86:水面の心。激昂の一撃。
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フロリダの“スノウパピヨン”は相手の魔力と神経を奪う能力だ。
ただ一つ、痛覚を残して。
「っっ!!」
ヘビのように宙でのたうつ鞭が、邦枝の右側頭部を打った。
バチンッ、とダンスフロアに痛々しく響き渡り、膝をついた邦枝の頭部から滴り落ちた血が床を汚す。
「葵ちゃん…!!」
邦枝の身を案じるコマちゃんは、チョウに魔力を吸われて身動きさえできなかった。
徐々にマスコットのような姿に戻りつつある。
「…っく…!」
右手の感覚が石のように喪失しているというのに、痛みだけはダイレクトに体中を駆け巡った。
左手で木刀を拾い、杖の代わりにして立ち上がる。
フロリダはゾクゾクと背筋を粟立たせ、紅潮した自身の頬を右手で覆った。
「いいわぁ。その痛みに耐えて、声を押し殺す姿…。いつか大音量で悲鳴をあげてくれるかと思うと、鳥肌が…。はぁん」
恍惚気なフロリダに、邦枝はドン引きする。
(林檎以上に苦手なタイプ…)
左手の中にある木刀の切っ先はフロリダに向けられたままだ。
フロリダは体から白いチョウを次々と出現させる。
「お願いだから、死ぬ前に聞かせてね。あなたの嬌声」
「あなたの望みなんて、一つも叶えてあげられそうにないわ」
言うと同時に、邦枝はフロリダに突進する。
誰から見ても、一瞬消えたかのように錯覚するほどの動きだ。
それでも、フロリダの目には、
「止まってるように見えるわよ」
口元は先程よりも余裕の笑みだ。
邦枝の動きを追うように、ふわり、と四方八方から『スノウパピヨン』が襲い掛かってくる。
「!!」
驚く邦枝だが、すぐに構えを変えた。
一振りだけで自身の周りのチョウを散り散りにする。
それから真っ直ぐにフロリダに向かった。
(チョウを出される前に、一撃で仕留める!!)
猶予はコンマ数秒。
身を屈めながら突進した邦枝は、フロリダ目掛け、木刀を横に振るった。
「…かわいいおバカさん」
「!?」
左手の木刀が不意にすっぽ抜けた。
カラン、カラン、と床に跳ね、くるくると回って動きを止める。
「…え?」
左手の甲には、小さなチョウが留まっていた。
背後には、邦枝が散り散りにしたはずのチョウが舞っている。
肩越しに振り返り、その光景に目を見張った。
散り散りにしても、細かくなった状態でチョウの形を取り戻したのだ。
「うちのチョウは、細切れにしても無駄なの。何度も舞うわ」
生まれた、わずかな隙。
それを見逃すフロリダではない。
「葵ちゃん!!」
コマちゃんの一声にはっとする。
すぐにフロリダに目を移したが、視界を遮るように、鞭が目前まで迫っていた。
「アッハ―――ッッ」
バチン!!!
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