71:オレは女です。
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因幡と男鹿はグラウンドの中心に、向かい合わせで立っていた。
因幡はキャンディーを口に咥え、男鹿は準備運動なのかベル坊ととともに背伸びをしている。
因幡が男鹿に勝負を持ち掛けたことであっという間に騒ぎは広がり、聖組はもちろん、他の教室からも生徒がグラウンドの端に集まって観戦しようとしている。
教室や廊下の窓、屋上から窺っている者もいた。
野次馬の群れを掻き分け、駆けつけた神崎達はよく見えるように野次馬の先頭に出る。
「神崎先輩、姫川先輩!」
声をかけられ振り向くと、邦枝と東条と古市が傍にいた。
「どういうことなの? 何か聞いて…」
「何も聞いてなかったからこうして遅れて駆けつけてきたんだろうが!」
因幡が男鹿に勝負を持ちかける意味も理解できず、神崎は遮るように邦枝に言い返した。
「……………」
姫川は黙ったまま、男鹿と向き合う因幡の背中を見据えた。
「どーゆー風の吹き回しだ?」
男鹿は手をプラプラと振って手首の運動をしながら尋ねる。
因幡は口角を上げて答えた。
「別に。風の吹き回しどころか、いずれはこうなるはずだったんだ。初めて会った時、オレはおまえに勝負に持ちかけたが、結局、決着は着いてない」
ベル坊の電撃で2人とも気を失ってしまったのだから。
因幡は男鹿を人差し指でさし、目つきを鋭くさせた。
「東邦神姫や殺六縁起に勝ったからって、まだ終わってねーよ。終わらせてたまるか。藤の一件でオレは確かにおまえを認めたつもりだが、あくまで「つもり」だ。あんな紋章1つで納得できるわけねぇだろ。…やっぱり、“男なら”、コッチ(コブシ)で素直に認めさせねえとな。石矢魔らしく。―――オレだって、それなら気持ち良く受け入れられる」
「へっ…」
小さく笑った男鹿は頭にのっているベル坊の脇を両手で抱え、地面におろした。
「ダブ」
男鹿の意図を察したベル坊は東邦神姫の元へ行き、そこで行儀よく正座する。
「こっちはベル坊なしで戦う」
「こっちも、シロトは使わない」
“桃…!”
「出てくるなよ、シロト。オレの本来の力だけでやらせてもらうぜ。この勝負だけは…!」
小声でシロトに念を押す因幡。
シロトはそれ以上何も言わず、ただため息だけをついた。
“不良とは…、男とは、よくわからんものじゃのう”
今まで女性にしか継承されてこなかったシロトには理解できないものだろう。
シロトの呟きに笑みをこぼした因幡は、男鹿を見据え、真剣な表情になる。
目を閉じたベル坊は手を上げ、目を開くと同時に手を振り下ろす。
「ダッ!!」
それに伴い、因幡は舐めきったキャンディーの棒を地面に吹き捨て、弾かれたように地を蹴った。
「「ああぁあああ!!」」
互いに突進し、右脚を突き出した。
足裏同士がぶつかり、弾かれた衝撃で地面を滑るが体勢を保つ。
よろけた男鹿が前を見た時には因幡はいつの間にか懐に潜りこみ、前髪をつかまれた。
ゴッ!
「―――っ!!」
因幡の膝蹴りが男鹿の額に打ち込まれる。
ドカッ!
「ぐっ」
だが、勢いよく顔を上げた男鹿の脳天が因幡のアゴに直撃した。
よろめく両者。
それでも互いから目を離さず、隙を与えることなく次の攻撃に移る。
「あぁあっ!」
「うらぁぁっっ」
男鹿の背中に回り込んだ因幡は半回転して回し蹴りを食らわせ、体勢を崩した男鹿だったが振り返ると同時に突き出した右脚を因幡の腹に減り込ませる。
地面に肩がつく前に手をつけて受け身をとり、また男鹿に突進した。
その背中に背負ったものを欲するように手を伸ばし、コブシを握って男鹿の右頬に打ち込む。
男鹿の反撃も速い。
因幡の手首をつかんで背中から地面に叩きつけた。
「かは…っ!」
それでもその状態から左脚を突き上げ、男鹿のアゴに食らわせた。
石矢魔の不良達は野次を飛ばすことなくその戦いを静かに観戦していた。
中には、「もしかしたら因幡が…」と因幡の勝利を予想する者までいる。
「因幡…」
「少し出遅れたか」
神崎が呟いたあと、横から意外な人物たちが出てきた。
「!! おまえら…!!」
車椅子に乗った稲荷と、それを押す伏見、その傍には豊川、明智、寿がいた。
他のメンバーまでいる。
突然現れた『黒狐』に神崎達は驚きを隠せない。
「黒狐…」と姫川。
「どうしてあなた方が?」と古市。
稲荷は微笑を浮かべ、スマホを取り出して神崎達に見せつける。
「早朝、アバレオーガと勝負をつける、って連絡を受けてね…」
「石矢魔最強との決着、生で観戦したいだろ」
「バイク…、飛ばして…きた……」
「車椅子のおまえは何で来たんだ?」
姫川の質問に、稲荷は笑顔で「タクシー」と答える。
暴走族のような集団の中を、しかも先頭を走らされたと思うと、「その運転手、運が悪かったな」と哀れになった。
観戦客に目もくれない因幡と男鹿は、ひたすら殴り合い蹴り合いを続ける。
「うぁあっ!」
右足を高々と上げた因幡は、男鹿の左肩に踵落としを落とした。
「っ」と呻いた男鹿は、手を伸ばし、因幡の胸倉をつかんで引き寄せ、その顔にコブシを打ち込もうと振りかぶる。
「!!」
ヒットすれば意識をすべて持っていかれるだろうコブシがすぐそこまで迫り、因幡は歯を食いしばり、コブシが自分の顔を直撃する前に男鹿の胸に蹴りを入れてブッ飛ばした。
ビリ…ッ!!
その際、男鹿がつかんだままだった胸元の服が破れてしまう。
その拍子に、正月にコハルからもらったお守り袋が落ちた。
瞬間、観戦していた者達は驚きのあまり目を剥いた。
破れた学ランの下からは、膨らみのあるサラシが丸見えだ。
男鹿も大きく目を見開いている。
しん…、と静まり返る中、古市は言葉を発した。
「お…、女…!?」
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