84:譲れない闘いなのです。
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男鹿はベル坊と共に鏡の道を進んでいた。
どこを見ても自分達の姿しか映ってない。
「どこを見ても鏡、鏡、鏡…」
変わり映えのない光景にいい加減男鹿もベル坊も飽きてきた。
出口も見当たらず、歩を進め、時間が経つごとに苛立ちが募っていく。
のんびりしている場合ではない。こちらには時間がないのだ。
「そろそろ苛立ってきたか」
「!」
前を見ると、真っ赤な服を着た男―――シルバが近づいてくる。
シルクハットを取り、一礼した。
「初めまして、蝿の王。我輩はシル…」
視線を上げると、男鹿のコブシがすぐ目の前まで迫っていた。
身をひるがえして紙一重でかわす。
「名乗っている途中なのだが」
「聞いてる時間はねーんだ。さっさと終わらせようぜ」
どうせ敵だと男鹿は雰囲気で判断し、先手必勝だと手の甲にゼブルスペルが浮き出、雷が纏われた。
“ゼブルブラスト”!!
相手の力を試そうともせずに、“ゼブルブラスト”をシルバ目掛け放つ。
シルバは今度は避ける素振りも見せず、それを真っ向から受けた。
辺りは閃光に包まれたが、その衝撃で鏡が割れることはなかった。
シルバの姿は消え、静けさが戻る。
「…行くぞ、ベル―――」
言いかけた直後、背後に閃光が迫った。
「「!!?」」
はっと振り返ると同時に、体に直撃する。
まともに受けた衝撃と、体中に駆け巡る電撃。
それは、先程放ったはずのゼブルブラストだ。
「―――なっ…」
「ニャッ」
直撃する寸前、ベル坊は離れたところへ投げられ、その身を打った。
「とーたん!!」
防御もできず、煤まみれになった男鹿にベル坊が這い這いで寄る。
「いかがだろうか。―――おのれ自身の技の味は」
「ど…こだ…」
よろめいた男鹿だったが、倒れないよう鏡の壁に手をつき、壁に背を預けてシルバの姿を目で探す。
「ここだ、ここ」
「!!」
壁があるはずの背後から、自分の聞こえた。
「!?」
ベル坊は目撃してしまう。
男鹿の背後にある鏡の壁には、男鹿の鏡像がこちらに肩越しに振り返ってニヤリと笑っていた。
鏡像は両手を組み、壁に背を預けている男鹿の後頭部目掛けて振り下ろす。
「ぐっ!!」
その衝撃に男鹿は今度こそ両膝をついた。
振り返ると、鏡の中の自分に見下ろされていることに気付いて目を丸くする。
「ケケケ」
挑発的に指で招き、ベッと舌を出している。
「なんだそのムカつくツラァ!!!」
自分のツラだというのに、男鹿は青筋を浮かべて鏡の中の自分に向かってコブシを振るった。
鏡は割れて砕ける、はずだった。
「!?」
まるで水面に手を突っ込むように男鹿のコブシは鏡の中に入り、突っ込んだ場所の少し上から鏡の中に入ったはずの自分のコブシが出現し、額を殴りつけた。
後ろによろめき、「なんだこれ…、鏡じゃねえのか…」と目の前の鏡の壁を凝視する。
「この鏡は割れない」
男鹿の鏡像は男鹿の声で断言した。
それから一歩一歩進み、やがて鏡を出て本人の前に現れる。
「貴様は、貴様自身に殺されるのだ」
そう告げて鏡像が男鹿に躍りかかる。
男鹿は咄嗟に振るわれたコブシを避け、突き出された右足を左腕で防いだ。
(オレの、動き…!!)
防ぎ続けていると、不意に背後から羽交い絞めにされた。
肩越しに振り向くと、別の男鹿の鏡像が不敵な笑みを浮かべて男鹿を捕まえている。
「な…に!?」
ゴッ!!
目の前の鏡像のコブシが、男鹿の腹に叩きこまれた。
その衝撃は、本気を出した男鹿自身のものだ。
込み上げてきた血を吐きだし、顔を上げれば、鏡像は再びコブシを振り上げ、何度も男鹿の顔や体を殴りつけた。
「ダーッ!!」
それを止めたのはベル坊だ。
電撃を放ち、鏡像を攻撃して動きを鈍らせた。
その隙に、男鹿は勢いをつけて後頭部で背後の鏡像の顔面を打ち、離れた際に目の前の鏡像に強烈なアッパーカットを食らわせる。
「サンキュ、ベル坊」
鏡像達との距離を置くと、ベル坊が肩によじ登ってきた。
鏡像は姿と攻撃力だけでなく体も頑丈だ。
気絶せず、男鹿を見据えている。
「アー…」
ふとベル坊は背後に振り返り、男鹿の肩を叩いた。
男鹿も振り返る。
思わず、冷や汗を頬に浮かべて笑ってしまった。
壁から、次々と自分自身が出現しているのだ。
「時間をとらせてくれるぜ、まったく…」
「そんなに急ぐことはない。あの方が完全に復活なさるまで、我輩と鏡遊びでもしようではないか。―――戯れの時間などあっという間だ」
不気味に微笑むシルバが、どこかで言った。
“コールドミラー(映し返す鏡)”
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