73:――なんて終わらせません。
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下校の時間となり、神崎達はいつものように3人で下校する。
帰路を歩き続ける3人だったが、神崎は途中で立ち止まり、振り返って目先にいる相手を睨みつけた。
「おい、ストーカーみたいについてきてんじゃねえよ、姫川」
「てめーらがオレの前歩くからだろうが」
ムッと顔をしかめた姫川は言い返す。
腹を立てた神崎は自分の後ろを人差し指でさした。
「だったら先に行けボケ!」
「―――というか、今日は車じゃないの? 姫ちゃん」
「オレだってたまには徒歩で歩きたくなるんだよ」
「ふぅん?」
夏目は意味ありげな笑みを浮かべる。
「……神崎、オレに言う事、何かなかったか?」
「さっさとオレの前から消えろボケナス」
「求めてんのは悪態じゃねーんだよ。返事…。そう、返事だ。保留のままにしてることがひとつあるだろ」
「てめーに返す返事なんざ…………」
『好きだ』
「……………」
いつ、どこでかは覚えていない。
だが、神崎は思い出した。
姫川に告白されていたことを。
次に、キスされそうになったことまで思い出した。
すると、みるみると顔が赤くなっていく。
「え………と………」
「神崎さん?」
「どうしたの? 顔が真っ赤…」
「神崎?」
顔を覗きこむ3人にはっとし、振り返って全力で走り出す。
「あ」と姫川達は声を揃えた。
(いつオレ告られた!!? いつ!!? どこで!!? つか、なんで保留に…、どうして…、なんでオレはすぐに答えられなかった!!? あいつのこと、嫌いなはずなのに、わけわかんねーよ!!! なんでだ…っっ!!)
頭の中はぐちゃぐちゃだ。
大切なことを記憶できないほど馬鹿でも薄情でもないはずなのに。
思い出そうとしても、虫食いのように思い出は穴だらけだった。
「!!!」
目的もなく真っ直ぐに爆走していると、すれ違い際、真っ白な髪が目の端に映り、思わず足を止めて手を伸ばした。
「きゃっ」
肩をつかんで止めた人物は女だ。
手には近くのスーパーに寄ったのか買い物袋を持っていて、その隣には、この辺りの中学の制服を着た男がいる。
「あ……」
顔を見合わせるが、見覚えのない人物だ。
こんな美しい真っ白な髪、会っていたら忘れるはずがない。
神崎は手を放し、一歩後ろに下がった。
女は怯えることなく、茫然と神崎の顔を見つめている。
だが、神崎のいきなりの行動に警戒したのか、男は女を背に庇うように前に出て神崎にガン垂れた。
「何だよアンタ、おふくろに何か用か?」
「おふくろって…」
見比べてみるが、どう見ても男の姉にしか見えない。
それほどに女の容姿は端麗で若々しかった。
「悪いな…。人違いだ……」
「ナンパならよそでしな」
「違うっつってんだろ。いきなりつかんじまったけど」
喧嘩腰の男にムッとするが、女は「コラ」とやわらかく男を叱る。
「やめなさい、春樹。人違いならしょうがないでしょ」
「けどよ、おふくろ…」
「聞き分けのない子に夕ごはんは当たりません」
「ちょ…っ」
見た目は姉弟だが、会話は確かに親子だ。
「すみません」
「あ、いや…」
頭を下げられ、悪いのはこっちなのに、と神崎は困ったように後頭部を掻いた。
「神崎くーん」
後ろから姫川達が追いかけてきた。
「神…崎……?」
「ん?」
名前に反応した女に、神崎は怪訝な顔をする。
その表情を見た女は慌てて、なんでもないのよ、と両手を振った。
「今、描いてる漫画で似たような名前があって…。偶然ね…。ごめんなさい」
恥ずかしげに笑う女。
それから、ペコリ、と頭を下げて男の袖を引っ張ってそこから去った。
「……………」
神崎はそんな2人の背中を見つめたまま、動かなかった。
「なんだよ。いきなり走り出したかと思えば、ナンパか?」
