78:家族愛と友情を甘くみないよう。

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カザクの羽根が体に突き刺さったまま、春樹はカザクを見据えた。


「おまえは確か…」


カザクは因幡の家族関係を思い出す。


(22代目シロトの弟…。21代目の実子でもあったな…。だが…―――)


口端をつり上げ、挑発的な言葉を吐く。


「これはこれはなりそこない。アンタも飛び入り参加? 大した戦力になるとは思えないっち」

「……………」


春樹は無言だ。

そこでふとカザクは気付く。


(…? オレっちの羽根が刺さってるのに…、こいつ、ふらつきもしねーっち…。やせガマンか?)


視線に気づいた春樹は、自分の胴体に刺さった羽根を埃を払うように取り去った。


「春樹…」


その場に片膝をつき、口から釘バットを離した日向は春樹の背中を見上げる。

春樹はそれを肩越しに一瞥し、また前に向き直った。


「……親父…、いいトシなんだ…、無茶しないでくれよ…」

「おまえ…、桜に眠らされたはずじゃ…」

「今朝、目が覚めて急いで追ってきた…。下の奴らが夏目さん達を目撃したみたいだったから追ってこれた。姉が大変な時に、オレだけ留守番なんて嫌だ…!! もうオレだけ何もわかんねーのは嫌なんだよ…!!」


ぐ、とコブシを握りしめる。

それを嘲笑い、カザクは春樹を指さした。


「ははっ。追ってきたって? 選択を間違えたっちね。おまえのことも下調べ済みっちよ。過去の戦いを見たところ、殺し屋『パンドラ』、卯月ユキに半殺しにされてるっち。卯月の血がちょこっとしか入ってねぇてめーなんざ眼中にねぇっち!」


それを聞き、春樹は準備運動に首の骨をこきこきと鳴らしてから問う。


「…なに威張ってんの、おまえ」

「……は?」

「『卯月』がなんなのかは詳しく聞いてねえからよくわかんねーんだけど…、そんなことより、おまえって、オレを負かした奴らより強いの?」


少しの間が空いた。カザクの額に、ブチ、と青筋が浮き上がる。


「てめぇコラどういう意味だそりゃ…。あ!? あたりめぇだろーが。『パンドラ』みたいなカス共相手に負けてるようなクズより強ぇぞオレっちは…!!」

「誰がカスですかぁ?」

「「「!!」」」


南口から出てきたのは、黒いローブを纏った男女3人組だ。

肩越しに見たカザクは舌打ちする。


「チッ。『パンドラ』…、おまえらの持ち場はエントランスだっち。侵入者がいたらどう食い止めるっち!?」

「あらぁ? 卯月財閥の護衛隊『バッドフラグメント』が侵入者を許すなんてこと…。ああ、空から攻められてまんまと陽動にはまりましたわねぇ」


リーダー格であるピトスが妖艶な笑みを浮かべながら嫌味を返した。


「だったら! さっさと中の侵入者を追うっち!!『バッドパーツ』の奴らが仕留めるならてめーらに仕留めさせた方がよっぽどマシだっち!!」


苛立ちを込めて怒声を上げるが、ピトスたちは引かない。

それどころかカザクの横に並んだ。


「先程の言葉がどうしても聞き捨てならなくてねぇ。仕事を請け負ってる身ですがぁ、そんなに言うなら、あなたが上の侵入者を追った方がよくてよぉ? 私達よりお強いんでしょぉ?」


鼻につく言い方だが、カザクは春樹達を見回し考える。


(……確かに、こんなザコ共相手にするよりオレっちが追って侵入者共を片付けた方が手柄はとれるし、他の護衛共の鼻を明かしてやれる…!!)


持ち場を放棄するのは気が引けるが、目の前の相手は人間だ。

陽動とわかっているのなら長居は無用である。

「くくっ…」と含み笑いする。


「オレっちの代わりを果たせたら、たんまり金を払ってやるっち」

「オマエヨリ、タクサン殺ス…」


カーメンが不気味に笑ったのを横目に見てから、カザクは『パンドラ』と入れ替わるように南口へと向かった。


(ただの人間相手じゃ退屈だ。もっと、オレっちに相応しい相手を嬲り殺して……)


ドガッ!!!


「!!?」


背後の大きな音に足が止まり、振り返る。


そこには、春樹の手によって地面が割れる威力で叩きつけられたカーメンの姿があった。


「ああ…、おまえらか…」


春樹はようやく『パンドラ』のことを思い出した。

姫川の家で焔王とゲーム対戦をしている際に襲ってきた刺客だ。

あの時、桜が助けに来なければどうなっていたことか。

春樹を殺す気で痛めつけていたピトスは我が目を疑った。


「本当にあの時の子ども…!?」


カーメンがあっさりやられてしまい、別人かと思ってしまう。


「その節は世話んなったな、ババア」


初対面の時もそんな罵り方をされた。

ピク、と笑みを浮かべたままのピトスの額に青筋が浮き上がる。


「やはり、あの時の礼儀知らずのガキですか。カーメンは油断しすぎですよぉ…!! ピュクシス!!」


全身黒タイツの女のピュクシスは春樹に突進し、その影に入り込もうとする。

影に入り込まれては最後、ピュクシスは黒の十字架と化して影の主を磔にし、動きを封じてしまう。


ピュクシスが素早く春樹の後ろに回り込み、その影の中に手を突っ込み、ピトスもしたり顔を浮かべた。


同時に、


ドゴッ!!


