81:ウサギの王様が復活しました。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ユキ!!」
走りながら鮫島はユキの手を取り、男鹿達と同じく外へと転送した。
「神崎君も!!」
なぜか両腕を広げる鮫島。
「絶対飛び込まねーぞ!! 右手だけ出しやがれっ!!」
こんな時にふざけんな、と言いたげに怒鳴りつける神崎に鮫島は「くっ」と惜しげに右手を差し出した。
神崎はその手を繋いで鮫島と目を合わせる。
「絶対に姫川も無事に脱出させろ。てめーもだ」
「……ああ」
短く返事を返し、鮫島は神崎を転送する。
「―――チッ。羨ましいな、まったく!! 助けるどころか殺したい相手だというのに」
愚痴をこぼしながら嫌そうに姫川に手を差し出す。
だが、姫川はその手を取らない。
「どうした? 早く…」
「まだだ! 人間界にあんなバケモン入れてたまるかよ!! 人間界に通じるドアを壊す!! 外で作戦を立てたあとは、次元転送悪魔とやらを使って因幡を助けに戻ってくる!!」
「!! 余計な頭を働かせてくれる…!!」
それならば自分も協力しなくてはならない。
開け放たれたままのドアは目と鼻の先だ。
「ドアを閉めろ!!」
両開きのうち、姫川は右側のドアを、鮫島は左側のドアを外側から閉めようとする。
「っ…んだ…コレ…!!」
「重…い!!」
来た時と違って扉は鉄のように重く、反対側から物凄い力で押されているようだ。
ジジの仕業だろう。
最初に左側のドアを閉めた。
姫川は自身の側面を使って閉めようとしている。
あと半分だ。
「手間のかかる…!!」
鮫島も協力し、右側のドアに両手をつけて力を込める。
本邸の廊下を見ると、廊下を埋め尽くすほどの大量のイバラがすぐそこまで迫っていた。
「少し、時間をくれ」
力を緩めた鮫島は自身の魔力を右手に集中させる。
その魔力は姫川の目にも見えた。
「何する気だ!?」
「このドアごと、魔界のどこかに次元転送させる。一度キミ達を病室の中ごと魔界に送り込んだ時のように…!! ドアを閉めて壊す時間がないのなら、もうそれしかない!!」
本来は気長に集中させるので、切羽詰まった表情を浮かべていた。
「…そっちは任せたぞ」
姫川は最後の数センチのために全力を出す。
「神崎君を残しておけばよかったものを…」
「……人数の温存だ。これ以上減らせてたまるか…!!」
桜の二の舞にはさせない。
「閉めるぞ!!」
姫川は歯を噛みしめて全力でドアを押す。
残り数ミリ。
「ぐ…!!」
バタン!!
「離れろ!!」
ドアを閉めると同時に姫川はドアから飛びのいた。
鮫島は再びドアを開けられる前に次元転送を発動する。
人間界にある『うさぎ小屋』と魔界にある『本邸』を繋いでいたドアは、鮫島の魔力に包まれ、その場から跡形もなく消えた。
ドアがあった場所には、ただの壁だけが存在する。
「はぁっ、はぁっ…」
一気に魔力を使用したので、脱力した鮫島は尻餅をついた。
肩で息をし、額には焦りの汗を滲ませ、ドアがあった壁に背をもたせて座り込む。
「間に合った…。…思ったよりきついな……」
「お手柄だな」
「フン…。このままなごり様を助ける手立てがないと言えば殺すぞ」
「安心しろ。因幡と一緒に助けてやる。…約束だけは守る男だぜ、オレは」
姫川は鮫島を見下ろしながらそう言うと、鮫島に右手を差し出した。
「…どの口が」
呆れる鮫島だが、口元が綻んでいる。
「……なごり様が、これを。何かの役に立つかもしれん」
そう言って渡したのは、なごりのスマホだ。
ロックはかかっておらず、あえてそうしてあるのか誰でも内容を見れるようになっている。
「私は、なごり様の計画が完全に失敗したとは思えない。あの方も、頭が切れる。私より貴様に託した方がよさそうだな」
「……ともかくここを離れようぜ。残党もいるようだ」
「それには同意だ」
鮫島が姫川の手を握り返そうとした時だ。
ズッ!!!
鮫島の腹から、突如、氷のイバラが槍となって突き出た。
姫川と鮫島には何が起こったのか理解できなかった。
「―――な…ぜだ? なぜ…!?」
「復活した我を甘く見過ぎたな、次元転送悪魔」
背後の壁から聞こえた、不気味な声。
何もなかったはずの壁が割れるように、新たな空間が開かれる。
そこからジジがゆっくりと現れた。
「いい魔力だ。それももらおうか」
(空間を…創り…だせるのか…?)
「貴様…の目的は……」
肩越しに振り返る鮫島は血を吐きながら尋ねる。
「最初に卯月の願いを優先させるのだ。人間界を我が手中に収めたあとは、魔界をいただく。それだけのことだ。王の目的は、それしかないだろう?」
当たり前だと言いたげに微笑む。
「鮫島!!」
姫川はスタンバトンを取り出し、鮫島の元へと向かう。
霞む視界でそれを映した鮫島は、傷口から身体が凍りついていくのを感じながら立ち上がった。
「!!」
まだ動ける鮫島にジジは「ほう?」と目を丸くする。
「姫…川……」
(わかっているくせに…、こいつには…絶対に勝てないと……)
『絶対に姫川を無事に脱出させろ』
神崎の言葉を思い出し、うつむいて呆れたように笑った鮫島は、姫川の胸の中心に手を当てた。
「!!?」
突然の行動に姫川は思わず冷静さを取り戻し、動きを止める。
「私も、約束は守る男なんでね…」
顔を上げた鮫島は皮肉な笑みを浮かべていた。
その左顔半分が氷で覆われる。
「フユマ様とユキを頼む…。なごり様も…助けてくれ」
鮫島の次に起こす行動を読んだ姫川は、言葉を発そうと口を開けたが、何かを言う前に鮫島は姫川を転送した。
同時に氷漬けになった右手が砕け散る。
痛みはなかった。
(これでいい…。私の最後の務めは…―――)
家族と再会したフユマ達の光景を思い出す。
あの時に味わってしまった疎外感。
もう自分はここまでだ、と思ってしまったのだ。
(フユマ様…、今度は…家族と共に……)
「……はぁ…」
『てめーもだ』
ため息とともに、最後の神崎の言葉を思い出す。
「食べたかったなぁ…、一口くらい…」
目を閉じて間もなく、完全に氷漬けになった鮫島は、氷の塵となってジジの身体へと取り込まれた。
静寂を取り戻した『うさぎ小屋』。
ジジは静かに笑い、舌なめずりする。
「さて、本当の食事はこれからだ…」
.