78:家族愛と友情を甘くみないよう。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
東西の戦いの最中、南口では、因幡の父であり石矢魔のOBである日向が、他のOB達を率いて南の護衛であるカザクを相手に苦戦を強いられていた。
氷の翼から矢のように放たれる羽根が刺さった者は、次々とその場に倒れた。
一見外傷は軽いものだが、内部から神経毒に侵され、膝から崩れ落ちて体中が痙攣を起こしてしまう。
“マイナスフェザー(痺れ伏す羽根)”
3本の羽根が日向の右肩に突き刺さり、だらりと日向の右腕が垂れた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
口端から流れるヨダレを左手の甲で拭う。
身体のほとんどが痺れ、立っているのもやっとの状態だ。
「頑丈な奴だっち…」
カザクに面倒臭そうな眼差しを向けられる。
日向の手から釘バットが放れそうになるが、辛うじて動く左手に持ち替えた。
「娘を…、かえせ…っっ」
たとえ一人になっても南口に乗り込む気だ。
カザクは見た目の年相応に無邪気に笑った。
「大人ってしっつこいっちー。滑稽なぐらいさぁ」
「返せっつってんだろーが…っっ!!」
一歩踏み出し、釘バットを振り上げて渾身の力でカザクの脳天に振り下ろそうとする。
ガン!
しかし、背中の氷の両翼がカザクを守るように前面を覆って釘バットを防いだ。
思った以上に頑丈で、バットに打たれた釘が数本曲がる。
「っっ!?」
「たかが人間にこの翼をへし折るのはムリだっち」
両翼の隙間から嘲笑の眼差しが見えた。
そして、数本の羽根が放たれ、日向の左肩に突き刺さる。
ガラン、と音を立てて左手から釘バットが滑り落ち、足下に転がった。
「な…、あ…」
「そんなに神経毒食らってたら、命の保証はないっち…。ま、虫みたいに死にきれず蠢くのが見たくて、即死できないように調節してんだけどね~っ」
「どんな親に育てられたんだ…、ったく…」
悪趣味な性格に日向は引きつった笑みを浮かべた。
「んふふ~♪」
ゴッ!
「っく!」
両腕が使い物にならなくなった日向の左頬を、カザクは容赦なく蹴り飛ばす。
日向は受け身も取れず背中と後頭部を打ち付けてしまい、眩暈を覚えた。
大の字に倒れた日向に、ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべながら近づくカザク。
「日向さん!!」
「クソ!! あのガキ…ッ!!」
仲間達は日向を助けようと一歩踏み出すが、カザクに赤い瞳で睨まれれば体が委縮して動けない。
これ以上近づけば二の舞になるぞ、と脅すように。
「っはは。普通の人間って不便だっち~」
「っ…」
腹を踏みにじられ、日向の口から呻きが漏れる。
「バケモンに囲まれながらの家族ごっこはどうだった?」
「誰が…っ、バケモンだ…!!」
ゆっくりと身を起こそうとする日向だが、カザクにアゴを蹴飛ばされてしまう。
「けど、良質な娘を産ませたことは褒めてやるっち」
「てめーらのためじゃねぇ…!! てめーらのために娘に愛情を注いできたわけじゃねえ!! …―――妻が普通の人間じゃないことは、禅さんから警告されてた…っ。それでも、惚れちまったもんはしょーがねーだろ…っ!! オレはみみっちいことなんざ一切気にしたことねーよ…!!」
日向はコハルと出会った日のことを思い出す。
早乙女が連れてきた美女。
一目惚れだった。
その日から猛アタックを繰り返し、人間から距離を置こうとしていたコハルに受け入れてもらったのだ。
桜がいようと関係なかった。
日向も桜ごとコハルを受け入れた。
「へぇ?」
カザクは一歩一歩ゆっくりと後退し、日向から離れる。日向は腹に力を込めて上半身を起こし、片膝をついて立ち上がろうとした。
「桃ちゃんが生まれて、春樹が生まれて、家族に囲まれて…。仕事は大変だけどよ、たかがガキに、父親の幸せなんざわかるわけがねーよ…」
無理やり笑ってみせる。
「はははっ。たかが人間が何を…」
「たかが人間じゃねえ!! 父親だっつってんだろ!!」
「!」
体中にビリビリと響く怒声。
カザクの笑みが思わず引っ込んだ。
日向は足下に落ちている釘バットを口に咥え、カザクに凄む。
「それ以上ピーチクパーチクさえずってみろ、ブチ打つぞ」
「……過ぎた子煩悩は、死なねえとわかんねーっち?」
カザクが氷の両翼を広げる。
同時に、日向はよろめく足でカザクに突っ込んだ。
それよりも早くカザクの翼から数本の羽根が放たれる。
“マイナスフェザー”!!
「「!!!??」」
その時、日向とカザクの間に、何者かが割り込んだ。
日向を背にし、守るように両腕を広げたその体に、数本の羽根が突き刺さる。
「…あ?」
カザクは片眉をつり上げる。
日向も見慣れた背中に目を見開いて驚く。
「……………」
「おまえ…、春樹…!!!」
日向を庇ったのは、春樹だった。
.