春樹の回し蹴りがピュクシスの右側面に炸裂した。


「!?」


吹っ飛ばされた体は水きりのように地面に何度も打ち付け、動かなくなる。


「……な…?」

姉直伝の回し蹴り。姉の方が速ぇけど」


ピトスとカザクはぽかんと口を開けたままだ。


「あ…、あれ…?」


報告が間違っていなければ、春樹は『パンドラ』相手にまるで歯が立たなかったとある。

それが、メンバー2人を瞬殺しているのだ。


「……っ…まぐれよぉ…っ。だって、そんなバカな話ぃ…っ!!」


明らかにうろたえるピトスは宙に手をかざし、身丈以上の木の棒を取り出した。

その先端に漆黒の魔力を球状に纏わせて春樹にぶつけようと振り上げるが、春樹はすでに右脚を振り上げてジャンプしている。


「見よう見まね、神崎さんの踵落とし!!」


ガッ!!!


渾身の踵落としがピトスの脳天に打ち込まれ、ピトスは必殺技を出す前に気を失ってしまう。


(私達の出番…、これ…だけなんてぇ…)


カラン…、とピトスの手から放れた棒が塵となって消滅してしまう。


誰もが茫然と始終を見守っていた。悪魔であるはずの3人組が倒れ、春樹がその中心に立っている。


日向は春樹の背中を見据え、その才能を改めて実感する。


(リベンジの才能…。一度ケンカで負けた相手の攻撃・行動パターンを身体で覚え、次のケンカで相手を上回る動きをして勝利する…。春樹に、同じ技は通用しない!)


わが子ながら末恐ろしくも、やはり血は争えないと感じ、苦笑が漏れた。


『パンドラ』が全滅し、カザクははっと我に返る。


「…は…―――」


(話が違う…!! ジジ様に力を分け与えられたわけでもないのに…!!)


予想外の力量に一歩たじろいだ。


「てめぇの定位置に戻れ。堂々と出入口から入ってやるからよ。こいつらより強いんだろ?」

「っ!!」


挑発的に先程いた位置を指さされ、ギリ、と怒りで歯を噛みしめる。


(いや…、だからこそ…、オレっちが負けるわけねぇっち…!!)


「オレっちの毒にやられな…!!」


両翼を広げ、羽根を飛ばした。


「親父、借りるぞ」


前を見据えたまま、日向が落とした釘バットを拾い、春樹は勢いよく振って羽根に当てる。

すると、羽根が上空へと舞い上がった。


「何!?」


そのまま釘バットを手にカザクへと突進する。


「う…っ」


カザクが慌てて羽根を飛ばしても、春樹はものともせずに釘バットで払いのけた。


「親父達との戦いで読めてんだよてめぇのは」

「くっ」


両翼で自分の身を守る前に、


「!!?」


春樹は腕を伸ばし、両翼が閉じ切る前にカザクの顔面をつかんだ。


「あ…がっ」


ミシミシと頭蓋骨が軋み、カザクは脳が圧迫される感覚に耐え切れず羽根を飛ばした。

だが、体に突き刺さってもやはり春樹は倒れない。


(ど…して…っ? 同族でも…っ、オレっちの羽根は…きくのに……)


「ああ、これ。さっきそこのゴミ箱で見つけてな」


カザクの言いたげなことを理解した春樹は、不敵に笑ってシャツの裾をめくり、ベルトで自分の胴体にくくりつけたジャンプの雑誌を見せつけた。

それで羽根から自身を守っていたのだ。


「が…!?」

「戦いを見てたっつったろ…。これは姫川さんの見よう見まねだ」

「っっ…」


ぐぐぐ…っ、とカザクをつかむ春樹の手に力が込められる。


「卯月なんてなんなのかわかんねぇ…。だが、親父にケガさせたり、おふくろを泣かせたり、姉を唆しやがった挙句、オレ達家族に断りもなく連れて行きやがったてめぇらを許す気はねぇっっ!!」

「~~~っっ…」


怒る春樹の右の瞳が赤く染まる。


人間とさほど変わらないとあなどったのがカザクにとって仇となった。


春樹の手を両手で外そうとしたが外れず、脳を圧迫されたカザクは口から泡をふいて気絶した。

両翼は粉々に砕け、カザクの体は膝から崩れ落ちる。


勝負がつき、見守っていた石矢魔OB達から歓声を沸いた。


「…親父、行こうぜ。姉が待ってる」

「…オレも大概親バカだが、おまえも相当な姉バカだな」


春樹に肩を貸された日向は脱力したように小さく笑った。


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