86:水面の心。激昂の一撃。
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一定の距離を保ったまま、神崎とダッチは向かい合って目を逸らさず睨み合う。
ダッチは足下に唾を吐き捨てた。
「××人間が…。あつくるしーわ。動きたくねえのに無駄に運動させんじゃねーよ」
人の命よりも、自分の娯楽のためにジジに仕えているダッチ。
思ったよりも時間がかかってしまい、苛立ちが募る。
ぱきり、と指の骨を鳴らし、再び臨戦態勢に入った。
「誰を相手にしてるか理解もできねーお馬鹿さんなのか? てめーのおつむは×××並みかよ。そう、熱くなるなって。あんな女、命張る程のモンでもねーだろ」
「……………」
嘲笑し、呆れるように目を閉じて言葉を続ける。
「あの女は、利用されるためだけに生まれた、ただの生贄で、悪魔にも人間にもなり切れなかった出来損ない…。せめてジジ様のお情けで役に立ってもらうしか使い道がねぇ、×××な…」
「今すぐその汚ねぇ口閉じろ」
「ん?」
ダッチの開かれた右目が神崎を見た。
同時に、ゾクッと背筋が凍りつくのを覚える。
「あいつはオレ達の仲間だ。出来損ないじゃねえ…!!」
憤怒の表情を浮かべた神崎。
「おお、怖ぇ顔だな…。チビっちまいそうだ」
茶化しながらもその額には冷や汗が浮かんでいた。
(こんなガキにビビることはねぇ…。力の差は歴然としてるだろが…)
自分に言い聞かせるダッチに、神崎は声をかける。
「目は逸らすなよ?「よそ見してて負けた」って言い訳なんて笑われるだけだろ?」
「……挑発としては…、80点は余裕で越えたぜ、今」
露骨に青筋を立たせたダッチは、目ではとらえにくいスピードで神崎に迫った。
「オラァ!!」
「あああ!!!」
振るわれたコブシを、神崎は目前で交差させた両腕で防ぎ、回し蹴りを食らわせようと回転したが、ダッチは反射的に飛んで避け、神崎の顔面目掛け足を突き出した。
だが、神崎は顔を傾けてかわす。
その際に頬を掠めたが、その瞳はダッチを捉えていた。
そして、左手でダッチの突き出された右脚をつかみ、突き出した右のコブシはダッチの腹にめり込んだ。
「うが…!」
「!」
ダッチはぐっと歯を食いしばり、両脚で神崎の首を挟み、床に倒して絞め始めた。
「ぐ…っ!! ぁが…!!」
ギリギリと容赦なく神崎の首を絞めつけるダッチの両足。
呼吸が出来ない神崎はもがくが、簡単に外すことができない。
「このまま首をへし折ってやるよクソガキが…!!」
「………っ!!」
ミシミシと音を立てるのは首の骨だ。
ダッチは、相手に死を与える快感に興奮した顔を浮かべる。
「くくっ、死神女に関わったてめぇらが悪いんだよ…」
意識が飛びかける寸前、神崎は踏切の前で涙を流した因幡の姿を思い出した。
「…っ…し…にがみが…っ……」
「!?」
飛びかけた意識を握りしめ、首を絞められたまま、神崎はダッチごと起き上がった。
「泣くわけねえだろがっっ!!!」
ゴッ!!
勢いをつけてダッチを壁に叩きつけた。
壁が破損するほどの衝撃で、ダッチの足が緩んだ隙に神崎は抜け出し、ダッチから目を離さずせき込む。
「げほっ、げほげほっ!」
口端から垂れた唾液を拭い、呼吸を整えた。
「やってくれるじゃねえか…。オーケーオーケー、それじゃあちょっとだけ本気出すわ。充電も完了したし…」
壁から出て来て顔を上げたダッチの赤い瞳が、神崎を鋭く睨みつける。
「次で終わらせてやるから、一撃食らわせてみろよ」
人差し指で招く、わかりやすい挑発だ。
「……………」
迷いは一切ない。
神崎は真っ直ぐに駆け出し、倒れたテーブルを踏み台にして高くジャンプし、右脚を振り上げた。
ダッチはそれを見上げながら、不気味にほくそ笑む。
「やっぱバカだ!! かっこうの餌食だよ××××ヤロウが!!!」
ダッチの足下から出現した大量のシャボン玉が神崎目掛けて飛ぶ。
しかし神崎が次に見たのはシャボン玉ではなく、天井だ。
「おおおおお!!!」
ズン!!!
「!!?」
神崎の振り上げられた右足が、天井を破壊した。
飛散した粉塵や、降り注ぐ破片に次々とシャボン玉が破裂する。
(あのヤロウ!! オレが“フロストバブル”を飛ばすことをわかって…!!)
落下してくる天井と神崎を凝視し、ダッチの余裕は消え失せていた。
神崎は右足を上げたままダッチ目掛けて落下してくる。
ダッチはすぐに新たなシャボン玉を飛ばすが、たった数個だけだ。
神崎に当たって破裂はしたものの、神崎の足はそのままダッチの脳天に振り下ろされる。
直撃の寸前、ダッチは諦め混じりに笑った。
「マジでやりやがって。××が」
ドゴッ!!!
同時に、崩れた天井が神崎とダッチに降り注いだ。
数分後、辺りは瓦礫の山と化し、底から神崎がダッチを肩に担ぎ、瓦礫から出て来た。
頭から流血したダッチを適当に大の字に寝転ばせ、打撲して痛む体を引きずるように足を動かし、出現して開かれたドアへと進む。
「……わざわざ助けやがって…」
「!」
背後から聞こえた呻き混じりの声に振り返ると、ダッチが薄く目を開いて視線だけを動かし、神崎に悪態をつく。
「タフだな…」
「少しでも意識が飛んだら、出口が開く仕組みだ…。閉じ込めておけばいいのに、なぜそんなことするかわかるか? ジジは、てめーらをいたぶるために呼んでるんだよ…」
「……………」
「そんなボロボロのカラダで、本気で今のジジに勝てると思ってんのか? オレも殺せねえような甘ちゃんに」
「売られた喧嘩を買っただけだ。てめーらとオレらは違う…」
そう言いながら、神崎は再び歩き出し、口元に笑みを浮かべた。
「それに、足が折れようが、もげようが、オレは行かなきゃなんねーんだよ。待ってる奴がいるんだ。オレが遅れをとるわけにはいかねぇ」
ドアに手を付き体を支え、最後に肩越しにダッチを見、捨て台詞を残す。
「一番ムカつくヤロウに、笑われちまうからな」
神崎VSダッチ―――勝者・神崎一
.To be continued