74:檻の中のウサギたち。
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因幡が『うさぎ小屋』にやってきたのは今から1週間前。
石矢魔町を出たその足取りは遅かったが、ただ無言でなごりの後ろをついていき、なごりも文句も言わずその歩調に合わせた。
『うさぎ小屋』に着き、因幡は大きな屋敷を見上げ、驚いた表情を浮かべた。
こんな立派な場所に母であるコハルは住んでいたのか、と。
抵抗は一切見せず、その鉄の柵を潜り抜ける。
入ってから、なごりは忠告した。
「ここに入ったからには、ヘタに出ることはできないよ。出ようものなら、トラップがハニーを傷つけて中に押し戻そうとする。オレは出方を知ってるし、ジジ様の了承を得てるから出ることはできるけど…」
「……………」
門に振り返った因幡は試しに出てみようと一歩下がる。
すると、『うさぎ小屋』を囲う柵に絡みついた茨が集中的に門に集まり、行く手を塞いだ。
その棘に当たる前に因幡は元の位置に戻った。
「ほらね」となごりは小さく笑う。
「…母さんは、ここから出たんだよな?」
「ああ。けど、ひとりじゃない。ハニーのお姉さん…、もう何者かは知ってるよね? そのお姉さんの力で脱出したそうだ。ジジ様を騙した。大したもんだよ」
罠に幻影を見せ、共にうさぎ小屋から抜け出したのだ。
ここから抜け出したことは当人たちから聞いていた。
うさぎ小屋は、見た目は西洋の館のようだが、自分達以外の気配がほとんどなかった。
窓からこちらを窺う者達もいたが、こちらに近寄ってこようとはしない。
噛まれるのを恐れるかのように。
「一応血の繋がりはある。あれでも歓迎はしてくれてるんだ。でも、オレ達は特別だから、妬む奴もいるし、近づけば危ないって警戒してる奴もいる。だから、こうやって「いる」ことだけは確認したいみたい」
飼われているような、嫌な感覚だった。
こんな視線を向けられて過ごしていたのだ、コハル達は。
因幡は早くも嫌悪感を覚え、窺う者達を睨みつけた。
「…何か欲しいものがあれば言いつけなよ。生活には困ることさせないから」
「……………」
宙を見つめる因幡が頭に浮かべたのは、家族と、神崎達。
当然言いつけて与えられるものではなく、払うように首を横に振った。
「欲しいモノは…ねぇな」
「……そう」
心情を察しているなごりは短く言い返し、因幡の手を引いてうさぎ小屋の中へとつれていく。
やはり抵抗はしない。
用意させた部屋に案内すれば、因幡は大人しくベッドに腰を落ち着けた。
なごりはそのまま本館にいるジジへの報告に向かう。
魔界へと繋がるドアを潜り抜けて。
玉座へ向かう途中、待ち構えていたかのように『バッドパーツ』のリーダー格・シルバと、フロリダと出会った。
「これはこれは22代目クロト様」
「ご機嫌麗しゅう?」
「なごりだ。ちゃんと名前で呼んでくれねーかなぁ?」
立ち止まり、口元に笑みを浮かべるなごり。
シルバはシルクハットのツバをつまみ、目元まで下げた。
「―――失礼した、なごり様。今回はお手柄でしたな。ジジ様もお喜びになられておいでだ」
「チョロいもんだって。で、今からジジ様にkwsk報告しにいくから、どいてくれるか?」
「調子に乗ってんじゃねーぞ、××」
肩越しに振り返ると、ダッチ、ライラック、タンが背後に立っていた。
初めからそこにいたことがわかっていたように、なごりの表情に変化はない。
「あなた、何か企んでませんか?」
「企む? 何をだ」
ライラックに問われ、なごりは小首を傾げる。
「とぼけてんじゃねーよ。おめーさ、本館に来るたびに絶対どっか寄り道してんだろ。ネタはあがってんだ」
ダッチはなごりの態度が気に食わず、あからさまに舌を打って指でさした。
「こんだけ立派なお屋敷なんだ。探検したくなるだろ。オレまだ18だぜ? 心はまだまだ少年なわけ」
肩を竦ませて言い返すなごりに、ダッチは「はっ」と一笑してなごりの肩に腕をまわして声を潜める。
「わっざとらしー。ジジサマの弱みでも探してんだろ。なぁ、オレ達にこっそり教えてくれねーかな? たぶん告げ口しねーから。たぶんな」
「露骨な゛喧嘩腰だな゛、ダッチ」
タンはくつくつと笑った。
「ははっ。弱み? 握れるわけがねぇよ」
「!」
ダッチの発言に笑ったなごりは、ダッチの胸倉をつかんで顔を至近距離まで近づけ、赤く染まった瞳と瞳を合わせる。
突然の事にダッチは目を大きく見開いた。
「長く付き添ってるおまえらにも忠告してやる。この『目』は、この『耳』は、ジジ様に一切の隠し事なんざできねーんだ。ヘタにオレの前でジジ様の陰口叩こうもんなら、てめーらがあとで痛い目みるぞ」
「っ」
見下すような表情にダッチはゾッと寒気を覚え、反射的に胸倉をつかんだままのなごりの手を払い、3歩後ろに下がった。
なごりは鼻で笑い、シルバとフロリダの間を通過する。
シルバは肩越しに振り返り、その背中を見送った。
「…チッ。気味の悪いクソガキだぜ。気分××」
「あなたも十分子どもですよ、ダッチ。…このまま彼を放っておきますか、シルバさん?」
「ついに念願の22代目シロトが帰って来たのだ。ご丁寧に、関係者の記憶も消してくれた。疑ってかかるのもほどほどにしておけ。式は近い。我輩達もそれなりの準備をしておかねば。どちらにせよ、なごり様なしでは、婚姻の儀はなりえないのだ」
「当日がたの゛しみだな゛。ククク」
「あー、何かトラブルが起きてくれないかしら…」
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