07:傷より痛いものって?
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別の町に引っ越し、石矢魔までとはいかなくもガラの悪い中学に入った因幡は“夜叉”という不良グループに入った。
そこは男ばかりの集団だったが、強さを買われた因幡は性別など関係なくすんなりと受け入れられた。
仲間ともうまくやっていた。
中学2年の夏。
事件は起こった。
“黒狐”という、夜叉と抗争していた凶悪グループが、夜叉を追い詰めた。
リーダーも他の仲間も抑えられ、助けに行こうと走り出した因幡は、“黒狐”のメンバーと対峙した。
「ついてこい」
仲間を人質に取られては手も足も出ず、因幡は従うしかなかった。
連れてこられたのは、古びた廃ビルだった。
薄暗く広いフロアには、怪我を負った仲間が転がっていた。
「おまえら…!」
夜叉は少数の集団だったため、そこに因幡も含め夜叉全員が集められてしまった。
「ぐ!」
夜叉のリーダーに駆け寄ろうとしたところで、因幡は角材で後ろから撲られ、その場に倒れてしまう。
「これで全員か」
窓際に座っていたのは、右手に携帯を持った、やや小柄で短い金髪の男だ。
豊川夕斗。
黒狐のリーダー・稲荷秋久の右腕だ。
彼の傍には明かり代わりの燃え上がるドラム缶があった。
「揃いましたよ、稲荷さん」
豊川は電話越しにいる稲荷に報告する。
「豊川…! 稲荷はどこだ…!?」
取り押さえられた因幡は唸りながら豊川に問う。
「あの人はあまり姿を現さないからね。あ、「妙な動きしたら、仲間は全員病院送りでーす」だって」
茶化した言い方だが、本気でやることは知っている。
豊川は携帯を耳に当て、稲荷の言葉をそのまま伝える。
「「じゃあ、全員揃ったことだし、ゲームをしようか。噂ではこの中にひとりだけ女子がいます。それが誰か教えてくんない?」だって」
夜叉全員の脳裏に因幡が浮かび上がるが、誰もそれを口には出さない。
そこで豊川は稲荷の言葉を聞き、追い打ちをかける。
「「先に教えてくれた人を見逃し、家に帰してあげる」だって。「もし、ゲームを放棄するなら…」」
黒狐全員が角材などの得物を手にする。
「……そ…、そいつ…です…」
「…!!」
そう言って扉近くで倒れていた夜叉のひとりが因幡を指さした。
全員の目が因幡に向けられる。
「てめー!!」
怒鳴ったのは、リーダーだった。
しかし、それも角材で頭を撲られて黙らされる。
「あー、やっぱり? 男にしては女っぽい顔してると思ったんだよね。「ありがとう。帰っていいよ」だってさ」
豊川はしっしと手を振った。
報告した夜叉の一員は立ち上がり、痛む体を引きずるように一歩一歩と前に進み、扉のノブに手をかけた。
「ごめん…、因幡…!」
それだけ言って、出て行く。
因幡はなにも返さなかった。
「「じゃあ次、このコの名前、誰か教えて。また先着順」だって」
それだけなら、と思ったのだろうか、今度は早かった。
「因幡…桃」
またひとり、解放される。
「カワイイ名前だね。稲荷さんも気に入ったみたい。「じゃあ、次、そのコの年と…」」
黙れば見せしめとして誰かが集中的に殴られ、恐れをなし、ひとりひとりが因幡について答えていく。
小さな質問に、大きな裏切り。
それでも因幡は、仕方ない、と責めずに歯を食いしばって耐えた。
残った夜叉のメンバーが4人になり、豊川は「ああ、もう終盤?」と残念そうな声を出し、頭を垂れた。
「うん。あと4人。…わかった。じゃあ、もうやっちゃっていいんだ?」
豊川の口端が不気味に吊り上がり、豊川はドラム缶に近づいて火箸でそこからよく熱せられた真っ赤な鉄パイプを取り出した。
全部で3本。
まさか、と因幡の頬に冷たい汗が伝い、唾を飲み込んだ。
「「まどろっこしいから残り3人には、後先なしで解放してあげよう! この、よく熱せられた鉄パイプを…、桃ちゃんか自分に当てるかの2択!」だってさ」
豊川が左手でピースをつくる。
「「やっぱり女の子だし、顔は残酷だよね。桃ちゃんなら、どこでもいいよ。ただし、おまえらが自分でやるなら、当てる部分はボクが決める」…だってさ」
その場の空気が凍りついた。
黒狐のメンバーも、やりすぎだ、と引いている者もいる。
「カウントダウン。…5…4…」
焼けた鉄パイプとそれを持つための軍手が夜叉のメンバーに放り投げられる。
「3…」
豊川は楽しげにカウントを続ける。
1秒ずつ、黒狐のメンバーが得物を片手に近づいてくる。
「2…」
夜叉の2人が鉄パイプを持った。
「1…」
そして、リーダーまでもそれを持ち、因幡に振り返る。
「…リー…ダー?」
「さあ、選択は!!?」
鉄パイプの先端は、因幡に向けられた。
因幡は逃げようとしたが、押さえつけられているため、ままならない。
リーダーと他のメンバーも苦しげで申し訳なさそうな顔をしていた。
「―――――――――――――――!!!!!」
首の後ろと背中に激痛が走り、意識が吹き飛んだ。
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