74:檻の中のウサギたち。
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部屋がノックされ、ドアを開けてなごりが入ってくる。
「しつれ―――」
足を踏み入れる気配を感じながら、窓際に腰掛ける因幡は窓の外から目を離そうとしない。
なごりはテーブルに置かれたトレーに目を留めた。
運んできた豪華な夕食だが、わずかしか口にしていないようだ。
「あらら、また食べ残してる。悪いんだぁ。なに? 早くもマタニティブルー?」
「マリッジブルーな。ツッコミに困る間違いすんな」
品のない間違いに因幡はなごりを睨みつける。
「緊張してるの?」
「するかよ」
「…この館から出なければ、気分転換にどこへ行ってもいいんだよ。書斎で本を読んだり、庭で花を愛でたり、欲しいのなら茶菓子もある…」
「…オレには合わねえ生活だな。この服も同じだ。読むならジャンプかやおい漫画。愛でるのは禁断カップル。欲しい茶菓子は姉貴の紅茶。そして服は動きやすいもの」
着慣れないワンピースの裾をつまみ上げる。
「似合うと思うけどなぁ」
「うるさい」
「オレと結婚すれば、極上の生活が送れるって言っても?」
「…オレは、今のままで十分満足だった」
体育座りして両膝に顔を埋める。
それを見たなごりは肩を落とし、苦笑をこぼした。
「決めたのはハニーだ」
「わかってるよ。文句言って悪かったな。…本当に、あいつらの記憶から、オレの事消えてんのか?」
「ああ。自身の記憶を消せるのは、自身だけ。この1年で関わったこと、すっぽりと抜け落ちてるはずだ。痕跡も消えてる。まるで初めからなかったかのように」
「……そうか。…それでいいんだ」
「……たまには体、動かしなよ?」
「……………」
無言を返すと、なごりは食べ残した食事を載せたトレーを手に、部屋から出て行った。
パタン、とドアが閉じられ、部屋に残された因幡は膝の上に頬をのせる。
「みんな、何やってっかな…」
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