81:ウサギの王様が復活しました。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
胸の流血が水たまりのように広がり、モノクロの床を赤く染める。
(冷たい…)
ぼんやりと思った。
胸の中心が凍りつくように冷たい。
(ダメ…だ、みんな…、また…―――心配するから……)
周りが騒がしくなる。
神崎達が何か叫んでいるが聞こえない。
指一つさえ動かすことすらままならなかった。
「我の身体を破壊しなかったのが敗因だ」
起き上がると同時に右手を伸ばしたジジ。
そこから飛び出した氷のイバラは背後から因幡の胸を貫いた。
気を緩めてしまった因幡は避けることも出来なかった。
「桃ちゃん!!!」
悲鳴のような声を上げる桜。
「ああああああああああ!!!」
神崎は声を荒げながら真っ直ぐにジジへと突進する。
ジジは左手を伸ばし、イバラの槍を形成し神崎を貫こうとした。
手負いとは思えない速さで、男鹿は咄嗟に神崎の襟首をつかんで引っ張って槍を蹴り上げる。
「邪魔すんな男鹿ぁ!! 因幡が…」
男鹿の顔を見上げた神崎は言葉を呑みこんだ。
黙っている男鹿は、ベル坊とともに毛を逆立たせ、ジジを睨んでいた。
「はははっ、貴様も激怒しているのか? 蝿の王と、その契約者…。まあしばし待て。我が完全に復活するまでな」
「よ…くも…っ!!」
「待て!! アンタも早まるな!!」
姫川は声を張り上げるが、激しい怒りと悲しみでいっぱいの桜は聞く耳を持たず、目に涙を浮かべたまま大鎌を振り上げた。
「我は痛みを感じぬが、身体の持ち主はそうではないぞ?」
「!!」
それを聞いた桜は、刃先が胸を突く寸前で動きを止めた。
ニタリと整った顔を醜く歪ませて笑うジジは、桜の胸元に優しく触れる。
桜は反射的に飛びのこうとしたが、足が動かない。
「な…っ!!」
誰もが目を見張った。
桜の身体が徐々に氷漬けになっているからだ。
まるで、サタンの石化のようだ。
「…っ、みんな…」
桜は神崎達に振り向き、声を震わせて懇願する。
「桃ちゃ…を、助け……」
完全に氷漬けになって氷像と化した瞬間、
パァン!!
儚く、塵となって砕け散った。
それらはジジの口の中へと誘い込まれるように入っていく。
「我の一部となれ」
言葉を失った。
目の当たりにした絶望に、神崎は両膝をつく。
「うそ…だろ…」
「そんな……」
姫川も我が目を疑う。
「ふむ…。さて、体調も整ったことだ」
自身の手のひらを開けたり閉じたりして確認したジジが次に目をつけたのは、なごりだ。
狙われていることを察したユキはなごりの体を抱きしめるが、「ユキ!!」となごりはユキを押しのけた。
「我の為に一度死ね」
ドス!!
「…っあ゛…ッ!!」
因幡と同じく、胸の中心をイバラが突き破る。
正面から刺され、両手でイバラをつかむ。
その際に、胸ポケットに入れたオモチャの指輪が落ちた。
「なごちゃん!!!」
「なごり!!!」
吐血したなごりは、オモチャの指輪を見下ろした。
遠い昔、ユキにプレゼントした指輪と同じ物だ。
「…っ、ゴプッ」
「嫌…、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だああああああっっ!!!」
錯乱しかけるユキはイバラを何度もコブシで殴りつけるが、ビクともしない。
「!! …ほう?」
「「「「「!!」」」」」
ジジの瞳から、一筋の涙が流れていた。
頬の濡れた感触に、ジジ自身も驚く。
「やはり、母親の愛とは面白い。我にすべてを預けたつもりだったが、自らの身体で我が子を傷つけられ、泣いておるぞ。ふふ…、はははは」
滑稽だと笑うジジに、今度はフユマがブチ切れた。
「てめぇ…、ツバキの身体で…なごりに何してんだぁ―――っ!!!」
瞳を真っ赤にしたフユマは立ち上がり、ジジに立ち向かおうとした。
その姿に、なごりは「ゲホッ」と込み上げる血を吐き出し、言葉を発する。
「鮫…島ぁっ!!」
「!!」
はっとした鮫島はすぐにフユマの目前に移動し、フユマに触れて外へと次元転送した。
「なごり様!!」
「…っ…―――」
口元だけを動かすなごり。
「さあ、我の血となり…命となれ」
因幡の靴からは白い蛍のような光が、なごりの指輪からは黒い蛍のような光が出現し、2人の胸へと入り込む。
ドクン…ッ!!
瞬間、潰れてしまったはずの鼓動と伴う胸の痛みに、因幡となごりは、カッ、と目を見開いた。
「「うああああああああああ!!!!」」
巻き戻るかのように床に広がった血が傷口へ吸い込まれていく。
貫いたイバラと心臓が一体化していくのを感じた。
「因幡!!」
「なごちゃん!!」
傍にいた姫川とユキが手を伸ばしたが、2人の身体はジジの元へと引きずられていく。
眩い白と黒の光が、ジジ、因幡、なごりを覆った。
わずかに垣間見えたのは、ジジの身体が氷漬けになって桜のように散ってしまった光景だ。
光がおさまると、そこにはひとりの人間が立っていた。
「……因幡…か?」
男鹿はその顔を確認する。
目を閉じたその顔は、確かに因幡だ。
しかし、赤のメッシュを残したまま、髪の色は白と黒が交互に線状に染まっている。
「いや…、違う!!」
姫川は目を見張り、断言する。
胸元が大きく開襟された黒のシャツからは平らで程よい筋肉をつけた胸がさらされている。
顔は確かに因幡だが、男の身体だ。
「―――まさか…」
男鹿には心当たりがあった。
それを察し、因幡の顔がニヤリと笑う。
「馴染み深いだろう。しかし、珍しい形態なので驚くのはムリもない」
閉じた目を開けると、黒目の部分は赤く、白目の部分は赤黒く変色していた。
「融合を終え、完成した我をじっくり見ることを許そう。2度と拝めんぞ」
因幡となごりを融合させた、ジジの新たな身体だった。
.