75:それでは殴りこみましょう。
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社内のモニタールームでは、バッドパーツが集合していた。
最後に到着したのは、『うさぎ小屋』から戻ってきたフロリダだ。
他の4人は東西南北の出入口に設置されてあるカメラのモニターを凝視している。
「さっきの騒ぎはコレかよ」
楽しげに口元をニヤつかせながらダッチは言った。
応戦している石矢魔の生徒にシルバも「ほう」と感心する。
「卯月の血の者は一般人より戦闘力はあるはずだが…、やるな」
「普段からこちらが訓練を怠っているだけです。劣るのは必然ですよ」
「…行くか?」
タンはシルバに振り向いて尋ねた。
数ならこちらが勝っているが、時間が経つほど騒ぎが大きくなってしまう。
やがて野次馬も駆けつけてくるだろう。
面倒なことになる前に迅速に事をおさめなければ。
「あー、じゃあオレが行って説教してやるぜ」
ダッチが独断で行こうとするので、通過する際にフロリダが肩をつかんで止める。
「待ちなさい」
「んだよ。てめーも遊びてぇのか? オレ最近ストレスたまって××なんだけど」
「黙りなさい、歩く汚物」
「おぶ…っ」
「私だって、せっかく来た若い体をじっくり嬲って調教してあげたいけど」
「てめーこそ歩くSMだろ」
「目くそ鼻くそですよ、放送禁止コンビ」
ライラックがつっこんだが、ダッチとフロリダはスルーだ。
「私達は裏の護衛。たかが人間相手なら、表の護衛が向いてるでしょ」
「……あー、そういやいたな、そんな奴ら。『BF』だっけ? ザコには、ちょっと強いザコをけしかけりゃいいってか?」
滅多にない事態で、顔を数回合わせただけの別の護衛隊だ。
それはモニターにも映った。
*****
東口。
「っ!!」
「きゃあ!!」
「薫! 涼子!」
入口を前に、梅宮と飛鳥が吹っ飛ばされた。
東の出入口から出てきたのは、刀をおさめた鞘を腰に携え、結晶で形成された鱗の鎧を着た、長い黒髪を一束に結んで肩に流した華奢な女性だ。
「通りたければ通るがいい。ワタシの手で、半身を両断されたくなければな」
『バッドフラグメント』-東の護衛・シュンロン。
西口。
「突っ切れ! 入口はすぐそこだ!!」
鉄パイプの先端を入口に向けた豊川が声をかけると、「おお!!」と一斉に黒狐のメンバー達が入口に押し寄せた。
しかし、
「ぐあっ!!」
「うわぁ!!」
一番先頭にいた数人が、カマイタチのようなものに切り付けられて地面に倒れた。
後ろを走っていたメンバーは何事かと目を丸くする。
シン…、と静まり返る中、どこかから金属が地面を滑る音が聞こえた。
「なんだ…? なんの音…」
黒狐の誰もが辺りを見回すが、音の正体どころか出所もつかめない。
「豊川!!」
微かに目でとらえた人影に稲荷が声を張り上げた。
「!!」
微かに目の端に見えた影に、豊川は咄嗟に鉄パイプを縦に構え直し、顔目掛けて突き出されたものを防御する。
ギャンッ!
「っ!」
防いだことで相手の動きが止まり、正体を現した。
「あー、あかん。見つかってもーたっ」
ホワイトタイガーを思わせる模様の髪色で、胸にサラシを巻いた猫目の青年だ。
黒狐達を切りつけていたのは、両足に履いた、結晶で形成されたローラーブレードである。
車輪には黒狐達の血液が付着していた。
豊川から一度距離を置き、不気味な笑みを浮かべる。
「小汚いキツネ共が。次に狩られたいんはどいつや? お?」
『バッドフラグメント』-西の護衛・コシュウ。
南口。
日向達が突入する前に、出入口から堂々と新たな護衛が出てくる。
小柄で、黒髪で両サイドに団子を作り、耳には朱色の羽根のピアス、赤のチャイナ服を着た中学生くらいの少年だ。
驚いた日向は、部下達を手で制して止める。
(ガキ…?)
怪訝な顔をし、他の卯月達を見ると、期待を寄せた目をしていた。
これで侵入を防げる、と確信を得ているかのような。
「おいおい、てめーら大人はガキをけしかけんのか!?」
呆れと怒りで日向が怒鳴ると、少年は「ぷっ」と噴き出した。
その馬鹿にした態度に日向のこめかみに青筋が浮き上がる。
「いい大人が喚くなっち」
「…礼儀を知らないガキだな…。敬語の使い方を教えてやろうか?」
引きつった笑みを浮かべ、釘バットを持ったまま首の骨を鳴らした。
「オッサンこそ敬語使え。オレっちを見下ろすなっち」
瞬間、少年の氷の両翼が背から生えて広げ、氷の羽根が数十本放たれる。
「ぎゃ!!」
「い゛っ!!」
羽根は、先頭にいた日向を通過し、背後にいた数人の部下達の体に突き刺さった。
「おまえら!!」
振り返った日向は倒れた部下達に駆け寄って片膝をつく。
1本だけ羽根が刺さっただけで見た目は大したケガではないが、目をカッと開き、口からはヨダレを垂らしてピクピクと痙攣している。
「神経毒だっち。いたぶるには最高だっち」
ニヤリと口元を歪ませ、「クスクス」と笑った。
「クソガキ…ッ!」
「娘を迎えに来たんだって? いい親バカぶりで腹がよじれるっち。21代目との子どもを作ったなら、オッサンはすでに用済みだっち。今までおつかれさま、パパ」
バイバイ、と手を振られ、激昂した日向は奥歯を噛みしめて釘バットを片手に少年に突進する。
「日向さん!!」
部下が声をかけたが手遅れだ。
少年は鼻で笑い、手をかざした。
「用済みの親鳥は、心置きなく地面に堕ちろ」
数本の羽根が、日向の体に突き刺さる。
地面に向かって倒れる日向に少年は無邪気に笑った。
「あははっ」
『バッドフラグメント』-南の護衛・カザク。
北口。
こちらはすでに交戦中である。
城山と相沢が挟み撃ちして相手の顔面に向かってコブシを突き出す。
バキ…ッ!
「…っう」
「ぐ…っ」
直撃だ。
なのに、痛めたのは2人のコブシだった。
殴りつけた部分は氷に覆われている。
その硬さに耐え切れず、コブシから血が噴き出した。
「だははは!! オラにはぜーんぜん効かねーぞ!! なんだなんだそのひょろいパンチは!!?」
頭にターバンを巻き、剥きだしの半身にはヘビの刺青が彫られた、長身の青年だ。
続いて夏目と陣野も男に挟み撃ちで攻撃を仕掛けるが、男は両手のコブシに氷の纏わせ、向かってきた陣野と夏目の頬を殴りつけた。
「っ!!」
夏目と陣野は全身に響くような強烈な打撃に一瞬だけ意識を飛ばし、地面に叩きつけられる。
「夏目!! 陣野!!」
ケガを負った右のコブシを左手で覆っていた城山は思わず叫んだ。
「この門番…、簡単に通しちゃくれなさそーだ…」
ヒビの入ったサングラスを指で押し上げ、相沢は額に冷や汗を浮かべながら冷静に口にする。
「誰も!! オラの体を傷つけられねーんだよ!!」
両手を空に突き上げ、すでに勝利が見えているような余裕の笑みを浮かべた。
『バッドフラグメント』-北の護衛・ブトウ。
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