84:譲れない闘いなのです。
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皮鞭が、バチンッ、と床に叩きつけられる。
邦枝は木刀を構えたまま、フロリダの動きに注意した。
フロリダから漂っているのか、冷気を感じ取る。
鋭く睨みつける邦枝にフロリダは小さく笑った。
「あらあら、つれないのねぇ。まあ、その方が調教のし甲斐があるってもんだけど」
赤い唇から発せられる言葉一つ一つに色気が含まれていた。
「めっちゃエロい!! エロいで!! なんやあのチチ!! 葵ちゃんの何倍あるん!?」
鼻息荒く興奮するのはコマちゃんだ。
遠慮なくその美貌を凝視している。
ゴガン!!
はしゃぐコマちゃんの脳天を、邦枝が背後から木刀で撲りつけた。
その勢いでコマちゃんの体は床にめり込む。
「真面目にしないと、このまま墓をたてるわよ?」
コマちゃんの顔の横に突き立てられた木刀。
邦枝からは辺りを氷漬けにしそうなオーラが漂っている。
「こっちもすごい冷気っ!!」
気を取り直し、コマちゃんは巨大な獣へと変貌した。
面白くなってきたのかフロリダは「あら」と期待を抱く。
「ただのマスコットかと思ったら、大きくてたくましい…」
「え、そう?」
一瞬、またマスコットに戻りそうになるコマちゃん。
「コマちゃん」
「あ、はい。真面目にやります」
侮蔑と怒気を含んだ邦枝の声にキリッとする。
「愉しませてね。そして跪いて足を舐めてちょうだい」
邦枝が跪く様を想像し、小さく震えて疼きを見せるフロリダ。
「お断りよ」
冷たくあしらった邦枝は木刀を手に、コマちゃんと共に突っ込む。
「アハッ」
続いてフロリダも床を蹴って鞭を振るった。
木刀と鞭はぶつかり合い、衝撃でダンスフロアが震える。
コマちゃんは背後からフロリダに迫り、前足で薙ぎ払った。
フロリダは倒れず床を滑り、体勢を戻して邦枝を見据える。
「ヤるじゃない」
褒めると同時に邦枝に向けて鞭を振り下ろした。
邦枝は咄嗟に木刀を前に構え、飛ばされた鞭を絡ませる。あとは力勝負だ。
どちらも引っ張り合って互いの武器を奪おうとするが、そこから動こうとはしない。
(なんて力なの…!)
木刀が折れるか、鞭が千切れるか。
力技では勝負がつかないと判断した邦枝。
その胸元の王臣紋が光り、鞭を絡ませたまま木刀を構え直した。
“心月流抜刀術弐式 百華乱れ桜”
大きく揺れ動くような軌道でフロリダに一撃を見舞おうとする。
「!!」
フロリダの横を通過した邦枝は違和感を覚えた。
感触がその手に伝わってこない。
「…え?」
「さすがねぇ。夢中にさせてくれるわ」
肩越しに振り返ると同時に、フロリダの毛皮のコートが破れた。
口端を伝った血を舌なめずりする。
その瞳は、血と同じ色に染まっていた。
「でも残念。本当の調教タイムはこれからなの」
カラン…、と邦枝の手から木刀が落ちる。
「な…に?」
右手は石のように動かない。
(手が…動かない…?)
その時、目の前を白いチョウが横切った。
目で追いかけると、白いチョウはフロリダの周りを旋回している。
1匹だけではない。
フロリダの肌から剥がれるように、チョウが次々と出現しているのだ。
邦枝ははっとする。
ヒルダが忠告した言葉を思い出した。
「白いチョウに気を付けろ」。
(もしかして、ヒルダさんが言ってたのって…)
このチョウのことではないのか。
ズン、と何か大きな物体が倒れた音がした。
そちらに振り向くと、コマちゃんが倒れていた。
「ぐ…」
「コマちゃん!!」
コマちゃんの巨体には、白いチョウが群がっていた。
「あかん…。動けへん…」
徐々に魔力が奪われているようだ。
ふわりと舞う1匹のチョウがフロリダの人差し指に留まる。
「動けない? …でしょうね、魔力を吸い取られているのだから」
「魔力を…?」
「ええ。私のチョウは、悪魔の魔力を奪い…、神経を奪うの…。ただ一つの神経を抜いては」
「!!」
バチン!!
いつの間にか振り上げられた鞭が宙を切り、邦枝の右肩に叩きつけられた。
壮絶な痛みが肩から全身に走り抜ける。
「―――っ!!!」
「葵ちゃん!!」
「奪われた他の神経の分、痛覚があなたに襲いかかる。これが私の能力―――“スノウパピヨン(吸い奪う蝶)”!!」
「う…く…っ!!」
まだ受けた衝撃が全身をじんじんと苦しめる。
その場に片膝をついた邦枝の目尻には痛みの涙が浮かんでいた。
「アハハ」
フロリダは邦枝の髪をつかみ、無理やり引っ張り上げる。
「あう!!」
それさえまるで引き抜かれるような痛みだ。
「精々、いい声で啼きなさい」
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