77:昔の敵は今日のなんでしょう。
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不自然な動きもなく、稲荷が仁王立ちでコシュウの前に立ちはだかる。
その表情には余裕の笑みがあり、無理をして歩いているわけでもない。
車椅子に乗ってから立った姿を見たことがなかった豊川達は露骨に驚いていた。
「い…、稲荷さん…っ、足…、立って…」
豊川は震える指先を稲荷の足に向ける。
「いつから…?」
明智が尋ねると、稲荷は「んー…」と思い出そうと宙を見上げた。
それでも何とも言い難そうな顔をする。
「いつからって言っても…、ずっとリハビリしてたから…。早く、復帰しないとって思ってね…。なんとか歩行まで至ったのは3ヶ月くらい前」
「知らなかった…」
伏見が呟く。
「本当はもっと早く切り出したかったけど、タイミングがつかめなくて…。「あ、コレは切り札的なことに置いといた方がカッコがつく」ってね。あと、車椅子の方が長距離がラクだし」
「ふふっ」と笑う稲荷の背後に、コーン、と鳴く腹黒狐。
(こいつ…!!)
寿はしてやられた気持ちになる。
豊川も怒るだろうと視線をやった。
「稲荷さん! 早めに言ってくれても、オレ、稲荷さんのためなら背負ってでも…」
(この馬車馬っ!!)
明らかに責めるところを間違っている。
「ええ加減にせえよ!! 何キモイこと話しとんねんコラァ!!」
青筋を浮かべて待ちきれなくなったコシュウは怒鳴り散らす。
「カッコつけたんが運の尽きやな。調子づいたことしくさって…!! 最初に殺したるわ!!!」
「単にボクが黙って、仲間がやられていくのを手をこまねいて見ていたと思う?」
少しも怯まない稲荷に、コシュウが切れた。
「ほざくなクソギツネが!!!」
能力を発動させ、瞬足のあまり姿が見えなくなる。
それでも稲荷は冷静を保っていた。
豊川達に背を向けたまま声をかける。
「豊川」
「! はい!」
豊川は自分の背丈より長い鉄パイプを稲荷に投げつけた。
稲荷は振り返らず腕を伸ばし、それをつかみとる。
「この手触り、懐かしいな」
ぼそりと呟いて鉄パイプをくるんと回すと、すぐに身を屈めて真上に鉄パイプを突き上げた。
ドッ!!
「っか…っ!?」
真上から襲ってきたコシュウの右脚をかわし、その上、腹の中心に一撃を食らわせた。
「うん、悪くない…。身体の調子もいいし…」
「ぐっ…」
コシュウは一度稲荷から離れ、距離を置く。
稲荷は鉄パイプを指先でなぞるように撫で、言葉を続けた。
「リハビリ(腕ならし)には最適だ」
「ワレェ…!!」
痛む腹を右腕で抱え、挑発的な言葉にコシュウは血走った眼で稲荷を睨む。
「おいおい…、さらにめんどくさくなってんぞ、稲荷の奴」
こちらが優勢だというのに、寿は冷や汗を浮かべた。
「どうやってアイツの位置がつかめたんだ?」
明智が疑問を口にすると、伏見が答える。
「『見』えているんだ…、あの人には…」
「何…?」
「「生まれつき、視力が常人より良すぎる」って稲荷さんが言ってた」
「なのに、自分から出て来ねぇから手も打たせてくれなかった;」
『夜叉』にいた頃は、よく『黒狐』と抗争していたわりに、リーダーである稲荷と直接会ったことが極めて少ない。
頭を潰さなければ『黒狐』はいつまでも執拗に仕掛けてきた。
寿にとっては今は昔の苦悩だ。
「わああああ!!」
激昂したコシュウが稲荷を殺そうと瞬間移動のように別の場所に出現し、足を振り上げては鉄パイプで塞がれる。
(視えてるよ…。呼吸も、地面を削る足下も、寿がつけた傷から飛び散る血も…)
それら一つ一つ見逃さず、攻撃をいなし、反撃する。
「なんなんやおまえはぁ!!?」
「キミの嫌いなキツネだよ…」
バキン!!
一振るいで、両足の車輪が粉々に砕かれた。
宙に投げ出されるコシュウと稲荷の目が合う。
(こいつ…!!)
確かに見た。
薄く開かれた細目からのぞいた、金色の瞳で縦長の瞳孔を。
「うぐ…っ」
受け身もとれず背中を地に打ち付け、呻き、急いで立ち上がる。
(あかん!! コレは、他の護衛から応援呼ばな…っ!!)
たった一人では分が悪いと感じ、逃走しようと稲荷に背を向けて再び両脚に“フローズンウィール”を形成しようとするが、
「!!?」
その前に鉤針付きの紐で体を縛られた。
「なっ!?」
「次は、逃がさない」
明智だ。
逃がしてなるものかと紐を握りしめる。
「豊川、伏見、あいつらに見せつけてやれ…」
稲荷は豊川に鉄パイプを投げ返す。
受け取ると同時に、豊川と伏見がコシュウに突進した。
「待…っ、待ちぃ!! ちょ」
「待た」
「ない!!」
ゴッ!!!
コシュウの頭部に、豊川の鉄パイプと伏見のメリケンサック付きのコブシが振り下ろされた。
白目を剥いて倒れるコシュウ。
観戦していた卯月達がざわついた。
それを横目に、稲荷は嗤う。
「―――黒狐は、虎より強いってことだ」
.To be continued