78:家族愛と友情を甘くみないよう。
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男鹿達は非常階段をのぼって頂上を目指すが、行く手には卯月達が立ちはだかり、進行を邪魔する。
「クソ! 何度めり込ませてもキリがねえな!!」
目の前の敵を殴り飛ばしながら男鹿は舌を打った。
「一般人よりタフだからな!」
そう言う姫川は相手の頬を殴りつけて横転させる。
神崎も階段から蹴落としていた。
「ぞろぞろきてんぞ!!」
後ろからは何十人もの追手が迫っていた。
「こっちは卯月の奴も連れてるから場所はバレバレ。隠れようもないしな」
姫川は後ろを走るユキとフユマを見る。
「オレ様はなにもしてないぞ!」
卯月の瞳の秘密を知らないフユマは、自分が裏切ってないことを訴えた。
「そういうことじゃなくて」
邦枝はわかっていると言わんばかりになだめる。
「……………」
桜は男鹿達とともに階段を駆け上がりながら、肩越しにフユマを一瞥した。
「どうする気だ。全部振り切る気か?」
鮫島は大勢の足音を聞きながら姫川に尋ねる。
「ここで無駄な体力は使ってられねーんだよ」
体力はできるだけ温存しておきたい。
そこで東条が立ち止まり、振り返る。
「よし…!! おまえら、先に行け!!」
「東条!?」
男鹿達は東条の行動に驚き、思わず足を止めた。
「こっちは任せな!! 絶対てめぇらの後は追わせねえよ!!」
卯月達を見下ろしながら東条はコブシを鳴らす。
「おまえ…」
神崎が呟くと、東条は肩越しに男鹿達に怒鳴った。
「いいから行けよ!! こんな奴らのために時間を無駄にしてんじゃねえ!! さっさと因幡助けてこい!!」
コブシを握りしめた東条は、先に追いついてきた卯月の者を殴り飛ばした。
転がり落ちる卯月の者に、下にいた者が巻き込まれる。
「おまえも早く追いついてこいよ!!」
男鹿は一言言い放ち、上を目指した。
同じく神崎達もそれに続く。
背後からは卯月の者の怒声と、打撃音が聞こえた。
東条が足止め役にまわってくれたおかげで、追ってくる者は誰もいない。
階段もいよいよ終わりが見え、屋上へと続くドアが見えた。
「屋上だ!!」
フユマが叫び、先頭の桜がドアノブをまわしてドアを開ける。
途端に、強い風に吹かれた。
最上階は雲にも届くような高さだ。
そこにそびえ立つのは、西洋の館のような『うさぎ小屋』。
シロトとクロトの契約者を隔離しておく建物だ。
うさぎ小屋を囲う鉄の柵には、氷のバラと茨が絡みついていた。
時折、生き物のようにうねうねと動いてる。
「……いつもなら、入る時は簡単だが…」
今もそれが通用するかどうか。
フユマは冷たい汗を浮かべた。
「……罠かもしれませんが、私なら、罠を騙せます」
そう言いながら、フユマとユキに近づき、2人の頭に両手をかざした。
「「?」」
「トラップと、あなた達の視覚・聴覚を騙します。…無音の感覚にうろたえず、前だけを見て進んでください。たとえ何かあったと感じても、けっして…振り返らないように。幻が解けてしまいますから」
「…………!!!」
そこでフユマはあの時のことを思い出した。
コハルが桜とともにうさぎ小屋から立ち去ったあの時のことを。
出て行こうとしたコハルを追いかけたフユマは、茨の罠によって喉を傷つけてしまったのだ。
何度、声をかけても、コハルは振り返ってくれなかった。
それを、コハル自らの拒絶ととらえていた。
「…まさか、コハルちゃんは……」
「……コハル様を憎ませてしまったのは、私のせいです、フユマ様。今だから申します。コハル様は、あなたを見捨てたわけではありません」
目を伏せた桜は、当時の事を認めた。
もし、コハルの視覚・聴覚があったのなら、間違いなくフユマの声に振り返り、喉にケガを負っていたのなら駆け寄っていただろう。
「……桜、教えろ。どうしてコハルちゃんはここを出て行ったのか」
「……―――それは…」
言いかけた時だ。
「危ない!!」
桜の背後に一本の鋭い氷の茨が迫り、気付いた邦枝が木刀で断ち切った。
「これは…!!」
茨が侵入者に気付き、ざわざわと騒ぎ出した。
ヘビのようにうねり、何百本の茨が男鹿達に襲いかかる。
「勘付かれてるじゃねーか!」
“ゼブルブラスト”!!
コブシから電撃を放つ男鹿。
一度は火を上げたが、すぐに氷漬けになって粉々に砕けた。
「なんだ!?」
「ダブ!?」
(効いてねぇのか!?)
「ここでも足止めかよ!! うお!?」
伸びてきた茨に神崎は体を傾けて避けようとしたが、トゲの部分が腕をかすめ、血が流れた。
「気を付けろ!! 茨につかまれば終わりだ!!」
姫川は声をかけ、横から伸びてきた茨を後ろに飛んで避ける。
「わわっ」
ユキはかわしていくが、足がもつれて尻餅をついた。
それを狙って茨が襲いかかる。
「世話のやけるガキだ!」
鮫島はメスを取り出し、ユキに迫る茨を切り落とす。
「ユキ! 早く立て!」
フユマはユキの腕をつかんで無理やり立たせた。
「みんな、屋敷に走って!!」
声をかけたのは邦枝だ。
木刀を構え直し、目を閉じる。
問答無用で襲いかかる茨の群れ。
邦枝の体に触れる直前、邦枝は目を見開き、木刀を振るった。
“心月流抜刀術六式 妖星剣舞”!!
目には見えない無数の斬撃が、自分の周りと、門を塞ぐ茨を散らす。
「今だ!!」
男鹿が声をかけると、一斉に走り出し、門を潜り抜ける。
しかし、一度は散ったはずの氷の茨が再び鉄の柵から形成され、男鹿達を襲おうとした。
そこで邦枝は立ち止まり、木刀を振るって何度も茨を切り刻む。
「邦枝!!」
無事、飛び込むように門を潜った男鹿は声をかけるが、邦枝は門の外に残ったままだ。
門が再び茨で塞がれていく。
「私のことはいいから行って!!!」
それを最後に、邦枝の姿が茨によって遮断されてしまう。
「ダブ…!!」
ベル坊は手を伸ばしたが、戻ることはできない。
「………行くぞ」
ベル坊の頭に手を置き、男鹿はうさぎ小屋を見上げる。
神崎達も睨みつけるように見上げ、神崎は「ついに…」と言葉を続けた。
「来たぞ…、因幡…!!」
.To be continued