87:いつか見た夢の中で。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『因幡、女じゃダメなんだよ』
『近づかないで』
『女かよ』
『可愛がってやれ』
『どうせ女だ』
『女がトップに立てるわけがねぇ』
『頭おかしいんじゃないの』
『あっちへ行って』
『おまえなんかいらねぇんだよ』
『バケモノ』
目を開ければ、朝を迎えていた。
いつ眠ったのかは覚えていない。
眠っている間に汗が噴き出したせいで寝間着が濡れている。
確認するように平らな胸に触れ、喉仏に触れた。
そして因幡は安心する。
「よかった、夢じゃない…」
いつものように準備をして学校へと向かう。
教室には東邦神姫がいた。
その居心地の良さに安堵する。
「変な夢を見てさ」
「あ?」
「オレが女になる夢」
夢の話に耳を傾けた神崎は小馬鹿にしたように笑う。
「おまえが女? ありえねえぜ」
「ちなみに美人なの?」
「胸はデケェのか?」
夏目と姫川まで乗ってきたが質問が下品だ。
露骨に眉間に皺を寄せて睨みつける。
「悪夢の話してんだけど?」
「所詮夢だ。気にすることねーだろ」
「そうだけどさ…」
とても胸が痛む夢だった。
目を伏せる因幡は具体的な内容を思い出さないように、神崎達との会話で紛らわせようとしたのだ。
「…飲むか?」
神崎がヨーグルッチを差し出す。
少し心配してくれたようだ。
けれど、因幡は首を横に振る。
「神崎、ありがたいけど、ヨーグルッチは苦手で…」
「なんで苦手なんだ? こんなにうめぇのによー。アメは舐めるくせに」
ずずず…、と吸いながら神崎に尋ねられ、因幡はため息混じりに言った。
「だから言っただろうが……」
理由を話そうとしたが、口を半開きにさせたまま硬直する。
(あれ? なんで、苦手なんだっけ…?)
「…どうした?」
「……なんでもねえよ」
また、胸が痛んだ。
すると、違和感を覚えた直後、睡魔に襲われた。
「因幡…?」
「うん…、ちょっと眠い…。少し…眠るわ…」
机に伏せて眠り始める。
そして、再びいつもの朝に戻るのだ。
何度も、何度も、すべてが夢であることを忘れさせるように。
(ここがオレの居場所で、ずっと、一緒にいられるんだよな? ずっと…―――)
*****
「ああ。何も不思議に想うことはない…。すべて夢に任せ、本来の自身を否定すればいい」
玉座に居座るジジは、不気味な笑みを浮かべながら、未だ自身の内に留まっている因幡の魂に囁く。
すべては因幡の身体と、その魔力を手に入れるためだ。
100年以上前から計画してきたことが、今日、実現していく実感に笑いがこみ上げた。
「ククク…。なんと、脆く儚く、美しいことか…。あともう少し…」
待ちわびた時は刻一刻と近づいている。
そして、いずれ開かれるであろう、目の前の扉を眺めた。
.