07:傷より痛いものって?
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
日曜日、因幡は手ぶらで神崎と姫川のいる病院へと向かっていた。
2人の退院まで残すところあと1週間と3日。
こうして見舞いにいくのもあとわずかというわけだ。
見舞い品のヨーグルッチとコーヒーは病院内に設置されてある自動販売機で買う予定だ。
ほぼ毎日といっていいほど行ってるので、見舞い品も質素なものになった。
それでも文句言わずに受け取ってくれる。
「♪」
鼻歌を歌いながら歩き、病院の玄関前に到着した。
「!」
ガラスの自動ドア越しに騒がしい足音が聞こえる。
前を見ると、肩を並べて廊下を駆ける2人の姿があった。
「あいつらなにやって…」
「あ!」
「因幡!」
神崎と姫川もこれから病院内に入ろうとする因幡に気付いた。
「!!」
因幡は神崎と姫川越しに見えるガタイのいい看護師を見て、顔を青くした。
不良共と喧嘩したあと、血まみれの頭のまま病院に足を踏み入れると同時に因幡を取り押さえたあの巨漢のような看護師だ。
因幡の中ではすっかりトラウマとなり、逃げ腰になっている。
「待ちなさあああああい!!!」
2人は全力で追いかけてくる恐怖の看護師から、こちらも全力で逃げている。
因幡は足を一歩踏み出し、自動ドアを開けた。
2人はほぼ同時に飛びだし、神崎は因幡の右腕に、姫川は因幡の左腕に自分の腕を引っかけて連れて行く。
「うわっ! やめろ! 自分で走れるから!」
「逃げるんじゃないわよおおおおお!!!」
「「「ひ――――っ!!」」」
まるで未来から来た殺人ロボットに追いかけられているようだ。
*****
なんとか逃げ切った3人は息せき切らしながらファミレスに入り、出された水を一気飲みして喉の渇きを潤す。
「「「ぷはぁっ!」」」
「それで…、なんで病院抜け出してきたんだ? あと1週間で退院だろーが」
落ち着いたところで因幡は向かい側に座る2人を見、切りだす。
神崎は足は完治しているものの右腕はギブスを、姫川は首にギブスをはめたままだ。
完全に完治はしていない。
「1週間も待てるかよ。オレはさっさと出てシャバの空気を吸いたいんだ」と神崎。
「囚人かっ」とツッコむ因幡。
「何度か逃亡を試みたが、ほとんどあのナースに捕まっちまった」と姫川。
神崎と姫川の脳裏に、脱走の日々がよぎる。
窓からカーテンを結んで下りる脱走、トイレに行くフリの脱走、深夜の夜逃げ脱走など。
「壮絶な戦い繰り広げてたわけだ。オレが帰ったあと…」
2人の苦渋に満ちた顔からすべてを悟る。
因幡は携帯を取り出して電話をかけると、2人は慌てた。
「おいおい、どこにかける気だ!」
身を乗り出して逃げる準備にかかる神崎を手で制す。
「慌てるな。病院じゃねーよ。夏目と城山に電話かけて呼び出すだけ。…少し早いけど、快気祝いだ。病院のメシはもう飽きただろ」
そして間を置いてから、「好きなだけくえ」と付け加えた。
2人はキョトンとした顔をし、恥ずかしげに視線を逸らしながら夏目と電話する因幡を見つめる。
(こいつ、本当にキャラ変わったよな…)と神崎。
(丸くなったのか?)と姫川。
それからしばらくして夏目と城山がファミレスに来た。
「神崎君と姫ちゃん、病院から脱走してきたんだって?」
会って最初の言葉がそれだ。
笑いごとのように言う夏目に神崎が「笑ってんじゃねーよ」と叱咤する。
「よかったんですか?」
因幡が窓際に詰め、夏目、城山の順番に座り、神崎は城山にメニューを渡した。
「いいんだよ。ほら、好きなの頼め」
「ファミレスで快気祝いってのがケチくさいな。一応金持ちだろ」
姫川の言葉に、因幡はムッと顔をしかめた。
「ファミレスもちゃんとしたものを出してるんだ。文句言うならてめーだけ自腹だぞ。どうせ、サイフなんてねぇだろーが」
図星を突かれ、姫川は黙ってフェアメニューを見る。
最初にピザやサラダが運ばれ、みんなでそれをつついて食べ始めた。
「あのナース、元・女子プロレスラーだとさ」
「ああ、どうりで手に負えないわけだ」
「あと石矢魔高校出身」
「マジ!? オレ達の先輩じゃねーか」
「でもレッドテイルじゃなかったんだな。もっと最強の女がいたってことか?」
「その時代の総長ってどんな女だ」
などと他愛のない会話をする。
どれくらい話しただろうか。
「あはは! いくらオレでもそんな逃走思いつかねーよ!」
そんなことも気にせず、因幡はただその空間に浸り、笑っていた。
.