80:たとえ壊れてしまっても。
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「因幡桃…!! 付き合ってくれて、ありがとう」
聞こえるか聞こえないかくらいの声だった。
大広間をスマホから放たれる眩い光で包み、大広間にいる全員の目を眩ませた。
これで、自分に注がれる視線は塞いだ。
なごりは弾かれたように床を蹴り、因幡の横を通過して玉座を駆けあがった。
(―――ジジは、因幡桃に魔力を削られてかなり消耗しているはずだ! 『目』を通して傍観していたはずのこいつも、まさかここまでの能力だとは思わなかっただろう。オレの能力もこいつに通用するはず…!! 因幡桃という人間がシロトでよかった!!)
掌を開き、いつでもジジの体に触れられるようにする。
なごりはほくそ笑んだ。
(親父も、ユキも、オレが守る!!! オレが―――!!!)
黒のカーテンを思いっきり開けた。
(こいつを殺して全部終わらせるんだ!!!)
「死んでくれよ、今、ここで!!」
殺意が纏った瞳をギラギラとさせ、なごりはジジに向かって掌を振り下ろそうとした。
しかし、一時的にその動きを止めてしまう。
「…―――…っ!!」
ジジは、女だった。
銀のドレスを身に纏い、オカッパの黒髪と、ツバキのカンザシ…。
幼い頃になごりとフユマの前から姿を消した、母親だ。
「な……んで……」
混乱とともに躊躇するなごりに優しげに微笑むジジ。
写真の笑顔と同じだ。
その瞳はどの卯月よりも濃く赤く、見据えている。
その赤い唇から漏れるのは、カーテン越しから聞こえていた老人のしゃがれ声とは違う、美声。
「どうした? 母との再会に言葉を失ったか? せっかく、我の目の視界を奪ったというのに」
微笑みが、嘲笑へと変貌する。
ドドドッ!!
ジジの白い腕に絡みつく茨が、なごりの体を貫いた。
「…っゲホッ…」
玉座から落ちることなく、天井へと掲げられる。
「なご――――っ!!!」
なごりの血が降りかかり、はっとした因幡は声を上げた。
「数年かけて積み上げてきたわずか数秒が、泡と消えたな、なごり」
ジジはなごりを見上げて鼻で笑う。
「……はぁ…。…ごほっ」
右腕、左脚、左わき腹、右胸を貫かれたなごりは、ため息をつき、血を吐き出した。
「……どうりで…、いないはずだ……」
本邸にいるかもしれないと思っていた母親は、実はここにいたのだから。
滑稽で、自嘲するように笑った途端、体を貫いた茨ごと床に叩きつけられた。
「我が王なり。―――跪け。頭が高いぞ、人間」
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