「違ぇよっ。…どこかで会ったことある気がしたからだ」
夏目は遠くなった女の背中を見つめる。
「真っ白な髪だねー。遠目からだったけど、美人だったし」
「オレ、呼び止めてきましょうか?」
勘違いして余計なお節介をかけそうになる城山を「やめろ」と一声で止める。
「……………」
姫川も、その背中に何か感じたのか、見つめたまま動こうとしない。
「……………」
神崎はその顔を見つめ、姫川も同じ気持ちになっているのではないかと勘繰る。
自分達は一体どうしたものか。
ぐちゃぐちゃが収まらない。
「……あ、そうだ」
突然夏目は両手を鳴らした。
何か閃いたようだ。
「オレ達もう卒業決まったし、お礼参りに行こうよ。せっかく4人いるんだしさ」
「おいおい、随分と物騒なこと言うじゃねえか。参るほどのお礼はなかったと思うが…」
「気分転換か?」
モヤモヤを打ち消したいがために、神崎と姫川は話に乗ろうとするが、2人が考えているのは暴力的なお礼参りの方だ。
「気持ちがいいくらい勘違いしてるね2人とも。そっちのお礼参りじゃなくて…。ほら、正月にクイーンの神社で絵馬かけたでしょ?」
「ああ、そういえば…」
冬休み、年明けに邦枝の神社に初詣に行き、卒業祈願をしたことを思い出す神崎。
「オレは行ってねーけど」
その時の姫川は鷹宮の一味に潜入して調べ込んでいた。
「ってことで…」と行こうとする姫川だったが、夏目は帰ろうとする背中をつかまえて「そんなこと言わないで、姫ちゃんも一緒に」と引き込んだ。
夕日も沈みかける頃、神崎達は神社にやってきた。
長い石段をのぼり、境内に足を踏み入れる。
訪れる参拝客はおらず、神主の姿もなかった。
「ちっせぇ神社だな」
境内を見回す姫川は呟く。
「あ。あったよ」
夏目が指さす方向には絵馬掛けがあった。
あれから2ヶ月が経過したので自分達が掛けた時より大量の絵馬がかけられていた。
「うわ。増えたね」
「オレ達、確かこのへんにかけましたね」
城山は中央から右の絵馬を指さす。
「まだ残ってるか?」
神崎は確かめるために自分達が掛けた場所から絵馬を一枚一枚めくっていく。
「本来は触っちゃダメなんだからな。バチ当たるぞ」
「姫ちゃん、誰に注意してるの?」
まったく見当はずれな方向に向かって注意する姫川に、夏目と城山は首を傾げる。
「お、あった」
最初に見かけたのは夏目、次に城山、次に神崎だ。
共通して『卒業できますように』と、それぞれの名前が書かれてある。
「……あ?」
「どうしました?」
自分の絵馬を手に取った神崎は、その後ろの絵馬に怪訝な顔をし、姫川に肩越しに振り返った。
「姫川、おまえ本当にここに来てねえんだよな?」
「ああ? だから、ヒマなてめーらと違ってこっちは忙しかったっつーの」
「だったらなんでてめーの絵馬がオレの後ろにあるんだよ」
「は?」
神崎の隣に移動した姫川は、それを確認した。
『卒業できますように 姫川竜也』。
絵馬にはそう書かれてある。
「…おまえらの誰かが書いたんじゃねえのか? これ、オレの字じゃねーぞ」
城山と夏目は否定する。
もちろん神崎もだ。
「大体、これ、500円かそこらへんの安物の絵馬だろ? オレがこんなの購入するとでも思ってんのか?」
どんなものでも姫川はケチらずに購入する。
掛ける絵馬なら、一番高い絵馬を購入して掛けるだろう。
姫川をよく知る神崎達は同意する。
「だったら同姓同名か? 姫川竜也なんて名前、そうはねーと思うがな」
「おめー、全国の姫川竜也に謝れ」
「本当に書き覚えないの? 姫ちゃん」
「だからねーって」
「けれど、偶然神崎さんの後ろに掛けられていたのなら…」
「……おい」
書き覚えのない絵馬を手に取った姫川は、その後ろにある絵馬に気付いた。
「これよぉ…」
「あ?」
名前は書かれてない絵馬だ。
こう書かれてある。
