79:誰の為のウェディングですか?
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鮫島は神崎を壁に追い込み、つかんだ両手を壁に押し付けて身動きを取れないようにする。
「ようやく2人きりになれたね、神崎君…。この時をどれほど待ち望んだことか。怖がることはない。優しくするから。初めてだし、まずはキミの唇に触れる程度で…。あとは徐々に生命力を吸い取ってあげるから」
「あ…、やめ…っ。鮫島…ッ」
ビシャアアア!!!
「ギャァ―――ッ!!?」
背後から無言でデビルズショックを食らわされ、鮫島の妄想がクラッシュする。
「目ぇ覚めたかセクハラ執事」
姫川はこれ以上ない侮蔑の視線を向けた。
口や身体から煙を上げ、床に倒れ伏していた鮫島は、痺れに耐えて起き上がる。
「こ…のクソガキ…ッ! 今いいところだったのに!」
「そりゃよかった。最後までいってたら頭ん中も黒焦げにして妄想すらできなくさせてやる」
顔に青筋を浮かべ、目をギラつかせて睨み合う、鮫島と姫川。
止める者は誰もいない。
うさぎ小屋に足を踏み入れた瞬間、この組み合わせで男鹿達とはぐれてしまったのだ。
どうしてこういうことになったんだ、とどちらも不満だろう。
会話もなく歩き、どこを歩いても同じところをぐるぐると回るうちに溜めこまれていたストレスで鮫島は妄想まで始めたが、その内容が目に見えているかのように姫川は阻止した。
「なんで顔も見たくない声も聞きたくない奴と一緒に肩並べて歩かなきゃなんねーんだ。嫌がらせか」
「それはなごり様に言え。この魔言はなごり様の仕業だ。私達を迷わせている間に式を挙げようっていう魂胆なのだろう。私だっておまえの顔なんて見たくもない。せめてその鬱陶しいリーゼントだけ下ろせ」
「ポリシーだっつってんだろ。てめーに下ろす髪はねぇ」
「ならいっそハゲにしろ」
最悪な組み合わせだ。
悪態は止まらず、苛立ちは募るばかりだ。
「チッ。てめーの次元転送が使えれば希望はあったが…」
「使えてもおまえだけには絶対頼まれても使わせない。勝手に迷ってろ」
「力づくで使わせるに決まってんだろ。オレがてめーに頼むと思ってんのか?」
再び睨み合い、同時に、鮫島は姫川の喉にメスの切っ先をつきつけ、姫川はスタンバトンの先端を鮫島の喉につける。
2人の間に火花が散った。
「ああいえばこう言いやがって。味が微妙そうな生命力のくせに」
「ほーう? そんなに神崎の生命力って美味そうなのか?」
「匂いだけでわかる。極上の味は間違いない。純粋なほど美味いんだ、アレは」
「ぷはっ。神崎が純粋!? 単にバカだからじゃねーのか?」
真剣に神崎を語る鮫島に、姫川は思わず噴き出してしまった。
「おまえのせいで味を汚されたくないんだよ。ちょこちょこいやしく味見しやがって…」
「味見? ……ああ…」
キスのことだと察した。
「次に会ったら今度こそ」
「させるわけねーだろ。あれはオレのモンだ」
「! おまえ…」
曖昧にされていた答えが、ようやく姫川の口から聞ける。
「気のせいだととらえないよう、もう一度言ってやる。オレは神崎が好きだから、てめーに渡すつもりは一切ねぇ。手ぇ出そうもんなら、全身全霊でてめーをブッ殺す」
「…神崎君は知っているのか?」
「ああ。返事はまだだ」
告白したことを伝えると、鮫島は姫川の首元に突き付けたメスを下ろした。
「あちらは曖昧のままか。それはおまえのモンだと言えるのか?」
「言えるね。オレが「欲しい」と思ったんだ。いつか必ず手に入れてやるし、横取りしたら許さねぇ」
そう凄みながら、姫川は鮫島の首元につけたスタンバトンを下ろす。
「タチの悪い男に好かれたもんだ」
「おめーも人の事言えねえだろ。おまえよりかは絶対マシだし、おまえかオレかだったら、絶対神崎はオレを選ぶ」
「大した自信じゃないか。失礼極まりないな」
どっちもどっちである。
鮫島はため息をついて頭を垂れ、しばらくして顔を上げ姫川の目を見た。
「やはりおまえは可愛くない」
呆れたような表情だ。
それでも姫川は口元に笑みを貼り付けて言い返す。
「そりゃ最高だ」
「フラれてしまえ」
「フラれたら潔く身は引くぜ。…たぶんな」
「はっきりしない奴だな」
「それは神崎にも言われた」
「…いつから好きだったんだ?」
「―――…さぁな。気が付いたら、だ。いつからなんて……。あいつとは出会った時から敵同士で、互いに気に入らなかったら殴り合いだし、嫌い同士かと思ったら妙に気があったり…。ひょっとしたら、ずっと前からかもしれねぇな。性別はどっちも男だし、気にかけても見て見ぬフリをしてたのかもしれねぇ」
『おまえ、特別な意味で、神崎が好きなのか?』
ふと思い出したのは、因幡の質問だ。
フ、と笑みがこぼれ、そのまま苦笑いを浮かべる。
「なのにあの女は背中を押すようなことばっかりしてきやがる…。オレが告白した後も自分のことのように心配しやがるし…、本当にお節介な女だぜ」
遠くを見るような眼差しは、呆れるような、自嘲するような眼差しだった。
「認めちまったら、そこまでだろ。オレは神崎が「好きだ」って答えてくれるまで待つつもりだ。卒業しちまったあとだって……」
「そこはさすがに諦めろ。私は諦めずに彼の唇を狙い続けるぞ」
「殺すぞ18禁」
「やってみろよ18歳」
意味不明な言い合いを始め、地味な蹴り合いをしながら廊下を渡り歩く。
その近くの曲がり角では、
「ねー、2人とも行っちゃうよー。せっかく見つけたのにー」
「すまねぇ…ッ。今…、出れねぇ…っっ~~~~」
姫川と鮫島の会話を立ち聞きしていた神崎とユキがいた。
出ようにも出れず、長く聞き入ってしまい、神崎は座り込んで真っ赤な顔を隠すように両膝に顔をうずめていた。
ユキは「モテモテだねぇ」と右手で笑みを隠して冷やかす。
(あのバカが…!!)
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