85:コブシの重さ。馬鹿の覚悟。
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テーブルを飛び越えた姫川は、テーブルを蹴って倒し、襲いかかる結晶から身を守る。
カカカカッ、とテーブルに刺さった結晶は役目を終えて気化した。
先程より切れ味がよくなっている。
ライラックは本気のようだ。
右目で姫川の姿を捉えようする。
「隠れてないで出てきたらどうですか…? すぐに的にしてあげますよ」
「おーおー、ムキになっちゃって…」
呟きながら、姫川はスペアの色眼鏡をかけた。
「……わかりました。出て来てくだされば、命だけは助けましょう。大人しく帰ると約束されるのなら危害も加えま…」
「ウソつけ!」
漏れ出ている殺意だけはウソで隠せるものではない。
ツッコミに少しだけ顔を出しただけで結晶が飛んできた。
「ライラックの能力は、殺傷力が低く、できるだけ油断させて急所に当てたかったのですが…、そろそろ自棄を起こしてしまいそうだ」
気が済むまで姫川をいたぶってから殺すつもりだろう。
ロクな殺され方をしないだろうと姫川は思う。
(…賭け事はわりと好きだが、自分の命が関わってると別だな…。『セッティング』はできてる…、あとは……)
スマホを見つめ、シャンデリアの位置を確認する。
身を隠しているテーブルから少し遠い。
考えている間にも、どんどんライラックがこちらに近づいている。
(……無傷での成功はムリだな。ま、たまには馬鹿になってみるか…。馬鹿さ加減なら、あいつらには及ばねえが…)
苦笑し、因幡と神崎達を思い出す。
神崎と言い争っている時、因幡はいつも野次を飛ばしたり、かと思えば、真ん中に入って止めたりもしていた。
「まるで夫婦喧嘩止める子どもみたい」と夏目がからかうこともあった。
因幡が来てから、敵対していた神崎ともよくつるむようになったな、と今更思う。
誰かと同じ空間で笑ったり怒ったりすることなんて、2度とないと思い込んでいた。
(わりと気に入ってんだぜ…、あの空間…)
せめて、もう少しいたいと思える、金では買えない大事な空間だ。
(絶対連れ帰る…!!)
成功するかしないかで、勝負が決まる。
覚悟を決めた姫川はテーブルを飛び越え、走り出した。
「あなたも自棄ですか!?」
ほくそ笑んだライラックは能力を発動させる。
こちらに背を向けて走る姫川を視界に捉え、宙に結晶を出現させた。
「がっ!!」
結晶は四方八方から現れ、姫川の体に次々と突き刺さる。
走りながら腕で急所を庇い、左脚のふくらはぎに刺さろうが、姫川はころばず足を動かし、鞭をシャンデリアに伸ばしてくくりつけた。
スイッチを入れると同時にすぐそこまで結晶が迫る。
バチ!!
「!?」
シャンデリアの電灯が消え、図書室内が真っ暗になる。
ライラックは迂闊に動かず、冷静に姫川の意図を察する。
誤って声を出して姫川に居場所をつかませるほど間抜けでもない。
(なるほど…。暗闇ならば、ライラックの視界が封じられると思い込みましたか…。馬鹿…というより愚かですね)
闇の中で目を見開く。
もちろん目の前は暗闇だ。
それでもライラックの心には余裕があった。
(こちらが目を開けてさえいれば、能力の発動は可能なのですよ。たとえ暗闇だろうが、相手の位置が大体わかればそこに向かって“アイシクルダーク”を飛ばせばいい。激痛のあまり悲鳴を上げれば、いい的だ)
想像するだけで笑みが浮かんだ。
その頃姫川も、手で口を押さえ、できるだけ呼吸音が聞こえないようにしていた。
(決着は…)
(相手を見つけた者が勝者)
緊迫した空間の中、ライラックは思案する。
(少しでも明かりがあればこちらが有利になる。あちらの武器は鞭に変形できる電撃を放つ警棒。的外れな場所に電光を光らせただけでこちらの勝ちだ。それにこの部屋には予備電源もある。もう数秒で点くはずだ。これもこちらの勝ちが決まる)
勝敗は1分もない。
(さぁ、どうする…。どう仕掛けてくる…!? ライラックを見つけることなど…)
「?」
喉元に冷たいものが当てられた。
「みーっけ♪」
背後からは聞こえたのは、姫川の声。
バチィ!!!
それから数秒後、予備電源が点いた。
明かりに照らされたのは、床に伏して黒い煙を上げているライラックと、それを見下ろす姫川だ。
「な゛…あ?」
喉元に警棒に戻されたスタンバトンの電撃を食らい、痺れて口が動かない。
「「どーして居場所がわかった?」って?」
しゃがんだ姫川は、ライラックのポケットからケータイを取り出した。
それにはライラックが元から持っていなかったものが付けられてある。
因幡からもらった、紫のちゅら玉ストラップだ。
投げ返す際に取りつけられたようだが、怒りで冷静さを一時的に失っていたライラックは気付かなかったようだ。
どちらかが冷静を欠いた瞬間に勝負は決まっていたのだ。
「これ、暗闇だと光るんだってよ」
「が…!!?」
ポケットから垂れ下がったストラップが、姫川にライラックの位置を教えたのだ。
「……ぐ…っ」
右目が姫川を睨む。
能力を発動しようとした時、顔のすぐ真横に分厚い本が落とされた。
「ひ…っ!!」
「チェックメイトだ」
冷笑を浮かべる姫川に、ライラックは恐怖を覚えた。
次に抵抗しようものなら、容赦なく右目を潰されてしまうだろう。
「このまま大人しくしてくれたら、痛い目見ずに済むけど?」
「ほ…、本当に…?」
「ああ」
笑顔で答える姫川は、屈んでライラックの額にスタンバトンの先端を当てる。
「ウソだけど」
バチィ!!
今度こそ意識を奪われてしまう。
入ってきた出入口とは別のドアが開錠される音が響き渡った。
「……ごほっ」
ストラップを外して自分のスマホに付け直す。
その際、咳が出て手の甲で受け止めると、手の甲には血がべったりと付着していた。
「……はぁ。慣れねえことはするもんじゃねーな。…髪も乱れるし」
リーゼントが崩れそうになるのを手直しし、本の一部を破いて傷口を一時的に止血し、顔に汗を滲ませながら苦笑を漏らす。
「馬鹿も楽じゃねえ」
姫川VSライラック―――勝者・姫川竜也
.To be continued