87:いつか見た夢の中で。
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辺りは一面の鏡。
そこから出現して襲い掛かってくるのは、男鹿の鏡像だ。
砕くことどころか直に触れることもできず、本人の本来の力までそっくりそのまま映し返す鏡―――“コールドミラー”に苦戦を強いられていた。
男鹿は肩にベル坊をのせたまま鏡像の自身を次々とブッ飛ばすが、出現する鏡像に終わりはなく、倒した分だけ無限に増殖していく。
男鹿が鏡に映っている限りは。
「ブラックベル坊の時よりきついな…」
「アダブ」
頬を伝う汗を拭い、どこに隠れているかもわからないシルバの姿を捜そうとする。
聞こえるのは声だけだ。
「やはり自身相手でも簡単には倒れないか。それに、覚醒しないのは利口だ。覚醒した自身と戦いたくはないだろう」
挑発的な口調だが、男鹿も同じ口調で返す。
「あ? そうなのか? オレはただ、てめー如きに使うのはもったいねえと思ったからだけど」
「その減らず口、叩けなくしてやろう」
一斉に鏡像たちが襲い掛かってくる。
男鹿は顔面を腕で守って防御に入るが、四方八方からコブシや蹴りをぶつけられ、床を転がった。
「ぐ…」
シルバを見つけ出すか、鏡を壊さない限り、途方もない戦いは続くだろう。
(どうやって壊せばいいんだよ。鏡の中には手ぇ突っ込むこともできねーし…)
男鹿は頭から煙が出る程考える。
「我輩の姿を見つけ出すことも不可能である」
不敵な笑みを浮かべるシルバ。
鏡像たちに紛れるシルバの背中には、鋭いナイフが隠されてある。
このまま男鹿に近づき、心臓を一突きするためだ。
用があるのはベル坊のみ。
ジジに献上すれば、ベル坊を取り込んだジジの魔力も格段に跳ねあがる。
人間界を支配することなど造作もない。
(考えたまえ考えたまえ。手段を取られる前に、こちらが終わらせてやろう)
「クソ…」
「アダ!!」
ベチン!
「ぶっ!? 何すんだベル坊!」
ずっと考えていると理不尽なベル坊の張り手を食らった。
その顔は赤ん坊にふさわしくないほど濃ゆい『男』の顔だ。
「とーたん!! ダブ!!」
「なんだよ…」
“難しいことは考えるな、って言ってるんじゃないの?”
「!」
「アイ!」
ポケットから聞こえた声。
取り出してみると、なごりのスマホだ。
「シリ」
“なごシリだ。草生やすぞ”
「そーいや忘れてたぜ」
城に入る前に、姫川に「これはてめーが持っとけ」と手渡されたことを思い出す。
“どうせ男鹿氏の脳味噌じゃ、力技しか思いつかないだろうからオレが…、え、ちょっと、やめて、壊れちゃうっ、オレ壊れちゃう~!”
馬鹿にされた男鹿は、無言でなごシリを握りつぶそうとした。
「…あのな、ちょっとこれは頭を引きちぎらねえとどうにも解決しねぇみてーで」
“頭をひねる、なw”
「鏡に映った分、増えちまうし…、壊せねぇし、だからってあいつがどこにいるのか……」
“それだ。壊せないってわかってたら無理に壊さず、鏡に映らなきゃいい方法を考えるんだ”
「あ? 透明人間になれってか?」
なごシリの言いたいことがわからず、次第にイライラしてきて八つ当たりしそうになる。
“男鹿氏、もうちょっと契約悪魔を理解するべきだ。鏡に映らない方法なんていくらでもある。いや、正確には、一時的でも映さない方法だ。普段の鏡を想像して、何か思いつくことはないか?”
「ナルシストヤロウや女子じゃねーんだし、鏡なんか毎回見ねーよ…。朝に歯ぁ磨いたり…」
鏡の前に立つ状況を思い出し、男鹿ははっとする。
「そろそろお別れだな」
先程よりも鏡像が増殖している。
捨て身でトドメを刺す気だ。
「……ベル坊」
「ニャ?」
男鹿はベル坊に耳打ちする。
試しでもやってみる価値はある作戦を思いついたからだ。
「今更作戦タイムなど無駄なことを!! さっさとジジ様にすべてを捧げたまえ!!」
鏡像たちが一斉に踊りかかってきた。
今度こそ逃げ場もない。
絶体絶命の展開だというのに、男鹿とベル坊は逃げ腰どころか、堂々と迎え撃とうとする。
ベル坊は男鹿の頭上で腕を組んで仁王立ちし、体から電流を漏電させた。
準備は整ったようだ。
「ベル坊!!」
「ダブアイ!!」
「!?」
男鹿が目を閉じた瞬間、ベル坊を中心に辺りが眩しい閃光で包まれた。
シルバはその眩しさが直視できず、目を瞑った。
「まぶしい…っ! 目が…っ!!」
“ゼブルブラスト”ではない、ただベル坊が体を発光させているのだ。
光が徐々におさまった時、
「!!?」
「見つけたぞこのヤロウ」
シルバは男鹿に胸倉をつかまれ、爪先が立つほど持ち上げられた。
鏡像たちは光にかき消され、消滅している。
驚いた拍子に、背中に隠し持っていたナイフを床に落とす。
「貴様…」
「ああ。光なら、あらかじめ来るって知ってるオレ自身は、目を瞑ってるだけでいい。鏡で反射しようが痛くもかゆくもねぇ。鏡にオレの姿も映らなくなる…」
光によって男鹿と鏡が遮断されたため、男鹿の鏡像はゼロになったのだ。
「技名とかどうするよ。“ベル坊フラッシュ”にするか?」
「ア゛ゥ」
顔の前でバツ印を作って拒否するベル坊。
「気に入らねーのかよ。それじゃあ、“ベル坊バルス”は?」
「アーイ!」
“その技名は怒られるからやめとけ”
ベル坊が丸印を作る前になごシリが阻止した。
「…戯れの時は終わりか…。そろそろジジ様も完全に復活なさる頃だ。貴様、もう一度己の姿を鏡で見てはどうだ? 我輩の力だけではない、この城に、ジジ様の力によって魔力を吸われ続けているのだ」
ケガを負った男鹿を見下ろし、シルバはほくそ笑む。
完全に男鹿に勝利する気でいたわけではないようだ。
「徐々に氷漬けになっていくだろう。魔王に魔力を借りているだけの人間は命ごと奪われてしまえ。シロトの契約者が先にあの世で待…。!?」
黙らせるように、男鹿は空いてる手でシルバの顔面をつかんだ。
「復活する前提でベラベラ喋ってんじゃねえよ。あいつがそんなタマかよ」
胸倉をつかんでいた手をコブシに変え、魔力を纏わせた。シルバに逃げ道はない。
「てめーも親玉も、因幡(あいつ)のことナメすぎだ」
ズンッ!!!
放たれた“ゼブルブラスト”は天井を突き抜け、玉座の前の廊下の床にも穴を空けた。
男鹿VSシルバ―――勝者・男鹿辰巳
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