80:たとえ壊れてしまっても。
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霞む意識の中、なごりは自嘲の笑みを浮かべる。
(自分を騙してでも、果たさなきゃいけなかったのに…。躊躇っちまった…!! オレを捨てた母親なのに…!! いや…、本当にオレは……)
「なご!!」
ぐっと悔しさに目をつぶったなごりに駆け寄った因幡は、なごりの体を貫いたままの茨を蹴り砕き、半身を抱き起こした。
「おまえ…!! なんで…!?」
現状に困惑している様子だ。
なごりは薄くまぶたを開け、諦めたように話す。
「ジジを殺して…、全部…、終わらせるつもりだったんだ…。そのためには、アンタの能力が必要だった…」
「!?」
「悪いな…、騙すかたちで連れてきちまって…。でも、ジジは、卯月一族の視覚・聴覚を共有することができる…。だから、正直に話せなかった」
それは初耳なのか、卯月達がざわめいた。
どういうことだ、と隣の者と顔を見合わせている。
「オレは、アンタの母親と同じく、『王の日記』を書斎で見つけて読んじまった…。待合室で語った卯月の歴史…。あの話には、『前』があるんだ。そしてジジとシロト・クロトしか知らない秘密を知っちまった…」
「秘密…?」
「『王の日記』は、一見真っ白な本だが、脳に直接語り掛ける魔書だ。だから、ジジの目には見えないし、聞こえない」
秘密を知ってしまっても、誰にも言えなかった。
知ってしまったことがジジにわかってしまえば、ただでは済まされない。
“なら、なごり…、貴様、初めから裏切るつもりで…”
クロトが責めるように尋ねると、なごりは「そうだよ…」と打ち明けた。
「コハルはどうすることもできなくて逃げてしまったが、オレは違う。ジジが存在し続ける限り、卯月はジジの言いなりだ。親父もユキも、一生自由なんて与えられるわけがない…!!」
「し、しかし、貴様らがここで婚礼の儀をあげれば、すべて手に…―――」
卯月の中のひとりが耐え切れなくなって口を出すが、なごりはその男を睨みつけ、血と唾液を飛ばしながら怒声を上げた。
「すべて終わるんだよ!!! オレ達卯月は、生贄だ!!」
再びざわつく卯月達。
「生贄って…」
因幡が疑問を口にすると、なごりは、玉座の肘掛で頬杖をついて見下ろすジジを見上げながら口を開いた。
「オレ達卯月は、世代を超えて知恵と力を身につけ、そして、身の内の魔力も増長させてきた。…ジジが欲しいのはそれだ。かつての栄光を取り戻そうと…」
「おしゃべりが過ぎるぞ、なごり」
玉座に腰掛けたまま、ジジは手をかざした。
すると、絡み合ってドリルの形になった氷の茨がなごりと因幡に襲いかかる。
「っ!!」
因幡はなごりを肩に担いで後ろに飛んでかわした。
攻撃は続く。
今度はヘビの形となって襲ってきた。
「まだこんな魔力が…!!」
「しゃべんな舌噛むぞ!!」
踏みつければ粉々に砕けるが、新たに伸びる氷の茨は因幡となごりの体を貫こうとする。
「なごり、我は誰も信用しておらん。貴様が裏切る可能性を考えなかったと思ったか?」
「!!」
「悪魔と卯月の間に生を受けた赤子…。産声とともに魔力の制限もできない貴様を処分しようとした我らを、母親が必死で庇っておったのを覚えておるぞ。貴様にクロト継承の才があることはあえて黙り、頃合いを見て、貴様の母親の身体を、我の新たな身体にしたのだ…! この時のためにな…!!」
「……っ!!!」
事実を語られたなごりは唇を噛みしめる。
怒りが激しい波のように全身に広がった。
ジジは残酷なまでに高々と笑って挑発を続ける。
「母の愛とは、王のように偉大だな!! しかし愚かだ!! まだ赤子だった貴様の命、その身を犠牲にしてでも守りたかったのだろう! 少し脅せば、簡単に我に受け渡したぞ!! 我は、シロトとクロトとは反対に、悪魔の身体を借りねば生き続けられんからな!!」
「てめぇ…!!」
ずっと捨てられたものだと思っていた。
湧き上がる怒りに身を震わせ、ジジに手を伸ばす。
「ぐ!!」
だが、因幡はなごりの体を壁際に放り投げた。
壁に体を打ちつけたなごりは痛みに呻き、因幡を睨みつける。
「なにしやがる!!」
「おとなしくしてろ。そんな身体で反撃できるわけねーだろうが。それに、母親の身体なんだろ? おまえが傷つけるのは間違ってる」
「!」
はっとするなごりに背を向けた因幡は、ジジを見上げた。
その瞳は冷たく、静かに憤怒の『赤』を見せる。
「さあ、婚礼の儀を始めようではないか…」
蜘蛛の足のように、ジジの背中から生えた氷の茨が因幡に向けられた。
因幡は怯まず、一歩一歩足を踏み出す。
そのたびに、右足が氷の足跡をつけた。
「楽しそうだな…。けど、何も始めさせねえよ」
体中の血液が沸騰するくらいの怒りが込み上げ、険しい表情を浮かべる。
「身体を借りてるっつったな…? なら、その身体から出て行くまで転がし続けてやるよ…!! 自称・王様!!」
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