には、手をかざした藤が立っている。
その存在に誰もが目を剥いて驚いた。
「せっかくだから参加してやるよ。男鹿に借りを作ってやるのもいいな」
男鹿に敗北したことによって心境の変化があったのだろうか。
心情は誰も理解できないが、どんな理由があれ、味方にすれば実に頼もしい助っ人だ。
他の殺六縁起たちも、藤に負けてなるものかと各々の魔力を発揮させる。
男鹿達が因幡を救い出すまで。
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