75:それでは殴りこみましょう。
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石矢魔町とはまた別の町―――赤都鬼(あかつき)町。
町の中心には、500メートルの摩天楼―――卯月財閥の本社がそびえ立つ。
町全体を見下ろすような高さ。
その外観はさながらバベルの塔を思わせる。
そこで働く者の体には卯月の血が流れている。
さらなる権力と名誉のため、今日も通常通りに見かけるためにそれぞれの役割を果たす。
今日で、一族の本当の繁栄がくることに胸を躍らせた。
招かれざる客が来なければ。
本社の入口は全部で4つある。
東口、西口、南口、北口。
朝からオフィスビルの中にどよめきが起こる。
その四方に、明らかに社員でない群れが現れたからだ。
東口―――。
「お勤めご苦労様」
「お邪魔しにきました」
大森と谷村が先頭に立ち、後ろには得物を手にした石矢魔の生徒達が構える。
驚く卯月の者達を前に、大森は鎖を振るい、谷村はエアガンの銃口を向けた。
南口―――。
警戒して向かってきた卯月の男達を、日向が釘バットで叩きのめす。
石矢魔OB達もそれに続いて向かってきた卯月の男達を殴り蹴りでブッ飛ばした。
「娘を返してもらおうか」
「な、なんだ貴様…」
腰を抜かして見上げる男に、日向は「あ?」と首を傾げ、息を吸い込んで言い放つ。
「父親だ!! クソッタレ!!」
北口―――。
「何が望みだ!? こんなことをしてタダで帰れると…!!」
卯月の男が、夏目、城山、相沢、陣野を睨んで怒鳴るが、まるで聞く耳を持たず一歩一歩と出入口へ向かう。
「望み?」と眼鏡を外す陣野。
「なーに寝言ほざいてんだか」と胸倉をつかんでぐったりしている卯月の者を放り投げる相沢。
「こっちだって、タダで帰る気はないよ」と前を見据える夏目。
「因幡はどこだ?」とコブシを鳴らす城山。
卯月の者達の瞳が、赤く染まる。
自身の瞳を通してジジも見ているとも知らずに。
「ガキが。こっちは一族が何千人いると思ってるんだ」
「今日という日をどれだけ待ちわびたと…!!」
「邪魔をするならこちらも子どもだろうが容赦はしない!!」
卯月の一族は血の気の多い者が多い。
誰もが常人よりも強いだろう。
それでも、怯む様子も見せず夏目達は彼らと向き合った。
西口―――。
ガンッ、と蹴飛ばされた卯月の者は背中を打った。
ずずず…、と鉄パイプの先端を引きずりながら、豊川は遠巻きにこちらを窺う卯月の者達を睨む。
「どいつもこいつも、立派に社会人してますよ、って外面が気に入らねえな」
「そう…だな…」
伏見は頷く。
「クソ…!!」
卯月のひとりがナイフを片手に豊川に突進する。
くるんと片手で鉄パイプを回して迎え撃とうとする豊川だったが、その前に寿が立ち塞がり、自身のナイフで振るわれた刃を止めた。
「実戦は慣れてねえか? そんなので、マジでオレ達とやれんのかよ?」
鼻で笑って力で押しのけ、アゴを蹴り飛ばす。
その横から別の男が狙うが、コブシを振るう前に鉤針つきの赤い紐でがんじがらめにされて地面に転がった。
明智はそれを足で踏みつけ、前を見据える。
「次はどいつが相手だ?」
「なんだ、こいつらは…!!」
卯月の者達がざわつき、豊川は鉄パイプの先端を向けて名乗る。
「『黒狐』だ!!」
背後には部下も引き連れている。
「さて、これで何度目の貸し借りになるのやら…」
奥にいる車椅子に座ったままの稲荷は、妖しく笑った。
「行こうか、みんな」
東西南北の出入口から、誰が合図したわけでもなく空まで轟くほどの鯨波が上がった。
本社の最上階には、大きな庭と館が存在する。
そこが、『うさぎ小屋』だ。
「…!」
かすかに聞こえた声に、自室でフロリダにメイクを施されていた因幡は思わず振り返った。
「あ、ちょっと、動かないでください、22代目」
「……今、何か聞こえた…」
「……………」
フロリダも異変を感じ取っていた。
それでも笑みを作り、「何も聞こえませんよ」と誤魔化す。
ここで因幡を逃がすわけにはいかない。
「ハニー」
ノックは3回。
ドアを開けてなごりが入り、その瞳に因幡の姿を映す。
真っ白なドレスを着、メイクもほぼ完成していた。
「おーっ!! 超美人!! オレのヨメ!! ハァハァ!!」
スマホで何度も撮影する。
「撮んな」
てのひらで顔を隠す因幡。
その顔は、わずかに悲哀が見えていた。
「……………」
因幡となごりの様子を横目で窺うフロリダ。
“フロリダ”
「!」
突然、片耳につけたインカムからシルバの声が聞こえた。
フロリダは因幡に聞こえないよう背を向け、声を潜めて返す。
「やっぱり何かあったの?」
“ああ。そちらの準備は?”
「花嫁様のメイクは今、終わったところ。婿様が迎えに来て、このまま予定通り2人とも本邸に向かうはずよ」
“わかった。見張りを交代させる。一度こちらに来い”
「わかったわ」
通信が切れ、フロリダは一礼して部屋を出る。
しつこく撮影してくるなごりに拳骨をお見舞いした因幡は、フロリダの様子がどこかおかしかったことを感じて窓の外に視線を移した。
(……まさか…な…―――)
胸の内に不安が芽生え、そんなわけがない、と自分に言い聞かせる。
「ハニー」
頭に膨れたコブを擦り、なごりは「行こうか」と手を差し伸べる。
「……ああ」
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