84:譲れない闘いなのです。
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姫川は冷静にライラックを観察する。
右目が隠れるほどの紫の長い前髪、上半身裸で、その肩に羽織ったコート、自身と同じくらいの身長。
今度は周りの観察だ。
館と言いたいくらい広大な図書室に、障害物となる本棚やテーブル、天井を見上げれば部屋を照らす大きなシャンデリアがあった。
ライラックの右手には刃のないナイフの柄が握りしめられていた。
馬鹿げた光景だろう。
そんな見え透いた油断には乗せられない。
肌に伝わる殺気は修羅場をくぐってきた者にしかわからない。
(仕掛けてみるか…、あっちから仕掛けさせるか…)
どちらにしろ、相手の力量の情報が不十分だ。
迂闊に動けない。
(元々、先に立って行動するタイプじゃねえからな…、オレは。ここは様子見で挑発して誘ってみるか)
「どうした、さっさと来いよ。変わったカッコウしやがって。ファッションのつもりか?」
「変わった頭のあなたに言われたくないし、随分と見え透いた挑発ですね。ライラックが乗るとでも? まあ、ライラックの能力がわかない以上、迂闊に動けませんからね…。策略家の弱点は深読み。わかりますよ」
嘲笑の笑みを浮かべるライラック。
姫川は真顔を保ったまま、内心で舌打ちする。
(読まれてら…。常識が通じない馬鹿もやりづらいが、同じタイプもけっこうやりづらいんだよな…)
どちらも知略を得意とするならば、勝敗はどちらかが相手の情報を持っているかにかかってくる。
ライラックは鼻で笑った。
「ま、どちらにしてもこのままでは埒があかないので、お望み通りこちらから攻めてあげますよ」
「!」
本棚から飛び降りるライラック。
同時にナイフの柄を振り上げ、姫川の頭上に振り下ろした。
ギン、と金属音が響き渡る。
咄嗟に振り上げたスタンバトンに何かが当たったのだ。
姫川はライラックの持っているナイフの柄を凝視する。
刃はどこにも見当たらない。
(今、何が当たったんだ?)
疑問に思うもつかの間、ライラックは目つきを鋭くしてナイフの柄を振り続ける。
姫川は動きに合わせ、ひたすらスタンバトンで防御し続けた。
スタンバトンは何かに弾かれるように金属音を響き渡らせる。
勢いに弾かれて手から放れてしまわないようにしっかりと握りしめた。
(見えないナイフ…!!?)
もうすでに能力が使用されているのか、見開かれたライラックの瞳は赤く染まっていた。
戸惑っている姫川を面白がるかのようにライラックは手を止めず、弄ぶように振り続ける。
(―――なら…!!)
姫川は次の攻撃を弾き、その瞬間を狙って一歩前に踏み出して左手を伸ばし、ライラックの手首をつかんだ。
ナイフの方向を床へ向ける。
「!」
ライラックは驚きの表情を見せた。
姫川はスタンバトンを振り上げる。
ブシュッ
ライラックをつかんだ方の手首に痛みを覚えた。
一線に切れ、血を垂らしている。
「!!?」
ナイフの柄からは外れたはずだ。
「ライラックはその顔、大好きですよ」
ライラックの驚いた表情は演技だった。
口端をつり上げ、力任せにナイフを振る。
反射的に姫川は後ろに飛んだ。
色眼鏡が真ん中から切られ、足下に落ちる。
(なんだ…? こいつの能力は…)
ふと胸部に痛みを覚えた。
見下ろすと、胸部の服が斜めに裂け、浅く傷がつけられたのか血が滲んでいた。
(わからねえ…!!)
食らっているのに姿の見えない能力に、額に冷や汗が浮かぶ。
「そう…。もっと、ライラックを恐れてください」
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