84:譲れない闘いなのです。
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エントランスホールに鈍い音が響き渡る。
コブシとコブシが互いの肌を殴り合う音だ。
楽しむように東条は笑みを浮かべ、タンの顔や腹を殴りつける。
タンは未だに能力を発揮させようとせず、むしろ使用するのをもったいぶるように東条との殴り合いを楽しんでいた。
ズン、と重い衝撃がタンの腹に打ち込まれた。
「…ッ…クク…」
よろめいたタンは血と唾を吐き捨て不敵に笑い、一度東条と距離を置いた。
まだまだ余裕がある東条はコブシの構えをやめない。
「どうした。まだやれるんだろ? まさかそれがてめーの本気じゃねーだろうな?」
空気で感じ取っていた。
タンは何かを隠し持っていると。
追い詰められた危機感を感じて、それは初めて発揮されるのだ。
タンは口元の血を右腕で拭い、やる気を見せる東条を見据えた。
「ああ…。わかってんじゃね゛ーか」
喜びに打ち震えるタン。
その瞳が赤く染まる。
「たの゛しい…。たの゛しいぞ、おまえ…!!」
「!」
手の甲に雪の結晶の紋様が浮かび、そこから広がるように白い霜がタンの両腕を覆う。
まるで手甲のように纏ったそれは、エントランスの明かりに反射し、キラキラと光っている。
「おまえを沈めたら…、気持ちいいんだろうな゛…!!」
両腕の霜は、タンが動けば雪のように床に舞い落ちた。
タンは右足を上げ、足下の床を砕く。
その際弱震が起こり、東条はよろめかないように踏み止まった。
次にタンを見ると、大柄なタンの体より大きな床の塊を、ボールを持つように軽々と持ち上げていた。
「やべっ」
次にタンがすることを察した東条は構える。
「受け止められるか?」
ストレートに投げつけられたそれは隕石のように東条に迫った。
東条は避ける素振りを見せず、左腕を構える。
同時に、腕の王臣紋が光った。
「フンッ!!」
ドゴッ!!
振られたコブシが塊を粉々に砕く。
ビリビリと衝撃が腕に伝わった。
「今の゛はほんの゛腕試しだ」
「!!」
横から声が聞こえ、振り向くとコブシを構えたタンがいた。
東条が床の塊を砕いた際に距離を縮めたのだろう。
右のコブシが東条の顔面目掛け振るわれる。
東条はそれを反射的に上げた左腕で防いだ。
先程の殴り合いと同じ衝撃だ。
「ニ゛ヤリ…」
タンはほくそ笑みを見せると、後ろに飛んで再び東条と距離を置いた。
「…?」
東条は受け止めた左腕に違和感を覚えた。
殴られた個所に、霜が張り付いていたからだ。
冷たさとわずかな痛みがあった。
タンは東条を指さし、確信を込めて宣告する。
「おまえはもう終わったな゛。これから、オレの゛サンドバッグに゛な゛るんだぜ?」
「何を意味わかんねえこと…。サンドバッグになんのはてめぇの方だ!!」
東条はコブシを構え、タンに突進した。
タンは突っ立っているだけだ。
避ける必要がない、というように。
「おおおおっ!!」
瞬間、
「!?」
ガクン、と左腕に重みを感じた。
まるで地面に吸い寄せられるように左腕ごと床に倒れる。
「…っんだ…コレ…!?」
(滑ってこけたわけじゃねぇ…!! 左腕が急に重くなった…!?)
怪訝な目で左腕を凝視する。
自身に起こった異変の原因はすぐに気付いた。
左腕に張り付いていた霜が、徐々に拡がっているのだ。
タンは近づき、床に倒れた東条を見下ろす。
「重いだろう? これがオレの゛能力だ…」
“ライムグラビティ(粘り付く重力)”
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