85:コブシの重さ。馬鹿の覚悟。
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ライラックが見上げる瞬間を見計らい、バンッ、と姫川は本を顔面に叩きつけた。
「…っ!!」
バチッ!!
それからすかさず、スタンバトンを突き出して先端をライラックの右肩に押し当ててからスイッチを入れ、電撃がライラックを襲った。
声にならない声を上げたライラックは細目を見開き、姫川を睨みつける。
「っっっ…の、クソガキが!!」
予想しなかったダメージと屈辱に憤慨し、左手でスタンバトンを払いのけ、姫川の腹を蹴り飛ばした。
ドドドド!
そのあと、前髪で隠れた右目が姫川を捉え、隠していた能力を今度は露骨に発動させた。
宙で凍結して出来上がったいくつかの氷の結晶が、手裏剣のように回転し、姫川の前面に次々と突き刺さる。
姫川は背後の本棚に当たり、ぐったりと動かなくなる。
ぶつかった衝撃で棚の本が落ちた。
「調子に乗った罰ですよ…」
はぁ、と息をついたライラックは右目を隠す前髪を掻き上げる。
右目の周りには氷の結晶のような紋様があった。
中心の瞳は赤く染まっている。
“アイシクルダーク(騙し撃つ短剣)”
飛ばされるその結晶は透き通っており、肉眼捉えるのは難しい。
ライラックの視界に入ってさえいれば、どんな空間でも出現させることは可能だ。
どこかに突き刺ささらなくても、ライラックが望めば一瞬で気化させることもできる。
証拠も残らないため、相手に能力の正体がバレることはない。
ライラックは姫川を見下ろし、食らった個所を確認する。
(…心臓にも突き刺さっている…。これは助からない…。けれど、念のため…)
トドメを刺そうと、姫川のリーゼントをつかむ。
その時、ズボンのポケットが震えた。
ケータイだ。
取り出して耳に当てる。
「…ダッチ。…あー、そうですか。よかったですね。こちらはとっくに片付けましたよ」
(本当は今からですけど)
「おかしな頭の男ですよ。眼鏡をかけた。はい、死にました」
“ああ!? 嘘つくんじゃねーよ!! このウソツキ!! またいつもの…”
「ウソは好きですが、残念ながら本当です」
(嘘ですが)
内心で舌を出す。
「大体、嘘だったらこんな電話してませんよ」
さらりと言えば、ケータイ越しのダッチが言いよどんだ。
“う…っ、そ…、そうだよな…。あ、でも、どっちが先にジジ様に報告するかで勝負が決まるからな!! だからあと数秒待…”
“ふざけんな姫川てめーコラ…!!”
「!」
聞こえてきたのは、神崎の声だ。
“行くしかねーんだ、とか抜かしたのはどこのボケだ!! 因幡助けんだろ!! 死んだフリしてねーで、とっとと蘇生しろ!! オレが先にこいつブッ飛ばして到着してやるから覚悟しとけ!! てめーにまだ言ってねーことがあるだろーが!!”
“おい、返せっ”
「ははは、トドメ刺す前とは思えない元気っぷりですね。ダッチ、先にジジ様に褒められるのはライラックのよう…」
「ネタバレしてんじゃねーよ、神崎」
「!?」
不気味にほくそ笑む姫川。
ライラックが振り向くと同時に、シャツの下に隠していた分厚い本をライラックの股間目掛け振り上げた。
ゴキンッ!!
「ほがぁ!!!」
的確なヒットだ。
しかも角の部分。
電撃を食らった時よりもとてつもない激痛がライラックを襲う。
「うごっぉおおお」
“どうした!? どうしたライラ―――ック!!?”
ライラックが股間を押さえて床をのたうちまわっているうちに、姫川はケータイを拾い上げた。
「ってことで神崎、オレは無傷だから、そっちもオレのこと心配してねーでとっとと片付けて追いついてこい」
“な、なんだその言い草!! 別にてめーのことなんざこれっぽっちも1ミリも1ミクロも心配してね…”
言い終わる前に通話を切った。
その口元はニヤついている。
「てめーの能力は見破った」
「ど…、どうやって…!!」
未だに股間を押さえながらライラックは尋ねた。
その目には涙が滲んでいる。
「スマホ…っつーか、今のケータイってほとんどついてると思うが、動画機能もある」
スマホを操作して画面をライラックに見せつける。
姫川が背中に攻撃を食らう瞬間を撮影したものだ。
結晶が姫川を切りつけるシーンや、その際のライラックの状態まで撮られてある。
ライラックははっとする。
(あの時…!! 仲間と連絡しようとしたのではなく、ライラックの戦いを撮影して能力を調べるために…!!)
「てめぇから隠れてる間は地道な作業だ。止めては確認、止めては確認…。画質が良くてよかった。オレ、撮影の才能あるかもな」
自画自賛する姫川。
本を隠していたのは能力を見破ったうえだった。
頭部はリーゼントのおかげでケガもない。
「ああ、これ、返すぜ」
姫川はライラックのケータイをライラックに投げ渡し、ライラックは姫川を睨んだままケータイをポケットに戻す。
今まで体験したことがないかのような屈辱にラ腸は煮えくり返り、よろよろと立ち上がった。
能力がバレてしまわないようにカモフラージュとして使っていたナイフの柄をその場に捨てる。
もう姫川相手には必要のないものだ。
「ライラックの能力を知ったからには、本当に消えてもらうしかありませんね。死体はカカシのように磔にしてジジ様に献上するとしましょう!!」
姫川はスタンバトンを鞭状にし、床を打つ。
「はぁ? それもジョーダン? ヘタクソが」
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