76:それぞれの想い。
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氷の茨が絡みつき、ヘリを操作していた蓮井は振りほどこうとするが、プロペラを止められて飛べなくなった機体は重力に逆らえずビルの向こう側へと落ちていく。
「はっ!!」
邦枝は木刀で氷の茨を断ち切った。
しかし、
「蓮井! 持ち直せるか!?」
「残念ながら…、プロペラの故障です…!!」
氷の茨に縛られたせいでプロペラの一部を潰されてしまった。
それで諦める男鹿達ではなく、ドアから身を乗り出した男鹿は、ビルとは反対側に手をかざす。
「ベル坊!!」
「ダブダ!!」
手をかざした先に展開したのはいくつものゼブルエンブレムだ。
ドドドンッッ!!
そこにコブシを叩きつけ、ヘリを爆風でビルの壁際まで吹っ飛ばす。
男鹿達はヘリから落ちないように機体につかまった。
「おい!! 激突しちまうぞ!!」
神崎が叫び、それに邦枝が反応する。
迫る壁に向かって居合いの構えをし、目に見えない速さで木刀を振るった。
すると、目前の壁はヘリに合わせて綺麗に正方形に切り取られ、そのままビルの内部に突っ込む。
男鹿達は衝撃に耐えられず、操縦していた蓮井以外そこに放り出されるように倒れた。
「いてて…」
「ニャブ」
「大丈夫?」
「作戦にはトラブルが付き物だ」
姫川はリーゼントを櫛で直しながら言ってのける。
「因幡はすぐ目の前だったっつーのに…」
服に付着した土埃を払いながら神崎は立ち上がった。
「で、ここ、どこなんだ?」
同じく立ち上がった東条は周りを見回す。
「檻…?」
桜は目の前の鉄格子を発見した。
部屋にはベッドが置かれ、床にはテーブルが倒れていた。
「なんで檻みたいのがこんなところに…」
言いかけた直後、神崎の背後に何者かが立った。
「神崎!!」
気付いた姫川が声をかけ、神崎は振り返ろうとしたがその前に相手に後ろから抱きしめられる。
「会いに来てくれたんだね、神崎君…!!」
「どわあああああ!!?」
鮫島だ。
「鮫島!!?」
姫川と神崎は驚きを隠せない。
ゴッ!
「はうっ」
神崎は顔面を殴って引き剥がした。
「騒がしいと思ったら、キミ達か」
「ユキ!」
牢屋の隅にいたユキは平然と言った。
桜は思わず名を呼ぶ。
ユキと面識がない男鹿は「?」を頭上に浮かばせている。
「あなた達、どうしてここに…」
桜が尋ねると、ユキは口を尖らせた。
「それはこっちのセリフだって。というか、先にフユマを助けてあげてよ」
ユキが指をさした方向を向くと、フユマは切り取られた壁の下敷きになっていた。
「フユマ様ー!!?」
労しい姿となって発見されたフユマに、桜が駆け寄り、東条と男鹿の協力して壁をどけて救出した。
「―――いきなりだったから避けられなかったぞ。なんなんだいきなり。傍迷惑な奴らだな」
土埃を払ったフユマは露骨に不機嫌さを見せていた。
姫川はフユマ達と因幡が因縁の間柄であることを男鹿達に説明する。
自分達との関係も。
その間、鮫島を振り切った神崎は、それ以上近づけば噛みつくぞと威嚇するように鮫島を睨みつけた。
フユマは腕を組みながら、自分達が檻に投獄されていた理由を話す。
「―――…冬の間はずっとこの状態だ」
最後にうんざりとした顔で愚痴をこぼし、桜に目をやった。
「桃ちゃんを迎えに来たなら早めの方がいい。今日だぞ、結婚式は。それで卯月の家が安泰するとかしないとか…。今となってはどうでもいい話だ。なごりは「新しい世界を見せてやる」とか言ってるし…。息子の気持ちが、オレ様にはよくわかんねぇ。最近は特にな」
「……………」
桜は押し黙った。
視線が迷う。
ここであのことを口にすべきかどうか。
「私の能力も封じられ、屋敷へ直接行くことは困難だ」
鮫島は手の甲に埋め込まれた結晶を見せつける。
なごりの能力だ。
ユキは額の中心に、フユマは喉元にあった。
ガシャン!!
男鹿と東条が同時に振るったコブシが、鉄格子を簡単に破壊した。
「だったら、直接こっちから乗り込むまでだ」
言い切った男鹿は檻を出る。
幸い、騒ぎのおかげで見張りはいなかった。
「蓮井、ここまでご苦労だったな。あとはオレ達に任せておまえは避難してろ」
「はい。竜也様もお気をつけて。ご武運をお祈りしております」
一礼した蓮井は、ヘリの中にあるパラシュートを背中に背負い、破壊された壁から真下へ飛び降りた。
そして、東邦神姫は男鹿に続いた。
「…ボクも行く」
「おい、ユキ」
フユマが止めようとするが、ユキは足を止めず、男鹿達のあとを追う。
「もう一度なごちゃんと、ちゃんと話がしたいんだ。あれでお別れなんて納得できないよ!」
「…フユマ様はどうなさいますか?」
桜が尋ねる。
フユマは苛立ったように頭を掻き、舌打ちする。
「保護者同伴じゃねえと、ウチのガキ共は何やらかすかわかったもんじゃねーしな」
「お供しますよ、フユマ様。あなたも他人事ではないので」
「あぁ!?」
「置いてかれますよ」
言い方が癇に障ったフユマは鮫島を睨みつけるが、桜はすでに男鹿達のあとを追っていた。
慌ててフユマと鮫島も追いかける。
男鹿達は廊下を駆け、最上階を目指した。
「ふりだしじゃねーだけマシだがメンドクセェ!!」と男鹿。
「それにしても、他の皆さんは大丈夫かしら。私は直接会ったことがないけど、卯月財閥を脅かす侵入者対策に、卯月の護衛が出入口に待ち構えているらしいの。普通の人間じゃ太刀打ちできないかもしれない…。もしかしたら…」
死人が出てしまうのではないかと不安を口にする桜だが、その横を走る邦枝が「心配いりません」と言い切る。
「寧々達だって、強いんです…。負けるはずがありません」
その力を認めているからこそ、信じることができる。
「そうそう。庄次とかおるも燃えてたからな」
東条も心配をしている様子はなかった。
「全員、仕方なくじゃねーんだ。本気であいつを助けたいからここに集まった。それを邪魔する奴らには容赦なんてしねーよ」
神崎が言って聞かせる。
「アンタもあいつらを信じて、道案内に集中してくれ」
姫川が言うと、ようやく不安の色を薄めた桜は、口元に笑みを浮かべて前を向き、「右の角を曲がって。階段があるから」と案内役を全うする。
そして男鹿達が『うさぎ小屋』を目指して階段を駆け上がっている頃、東西南北の出入口にいる仲間達は、劣勢に立たされていた。
それでも、意識がある者は何度も立ち上がり、卯月の表護衛『バッドフラグメント』に立ち向かっていく。
目的は全員同じ、因幡の奪還だ。
寧々達も、夏目達も、日向達も、黒狐達も、他の石矢魔の生徒も、誰ひとりとして逃げ出す者はいない。
.To be continued