82:もう一度、殴り込みましょう。
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夕暮れの空に、ジジがいる摩天楼の頂上を中心に暗雲が立ち込める。
摩天楼にいた卯月達はほとんど氷の塵と化し、上空へ舞い上がり、ジジの魔力の一部となった。
もうどこにも卯月の姿は見当たらない。
氷のイバラの侵食も止まらない。
自分の領域は摩天楼に限らず、住宅街へと魔の手を伸ばし、領域を拡大しようとしていた。
一時的に安全な広間へと集合した男鹿達。摩天楼の頂上にあるイバラの城を見上げる。
「眠り姫のお城みたいね…」
そう呟いたのは邦枝だ。
「そんなロマンチックなもんじゃねーだろ」
姫川が呆れるように言う。
「どーすんだよ、これじゃもう入れねえんじゃ…」と神崎。
「先に言っとくが、ヘリはもう使えねえぞ。今度は叩き落とされるどころじゃ済まされねえ」と姫川。
「とんでもない魔力ナリ。本気で人間界を自分のものにしようとしてるっちゃ?」
「どんどん近づけなくなるな」
奈須に続き、鷹宮もどうしたものかとわずかな焦りを覚えていた。
「…!! 古市は…、古市とヒルダは…!?」
「由加もまだ中に…!!」
集合した面々の中に、古市、ヒルダ、花澤の姿はない。
取り残されているのなら一大事だ。
古市と花澤は普通の人間だ。
ジジの力に巻き込まれてしまったのなら吸収されることなく塵となって命を落とす。
「ご安心を」
急に男鹿の足下のマンホールからアランドロンが出現した。
「オッサン!! そんなとこから!?」
アランドロンは「よいしょ」とマンホールから出ると、自身の身体を開いた。
「「「「「!!??」」」」」
見慣れていない者は驚愕だ。
開けられたアランドロンの中から出てきたのは、花澤に肩を貸された、満身創痍の古市とヒルダだ。
「古市!! ヒルダ!!」
「ダブ!!」
男鹿は急いで駆け寄った。
2人は地面に寝かされる。
「うぅ、重かったっス…」
「由加!!」
邦枝も花澤に駆け寄り、その肩に手を置いた。
古市とヒルダと比べ、傷は大したものではない。
「強敵だったゆえ、逃げてまいりました」
アランドロンはそう言いながら、疲れ切った様子でハンカチで汗を拭う。
「こいつらが、なんでこんな……」
魔界のティッシュを使用した古市と、侍女悪魔最強のヒルダをこんなボロボロにするほどの実力者が、あの摩天楼にいるというのだ。
「古市!! しっかりしろ!!」
気合を入れるために男鹿は古市の胸倉をつかみ、
パァン!!
「ごはっ!!」
容赦ない平手を打った。
「クソゥ!! 起きねぇ!!」
「どけ男鹿。オレも気合を入れてやる」
名乗り出たのはコブシを鳴らす東条だ。
平手ではなくコブシで起こす気なのだろう。
「トドメ刺す気かっ!!」
命の危機を感じ取り、ツッコミという気合で起き上がる古市。
「何があったの?」
邦枝が尋ねると、古市は苦しげに返す。
「くっ…、女子に膝枕されたら痛みが和らぐ気が…」
「どきなさい。私がトドメ刺す」
大森は鎖を手に古市に近づく。
「全然元気…」
谷村は古市の通常運転に引いている。
「…バッドパーツってやつらにやられて…」
「バッドパーツ?」
聞き返したのは神崎だ。
「柱師団の力をもってしても…、このありさまだ」
「ヒルダ!」
ヒルダは首だけを男鹿に向けて言葉を続ける。
「気を付けろ…。奴らは…、並みの悪魔ではないぞ…。白いチョウに…気を付け……」
忠告し、力尽きて目を閉じるヒルダに、アランドロンは「すぐにラミア殿を呼んでまいります!!」と魔界へと行った。
「白い…チョウ?」
邦枝はヒルダが口にした気になる単語を反芻する。
「……めんどくせぇ連中までいるようだな…」
姫川は摩天楼を見上げて呟いた。
