74:檻の中のウサギたち。
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「……ん…」
電気もつけない薄暗い部屋の中、目を覚ました因幡はベッドから身を起こす。
窓からは月明かりが差していた。
いつの間にか、毛布も被らずに眠ってしまったようだ。
スマホを握りしめたまま。
「……………」
もう一度寝転んで目を閉じたが、眠りすぎてしまったのか寝付けず、再び身を起こして伸びをし、ベッドから降りた。
シロトが宿る靴を履き、部屋を出る。
こちらに連れて来られて3日目の昼間に一通り探索したが、夜のうさぎ小屋を歩くのは初めてだ。
(…ここは…―――)
目を留めたのは、部屋を出て少し歩いた先にある部屋だ。
(確か、昼間は鍵がかかって…)
試しにドアノブをまわしてみる。すると、簡単に回転して開けることができた。
「…!」
入るかどうか躊躇うが、辺りを見回して人の気配がないことを確認すると、ドアを開けてゆっくりと中に足を踏み入れた。
誰かの部屋のようだ。
(もしかして…、なごの部屋か?)
壁に連なる棚にはぎっしりと漫画やラノベ、フィギュアが並び、テーブルの上には、なんと3台のパソコンが置かれていた。
天井を見上げれば、萌えキャラのポスターが貼られてある。
(うわぁ。ガチだ)
秋葉原男子の部屋だ。
(やっぱりあいつとは気が合いそうにないな。オレは池袋派)
乙女の聖地を思い出し、一度部屋を出ようとする。
「!」
その時、棚の一角に伏せられた写真立てがあるのを見つけた。
気にかかり、そこに近づいて手を伸ばし、写真立てを立て直してみる。
「これ…」
親子の写真だ。
椅子に座る、オカッパの黒髪にツバキのカンザシを挿した端正な顔立ちの女性と、その両腕に抱えられた1歳くらいの笑顔の赤ん坊、そしてその傍にはフユマが立っていた。
赤ん坊の顔とワカメのような髪には、なごりの面影がある。
(なごの家族……)
自分達の子どもを見つめる両親も、温かい表情をしている。
口元を緩めてしまったが、なごりの話を思い出してはっとする。
今のなごりには、母親がいない。
なごり自身が言ったことだ。
「……………」
現在と過去を比べてしまい、生まれたのは複雑な感情。
じっと写真を見つめていると、突然横からそれを軽い力で取り上げられた。
「!!」
「オレの部屋に来るなら、ノックくらいしてくれないと…。さっきまでいなかったけど」
「なご…」
写真立てを手に取ったなごりは不気味な笑みを浮かべ、それを棚に戻した。
わざと伏せて。
「ハニー、式が決まった」
「え」
「明日だ」
「……………」
「……………」
見つめ合う2人。
先に動き出したのはなごりだ。
両手を伸ばし、因幡を抱きしめれば、ビクッ、と因幡は震えた。
毎度のように調子に乗って抱きつてきたのならば殴り飛ばしているところだが、抵抗はせず、どこか寂しそうななごりに、それだけは許した。
「幸せになろう、ハニー。一緒に、最高の世界を見よう」
(最高の…世界……―――)
ずっと前から求めていたもの。
石矢魔に来る前から。
遠い日の自身を思い出しながら、因幡は覚悟を決めたかのように目を閉じた。
.To be continued