『神崎 姫川 夏目 城山が 無事に卒業しても 変わらず ずっと 一緒に いられますように』
神崎達は凝視する。
『変わらず』という言葉が気になる。
まるで、いつも一緒にいたかのような。
「…………オレ達のことだよな?」と姫川。
「…なんか…、不気味な話なのに…、不思議と…不気味じゃない…」と夏目。
「ああ…」と城山。
「……誰だよ…。一体…、誰なんだよ…」と神崎。
思い出そうとすれば、何かに邪魔されるようだ。
虫食いだらけの記憶。
きっとその穴は、そのままにしてはいけない穴なのだろう。
そこには、何が埋まっていたのか。
「神崎さん!」
「おい!」
不意に眩暈を覚えてよろめく神崎を、姫川が手を伸ばして受け止める。
「姫川…、オレ達……」
「ああ…、何か…忘れてんだ…。いや、忘れさせられた…。だって、おかしいだろ…。なんで誰も『それ』を覚えてねーんだ…!?」
思い出そうと奥深くに踏み込もうとすれば、途端に何かに邪魔される。
姫川は神崎を支えたまま片膝をつく。
「姫ちゃん!」
(オレ達は…、何を忘れさせられたんだ…?)
夏目も思い出そうとするが、やはり2人のように眩暈を覚えてしまう。
「こちらへ…!」
城山が手水舎へ神崎達を誘導し、酌にくみ取った水を飲ませた。
「……姫川、悪魔でも記憶をいじることってできるのか?」
「チートに近い連中だからな。可能だろ」
ここまでくれば、思い当たるのは悪魔の所業。
男鹿に聞けばわかるのではないかと考えたが、その考えはこの1週間を通して痛感していた。
男鹿も、『それ』を忘れていたからだ。おそらくベル坊も。
自分達と同じく違和感は感じていたようだが。
「クソ…ッ」
募るイライラに耐え切れず、神崎はズボンの左ポケットに手を突っ込んだ。
しかし、ヨーグルッチがなかったのか今度は右ポケットに突っ込む。
「…1コだけ残ってた」
「こういう時でもヨーグルッチか」
「うっせぇ。飲んだら頭が冴えるんだよ」
屁理屈を言って右ポケットからヨーグルッチを取り出す。
その際、ぽと、と何かがつられて落ちた。
「何か落ちましたよ」
拾い上げた城山は神崎に手渡す。
「なんだそれ」
「さあ…、御守りみたいな…」
神崎は見覚えがなく、片眉をつりあげてつまんだそれを目の前に垂らして見つめる。
小さな赤い小袋。
刺繍で『御守り』と書かれてあり、軽く握れば何が入ってあるのか硬い感触があった。
「……なんか入ってるな」
気になれば躊躇うことなく御守り袋を開け、中身をてのひらに落とした。
出てきたのは、小さく折り畳まれた紙。
「なんだ?」
姫川達の視線も集中する。
「……………」
神崎はひろげてみた。
紙は2枚重ねて折り畳まれていた。
1枚目は、解読不能な文字が連ねられた紙。
もう1枚は写真だ。
修学旅行で、花澤のカメラで撮影された写真で、焼き増しして聖組に1枚ずつ配られていた。
この1枚もそのひとつなのだろう。
だが、まるで間違い探しのような違いがあった。
席に座っている邦枝の隣で、少し膝を折って左手でピースを作った女。
先程会った真っ白な髪の女だ。
「さっきの女…」
「どうしてここに……」
次に目を移したのは、姫川と神崎の真ん中にいる、キャンディーを咥えながら笑みを浮かべて右手でピースを作った人物。
オールバックで、前髪の一部が赤メッシュの…。
「「こいつ……」」
神崎と姫川の声がハモる。
はっと顔を見合わせた2人は、か細い声でその名を口にする。
「「 」」
同時に、紙に書かれた文字が光り、魔法陣のようなものが浮かんだ。
それは上空へ飛び、大きく展開する。
「「「「!!!!」」」」
瞬間、空白の記憶が、呼び起こされていく。
“クライムカード・イノセンス”
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