「……じゃあ、このまま黙って見てろって言うの? ボクはやだよ」
言い出したのはユキだ。
ゆっくりと摩天楼の方向へ歩き出す。
「おい」と神崎が声をかけて止めようとするが、「止めないで」と振り切ろうとした。
「ユキ…!!」
走り寄ったフユマが、ユキの体を後ろから抱きしめ膝をつく。
「フユマ…?」
「おまえまで…行かないでくれ…」
「……………」
ユキが行ってしまえば、今度こそ一人きりとなってしまう。
もう誰も目の前から消えてほしくない。
それだけは耐え切れなかったのだ。
その心中を察し、ユキはフユマの震える腕を振りほどくことができなかった。
“やっと親父も素直になったか”
「「「「「!!?」」」」」
突然聞こえた声に誰もが反応した。
「…なご…ちゃん?」
なごりの声にユキは辺りを見回す。
男鹿達も辺りを見回すが、声の主の姿はない。
“こっちこっちー”
「姫川のケツから聞こえてんぞ」
気付いた東条は姫川の尻を指さした。
「何?」
「なごちゃん!!」
ユキはすぐに姫川の元へ走り、その尻に触ろうとした。
姫川はユキの額を押さえつけて大人しくさせる。
「人のケツ触ろうとしてんじゃねえよ!!」
空いた手で尻ポケットを触ると、鮫島に渡されたスマホがあることを思い出して取り出した。
「それ、なごりのスマホ…」
フユマはスマホを指さして言う。
「こっちに避難する際、鮫島に渡されたモンだ」
試しに、真っ暗な画面を親指でタッチしてみる。
すると、ポン、と軽い音が鳴り、黒いウサギマークが画面に映し出された。
背景は白い。
“あー、あー、皆の衆、聞こえておるかーい?”
ウサギマークが微かに震え、なごりの声が発せられた。
「なごちゃん…なの!?」
ユキに続き、男鹿達が輪になって集まり、画面をのぞきこむ。
「おまえ…生きてたのか…」
驚愕するフユマに、「んー」と曖昧な声を発する。
“喜んでくれてるとこ申し訳ないけど、コレ、制作者(なごり)がもしもの時のために、ジジにバレないように作っておいた魔言アプリだから。大変だったんだぜ。隠れながら作るの”
「ちゃんと会話できてるじゃねーか」
姫川の言葉に魔言アプリは言い返す。
“制作者の意識がプログラムされてるからな。制作者が知ってることだけオレはおまえらに教えることができる。そうだな…。オレの事は『なごシリ』と呼んでもらおうか”
「ヤなネーミングだな。ケツか」
そうつっこむのは男鹿だ。
“とりあえず朗報。因幡桃と制作者は生きてるよ。今のとこ”
「本当か!?」
飛びつく神崎に、なごシリは「うん」と頷くように言った。
“あくまで今のとこは、だけど。シロトとクロトは、元はジジの一部だけど、長らく身体から離れてたから、完全に契約者たちから引き剥がして、馴染ませ、融合させるのに時間がかかる。逆を言えば、それまで契約者たちは無事ってこと”
時間制限はあるが、目の前で心臓を貫かれたはずの因幡となごりが生きていると知り、一同はひとまず安堵の色を見せた。
「……シロトは、元は、ジジの一部…。それは初めて知った。―――というか、オレ達は、因幡の契約悪魔のことを何も知らねえな」
言い出したのは姫川だ。
腕を組み、考える仕草をする。
因幡がシロトという悪魔と契約しているのはなごりの口から聞かされていたことだ。
しかし、それ以上を知らされていない。
「……オレ様もだ…。一番関わってる血筋なのに、何も知らない…」
フユマも目を伏せて言う。
知らされずに、契約者となり、一族の目的に加担していたのだ。
なごシリは鼻を鳴らすような音を出した。
“じゃあ、少し歴史のお勉強でもしますか…。卯月が知らない、卯月が生まれる前の歴史を…―――”
それは、隠されていた遥か昔の過去。
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